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理想と現実のギャップを嘆くだけでは世界は変わらない。一緒に行動変容をデザインしてみないか。 with ワークショップレポ

「本当はこういう行動が取れればいいのにな」「現状のよくない状態から抜け出すにはどうしたらいいんだろう」 ーー。こういったことは誰しも日常の中でたまに考えることだと思う。でも多くの場合、ただ過ぎ去ってしまうままにするか、単純に思いつくアプローチ方法をやってみて一時だけ改善しても、いつしか元の状態に戻っていたりしないだろうか。行動を変えるというのはそれほどに難しい。なぜなら変えたいと思っている今の行動は、これまでの過去の環境の中である意味最適化されてしまった習慣だからだ。

私が所属しているハルモニアではまさに行動変容を起こすためのフレームワークを研究している。行動変容について詳しく知りたい人は社長である松村のこちらの記事を参考にしていただきたい。

そんな中、わたしは今回このフレームワークの活用可能性を深めるために、デザイナーの知人を集めてワークショップを開催した。この記事は、冒頭にあったような「現状から抜け出し、理想の行動をとりたい」という悩みを持った個人や組織のために、ワークショップのレポと私が行動変容というテーマについて思うことをまとめてみた。もし同じような課題で悩んでいる人がいたら、きっと参考になるはず。

私たちにはマーケットインとプロダクトアウトの中間が必要だ

私はこれまでずっとマーケットイン(ユーザーニーズにフィットする価値提供)でデザインを構築してきた。しかし、私たちが今直面している課題は、ただ欲しいものを差し出せばいいものではなくなっている。

例えばプラスチックによる環境汚染は長いあいだ問題になっているが、便利な素材であるからこそ世界的に普及したこの物質は、なかなか「はい、使うのやめましょう」とはなり得ない。しかし、いつまでたっても分解されないプラスチックが海洋生物を不必要な死に至らしめているのは確かだし、生態系が崩れることで、すでに私たちの食生活にも打撃を与えはじめている。私たちは欲望のままに生きてきた長い年月の負債を払う時代に来ている。

だからこそ、欲求起因の「こうしたい」よりも理性的な改善活動のために「こうあるべき」を必要としていると思う。マーケットインの対義語にプロダクトアウト(技術を持っている側の理念による価値提供)という言葉があり、多くの場合それはユーザー視点が欠けたネガティブなものとして捉えられがちだけれども、これからの時代はこの言葉を少し違う視点で見てもいいのかもしれない。私たちにはプロダクトアウト視点の意思を持った未来像とマーケットイン視点のユーザー心理に矛盾しないインターフェイスをブレンドして調和を生み出していくことが求められていると思う。

行動変容では結果ではなく習慣をイメージすることが重要

さて、ここからは実際のワークショップの内容を踏まえながら、行動変容デザインのプロセスと見逃せないポイントを書いていく。

ワークショップの様子

最初のステップでは、誰のどんな行動をどんなふうに変えたいか定義を行う。よくある間違いパターンとしては、このステップで行動ではなく結果を書いてしまう場合あるという点だ。

第一 ステップ

例えばダイエットをしたい人が「80kgある体重を60kgにする」というふうに定義してしまう場合などが該当する。一見、現在の状態とゴールのイメージがはっきりするので問題ないような気がするが、ここには落とし穴がある。結果はあくまでもある瞬間の状態でしかなく、持続性がないということだ。無事に体重60kgを達成したとして、そのあともとの行動に戻ればリバウンドしてしまう。つまり、ここで重要なのは結果につながる「習慣」を定義する必要があるということだ。

習慣とは、ある一連の行動がその人にとって当たり前になっている状態のこと。ワークショップは、参加者の皆さんにあらかじめテーマを考えてきていただいたもの、実際に言語化する際には悩む場面も見受けられた。

ここでおすすめしたいのは、進行形の言葉をイメージして定義することだ。例えば「〇〇している」「〇〇できている」という言葉で表現してみると、行動や習慣としてイメージしやすい。ぜひ迷った際には、こういった言葉尻で考えていただきたい。

課題の表層からより深い因果へディープダイブしてみよう

第二のステップでは、定義したテーマを深く分解していく。人は多くの行動を無意識でやっている場合が多いが、少しそれについて考えてみる時間になる。理想とする行動が取れていない背景には何があるだろうか?課題となる行動をとってしまっている背景はなんだろうか?

このステップでは私たちがシーソーモデルと呼んでいるフレームワークを使う。理想とする行動の動機とコスト(コストは障壁と言い換えても良い)を考えうる限り書き出してみる。対象者が理想の行動が取れていない背景には、動機が弱いか、またはコストが大きすぎてシーソーがコスト側に傾いている状態がある。

シーソーモデルの例

ここで最初に定義した「誰の」という視点が生きてくる。シーソーモデルはあくまで行動を変えたい対象者視点で書かれなければいけない。デザインシンキングでいうところの共感フェーズになるわけだが、シーソーモデルで書き出すことで、心理状態を定量的に感じることができる。

今回のワークショップの参加者はUIデザイナーのみなさんだったので、共感フェーズはスラスラと書けていたように思う。また、シーソーモデルで書き出したおかげで現状の理解が深まり、課題となっている行動が繰り返されている理由や、理想の行動をとることがなぜ難しいのか、原因がとても腑に落ちたという声を聞くことができた。シーソーモデルを描くだけでも十分なインサイトになっているようだった。

