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「アバター生活 仮の姿に仮の言葉に仮の意識と本当の自分」ショートショート

アバターとは仮想空間上の自分のキャラクターを昔はいっていたらしい。
しかし、いまではアバターとはもはや自分自身だ。

昔からアバターに自分の理想を重ね、アイデンティティを持っていたひとがいたらしい。

昔は奇妙な目で見られたらしいが、いまでは一般的になりすぎて逆にそんな目でみられることはない。

アバターなしで外にでるのは、怖い とかそういうレベルでさえない。

アバターなしで会うことはマナー違反だ、という一昔前に化粧をせずに人前にでるなんて、ちゃんとスーツを着ないでビジネスシーンにでるなんて、みたいな感覚といえば少しはわかってもらえるだろうか。

仮想空間だとそうならばリアルはどうなのか、と思うかもしれない。

昔は仮想空間と現実に乖離があった。

女性だと思っていたら男性だったとか、容姿が全く違っていた、というものだ。

けれども、それも技術の進歩で変わっていった。

ARの技術は進歩し、また仮想空間の利便性を現実世界に落とし込もうという発想で、もはや「グラス」を視覚に備えていない人はいない。

グラスを通して、見る世界は、仮想空間とリンクする。

そのため、リアルで会う時も、その人の姿はアバターと瓜二つだ。

基本解除はできないので、いまあっている美女が、本当に美女かはわからない。

しかし、一生解けない魔法ならば、現実との区別はつかないだろう?

一時はルッキズムを助長するとか言われたが、世の中に普及すると逆にそういったものはなくなった。

生まれ持った性差や見た目などから完全に開放されたのだ。

そして、だれでも究極的に望み通りの外見を手に入れられるようになった時、もはや美を目指すことは、数ある目標や理想の一つに落ちてしまった。

だれもが憧れる美女や外見に、クリックひとつで慣れてしまうのだ。
誰もが。そうなっては憧れの抱きようもない。

アバター生活は 世の中からひとつしがらみを無くしてくれたのだ。

「そうだね」

「うん」

そんなことを考えながら、美女との会話を自分が続ける。

といっても、これもアバターが行ってくれている。

アバターには外見のほか、生活補助のためのAIが仕込まれている。そのため、設定をしておけば、勝手に応対をしてくれるのだ。

昔は手動で、返信を返していたらしいがそんな煩わしいことからも解放された。

そんな横柄なって? そうはいっても、相手もこちらに合わせて、適当な話をA Iが振っているかもしれないんだ。

そこはお互い様だ。


ーーヴゥン


一瞬、視界にノイズが走る。

なにかの呼称か、一時的な高負荷だろうか。

その瞬間、風景の中から美女の姿が消えた。

現実であっているとはいえ、相手も現実にその場にいるとは限らない。

「いま、ちょっと変だったね?」
再び現れた美女は、そういって会話を続けてきた。


その相手は本当に実在するのか、わからない。
実在する、という識別をされているだけで、完全なAIとの区別が行われているだけだ。

「そうだね」

ぼくもAIが返す。

彼女が実在するか、わからない。


けれども、ぼくも、本当に実在するか、自信がない。

なにもしなくても、どこにもいなくても、


僕のアバターは、僕の役目を果たし続けるのだから。



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