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連載小説「オボステルラ」 【第三章】15話「強い男」(1)


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第三章の登場人物



15話 「強い男」(1)


 少し時間は遡って、リカルドとナイフ、エレーネが卵男の探索に出かけた後、拠点の寝室。

大人達の目論見通り、ミリアも最初こそゴナンの汗を拭いたりとあれこれ世話を焼いてはいたものの、次第に長椅子でウトウトとし始めた。リカルド自慢のこの長椅子、とにかく座り心地がいい。リカルドも夜にこの椅子でお酒を飲みながら、寝落ちすることもあるという代物だ。

 少し経って、ゴナンが目を覚ます。薬は飲んだが、あまり熱は下がっていない。

「…ゴホッ、ゴホッ……」

ゴナンの咳に、ミリアもビクッと目を覚ました。眠そうなミリアの様子を見て、寝起きと熱でボンヤリしながらゴナンは声を掛ける。

「……ミリア…。ほら、眠たいなら、こっちにおいで。横になって寝てしまいな」

そういって掛け布団を上げ、「ほら」と自分の横に入ってくるよういざなうゴナン。ミリアはギョッとする。

「……」

「…ミリア?」

「…ゴナン…。気持ちは嬉しいのだけど、成人を3年後に控える淑女にその声かけは、いただけないわよ」

少し冷めた目でそう指摘するミリアの言葉に、ゴナンはハッとして、自分が何を言ったのかに気付く。少し顔が赤らんだのは、熱のせいだけではない。

「あっ、そうか……、ごめん。つい、ミィ…、妹と同じ感じでいて……」

「……妹さん…」

故郷で亡くなってしまったという、ゴナンの妹。本当によく面倒を見て、可愛がっていたのであろう。ゴナンのミリアに対する所作を見ていると、それがよく感じられる。

「…じゃあ、俺が起きてベッドから出るから、代わりにミリアがここで寝なよ」

「それではあべこべよ。わたくしはあなたの看病を担当しているのよ。わたくしは大丈夫」

体を起こそうとするゴナンを止めたミリア。ゴナンは仕方なく、元通りに横になる。ミリアはゴナンの額からずり落ちた濡れタオルを取って、水に浸して絞り、また額に乗せる。その冷たさに気持ちよさそうな表情のゴナン。

 ミリアは、そんなゴナンの様子をじっと見つめて、申し訳なさそうな表情をした。

「……ゴナン。この前は頬をはたいてしまって、ごめんなさい」

「えっ?」

「あなたは何日もひどい環境にいて、熱も高かったのに、わたくしは自分の思いばかりぶつけてしまって…」

叩かれた、という記憶がほぼ残っていないほど、ささやかな可愛らしいビンタではあったが。ゴナンは優しい目線をミリアに向ける。

「でも、俺が悪かったんだし。……心配してくれてありがとう。迷惑掛けてごめんな」

「……」

少し落ち込んでいるようなゴナンの表情を見て、ミリアはさらに尋ねる。

「……あなたはどうして、時折、自分にガッカリしているような顔をするの?」

「……?」

「あなたは何でもできるのに」

そう言われて、ゴナンは少し驚いた表情をする。

「…いや、俺は何もできないよ。それで1人で焦って、馬鹿みたいに騙されちゃって、このザマなんだからさ……、ゴホッ……」

「でも…」

ミリアはもう少し自分の思いを説明しようとしたが、ゴナンが苦しそうに咳き込み、また熱で辛そうな表情を見て、自重した。

「……咳、苦しそう」

「…うん…、俺、やっぱり、体弱いのかな…。兄ちゃん達にも、いつも言われてたけど…」

「…」

ミリアがその問いに答えられずにいると、ゴナンはそのまま、またぐったりを目を閉じる。ミリアは彼の眠りを妨げないよう、無言でその様子をじっと見ていた。



(……ゴナン。あなたがストネの街で守ってくれたとき、わたくしに手をさしのべて、果物をくれて、頭を撫でてくれて…)

ゴナンは間もなく眠りに入ったようだ。すうすうと寝息を立て始める。ミリアは、ゴナンと二度目に会った時のことを思い出していた。

(あのとき、お兄様があなたの体を借りて、ようやくあの日の果物の約束を果たしてくれたのだと思ったのよ…)

図らずも同じとき、ゴナンは同じように、ミリアに亡き妹を見ていたのだが。

(わたくしが一番欲しかったものを、あなたはくれたの。そんなあなたに、『自分は何もできない』だなんて思ってほしくないのに)

こみ上げてくる何かをこらえるようにぐっと唇を引き締めて、ミリアは目を閉じた。そしてそのまま、またウトウトと自分も眠りに入っていく。




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