ワークショップの様子

構造がわかれば理想の姿がデザイン(設計)できる

これまでの内容は、いわば今どんな状態になているのかを分析・理解するためのフェーズだったが、もちろん理解するだけでは行動は変わらない。ここからは理想の行動を取るための仕掛けをデザイン(設計)していく。

ここでもシーソーモデルで考えてみる。今コスト(障壁)側に傾いているシーソーを動機側に傾けるためには、どんなことが必要か思いつく限りのアイディアを出していく。単純に考えれば、動機を大きくするアプローチか、コストを小さくするアプローチが選択肢にある。まずはとにかくたくさん書き出してみて、最後に最も有効そうなものをいくつかピックアップしてみるのがおすすめ。

シーソーを逆転するイメージ

そして忘れてはいけないのは、行動はほったらかしておけば元の慣習に戻る力が働くということだ。人は毎日ほとんどのことを無意識下で行なっているので、なにもなければ身体や思考はこれまでの行動パターンで記憶された選択肢を取り続けてしまう。シーソーの逆転でその瞬間だけでも重みを変えることができたのなら、その後それが習慣として存続していけるような仕組みを一緒に設計することが重要だ。

逆転したシーソーを持続的に支える仕組みを考える

ここはクリエイティブな作業になるため、ワークショップでも時間は多めにとりたい部分になる。また、自分だけではなく他者からアイディアをもらうのも違った視点を得られるという意味で非常に刺激になる。とういことで、ワークショップでは自分のアイディアを書き出す時間と隣の人からアイディアをもらう時間の二部構成で行なった。シーソーモデルで考えることで初見でも動機とコストの構造が把握しやすく、よりよい構造デザインのための議論が捗ったようだった。

多数を率いるなら局面を捉える

さて、シーソーを傾ける仕掛けが設計できたとして、あとはそれを実行していくことになる。そして事業や社会問題を解決するような大きなことをやるためには、自分以外の賛同者を募る必要が出てくる。最初の賛同者たちは自分の周りからポツリぽつりと集められるかもしれない。そしてその先は、初期の賛同者集団の関係者たちを巻き込む、あるいはネットや媒体の力で遠くまでリーチして仲間を探すことが可能かもしれない。いづれにせよ現実世界でシーソーを傾けるには、おもりがだんだん釣り合って、逆転する瞬間が来るイメージを持つ必要がある。

何かが流行る段階イメージとしてはよくイノベーター理論が挙げられるが、それをシーソーの傾きを合わせて考えてみることにしよう。アーリーアダプターが初期の賛同者、マジョリティ層がその後のフォロワーとして、どんな仕掛けが必要だろうか?ワークショップでは、シーソーの傾きと行動変容における賛同者の増加をストーリー仕立てで組んでいった。

ワークショップの様子

ストーリーというものは強い。そこにビジョンと物語があると、実際にはまだ起こっていないことでも、まるで経験事のように感じることもできる。研究では、記憶(=過去を思い出す)という行為の正体は、想像の一形態に過ぎないとも言われており、想像がより具体的にできるほど腹落ち感や共感が増す事象は、誰しも経験済みではないだろうか。記憶も想像も脳の海馬で処理され、どちらもより良い未来の選択肢を取るために役立てられれているからだ。

このシーソーを逆転させるための具体的なストーリー(道筋)が設計されていると仲間を巻き込むためにも説得力が増すし、同時にどういった層でどの程度の変革を起こせればいいのか、局面を俯瞰して捉えることもできる。ワークショップは限られた時間だったけれども、このストーリーを最後に共有し合った際に、「それなら行動変容が起こりそうだ」といった具体的な感触や、「関係者の空気が変えられそうだ」といった抽象的な手応えまで感じることができた。

さいごに:言うは易し行うは難し。仮説検証とサポートで地固め。

ひととおりワークショップが終わってから、逆にワークショップの評価を聞いてみた。NPS評価では得票が8~10で平均9.5ポイントという、ありがたいことにかなりの高評価をいただけた。特にどんなところが喜ばれたか聞いてみると、行動変容デザインのフレームワークに則ることだけでも気づきがあったことに加え、ファシリテーターやアドバイザーによる壁打ちで思考が深まったことが大きく評価された。

ワークショップの様子

私たちはこのフレームワークはオープンソースにして、もっとたくさんの人に活用してもらいたいと思っている。なぜなら冒頭にあったような欲求だけでは解決できない社会課題は溢れているし、社会だけではなくて個人視点でもより良い自分に変わりたいという人の背中を押したいからだ。

だからどんどん活用してほしい。でも型を聞いただけでは使いこなせない場合があるかもしれない。ワークショップ参加者のコメントどおり、壁打ちによってより良い行動変容デザインが可能な場合があるかもしれない。そういう時はぜひハルモニアを頼ってほしいと思う。

それにデザインはできたとして、そのあと行動変容を実行して、上手くいかなかった施策を改善して、さらに持続可能なものに落としこむためにはどうしたらいいか?自力でできる人は別として、多くの場合は迷うこともあると思う。ジム通いが自分で続かない人はパーソナルトレーナーが必要なように、マインドセットの定期的なメンテナンスや構造的に行動変容を後押しできるシステム作りがあればより確実にそれらが達成できる。ハルモニアはそれができる。また行動変容デザインのハブとして、賛同者同士の情報交換の場も積極的に設けたいと思っている。もし、自力での行動変容デザインと遂行が難しいと感じた人は相談してほしい。

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