ご子息の中学受験 ショーペンハウエルが求めたものとは?
お受験に熱心な大学の同窓生から興味深い話を聴いた。
某予備校の国語の採点である。「振り子の針は何を示していますか」という問いに対して「常にとどまることのない振り子は、自分の気持ちを優先すれば家族が離れ離れになり、東京で家族と住むことにすれば自分はいじめに耐えねばならないという心の葛藤を示しており、さらにその音によって選択を迫られる緊張感を醸し出している」という、友人曰く「どだい普段はうんこ〇んこしか言ってない小学生が記述できる答えではない」正答が掲げられているそうだ。
ご子息の解答を見てみよう。
「どちらからの意見に賛同するならば、もう一方の意見についてはあきらめねばならず、なのに自分のわがままをつらぬことがよいのか(ここで断筆)」
これが0点となってしまったらしい。国語については、心情や論点を当人の言葉である程度語られているのであれば、部分点が付くのではないかということを、他の模試等を通じて感じたそうだ。ひとまず、それはさておこう。
私が見る限り、ご子息は振り子の比喩するものを把握しているし、とどのつまりはどちらの意見に与すれば、もう片方の意見は棄却しなければならないのだから、まことに簡潔に本質を捉えているように思える。やや具体性がないといえばそうだが、簡にして要を得るという点では卓抜である。採点を機械的につけなければならなかったにしても、本文を抜き取るような問題は別として、国語の記述問題というものに、P=E×Iのような万人共通の解答が見いだせるはずもないとすれば、0点というのは私には厳しいというか、これ以上、何を解答したらいいのかという心持ちになる。
続いては、某模試に出たショーペンハウエル「読書について」の一文「白墨で文字を次々に重ねて書いた黒板を考えてみたまえ、最後は何も読めなくなるではないか」の意味を問う問題で、この表現で筆者の言いたいことを問う問題の解答は、「多くの本を読み本に書かれた他人の考えをたどることだけを繰り返すと、自分で考える力を失うということ」
ご子息の解答を見ていこう。
「やたらに多読を続けてしまうと精神が麻痺してしまうだけなので、元も子もなくなってしまうということ」
これに15点中8点の部分点がついたそうだ。ショーペンハウエルは私も読んだことがある。岩波文庫版を読めば、多読によって、自分で考える力が失われるということは容易に結論に結び付けやすい。
しかし、ショーペンハウエルが言いたかったのは、考える力が失われた結果に生じる影響についてではなかっただろうか。哲学者が単に「多読すると思考力が失われるよん」という因果関係だけを述べるはずがない。その論拠とともに、その影響についても考えるはずだ。
そういう具合に読んでいくと、ご子息の解答というのは、思考する力が失われたあとの影響についても述べられている。つまり、精神が麻痺してしまうということである。加えて、どのような個人的・社会的影響があるかということについても短文でよく押さえているように思う。つまり、「元も子もなくなる」という短文のことである。
たしかに、最後の部分は抽象的であり、精神が麻痺することで、本当に元も子も無くなるのかという突っ込みはありえるけれども、市井の民であれば、「多読して精神が麻痺してしまったら元も子もないよね」という結論で充分に得心できる理屈として理解されるはずだ。これ以上に何を求めようというのだろうか。
たしかに一般の中学生以上の知識を求めさせることも必要だろう。知識がなければ、それをもとに理知的に幅広い視野で考えること(人は知識が無くても考えることはできるけれども)は可能であろう。だが、それこそ、毛も生えていないような子供たちに高度に抽象化された問題を出し、しかも、その解答の正答の枠を狭めるというのはどうなのだろうか。それこそ、白墨で文字を次々に重ねて書いた黒板しか見えなくなるのではないか、と他人事ながら気になったし、こうした問題で続々と「正答」を得た人たちが、いわゆる一流校に入り、そして、社会に出るとなると、複雑な気持ちにさせられる。
言ってしまうと、私自身も大学に関しては、高学校歴の部類に入ると思う。そのことを前提としながらも、やはり、複雑な気持ちにさせられてしまうのだ。
なお、ショーペンハウエルが本当に言いたかったことは果たしてどうだったのかということを知りたい方は実際に読まれるとよい。「読書について」は比較的簡易でページ数も少なく読みやすいので、速読や哲学書、人文書に親しんでいる方ならば、一日で読み終えるはずである。アマゾンのアフィリエイトをしているので、ご購入の際は下のリンクからしていただけれると、雀の涙(数円ほど)ほどのお金が入ってくるので、ご協力のほど、よろしくお願いします(笑)今のところ一円も入っていませんし、出金するには五千円以上入らないと無理という鬼〇な仕組みとなっております(笑)
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