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「コールドスリープ ー希望のプレゼント」ショートショート

コールドスリープという言葉を知っているだろうか?

冷凍睡眠ーー冬眠のように時を止め、眠り続ける技術だ。

そんなもの。ごくふつうの人々にとっては、興味がないことだろう。

しかし、僕にとって、それは夢の技術だった。


産まれた時から不治の病に犯されていた。
自由を制限され、日々、なんとか生きることだけがやっとの日々。

現代医学ではどうしようもないらしい。
はるか未来、医療技術が発展した暁にはどうにかなるものなのだろう。

しかし、現代医学ではどれだけ莫大な金額をつかっても、絶対に直すことは不可能らしい。

日々つらくなっていく症状。

ひとはいつか死ぬ。けれども、それを前提に生きるのは辛すぎる。

日々、生き抜くことが辛く、自分はいつも愚痴ばかりこぼしていた。

しかし、ある日、家族がコールドスリープの話を真面目にしてきたのだ。

最初はばかな、と思ったが、話を聞いてみると、現実的な話のようだった。
技術的にはすでにクリアし、それを実行することも可能だという。

手渡されたパンフレットやいくつかの資料に目を通して、自分が求めていたものはこれだ、と思った。

高額な料金がかかるかと思ったが、それは保険などでなんとかなるらしい。
高額は高額だが、通常医療を継続することと比べて、ほぼ相殺されるような計算になるらしい。

あとは自分自身の決断だけ。

そして自分はその決断に迷わなかった。

ようやく。

ようやく、生きる希望を見出すことができたのだ。

治らないとわかっている治療を続け、家族にも負担をかけ、そんな日々を延長させるだけの日々。

命を経つことも考えたが、それも家族が悲しむから決断できなかった。

しかし、この方法をとれば、未来を夢見ることができる。


そして、当日、家族との別れを告げ、自分は専用のカプセルに入り、眠りについた。

いつも眠る時は明日が怖かった。
けれども今日だけは。今回は違う。

次に目覚める時は、きっとーーーーーー


そして、自分は満足にーー幸せに眠りについた。



ーーーーーーーーーーーーーー

「これで完了です」
「・・・・・ありがとうございました」

家族は、その装置を準備してくれた医者にお礼をいった。

「よかったのですか?」
「はい・・・・最後の最後に、、、あの子をおくることができて、よかったです」

そう母親はお礼を言った。

そして、そのカプセルは葬儀業者に引き取られ、そのまま火葬場へと行く。


これは夢を叶えるサービスではない。夢を見せるためのサービス。

だからこのサービスを利用した者が2度と目覚めることはない。

それでも最後の最後に、夢を見せたいときに利用されるサービスなのだ。




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