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連載小説「オボステルラ」 【第三章】14話「ふたたびの遭遇」(2)


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第三章の登場人物



14話 「ふたたびの遭遇」(2)


 翌朝。

「さあ、あの巨大鳥に会いに行きましょう!」

リカルドの拠点に集まった一行。ミリアは張りきった声で、そう皆に宣言した。ゴナンはまだ高熱が下がらず、寝室で寝込んでいる。

「いろんなあれこれですっかり忘れていたけど、巨大鳥に肉薄したって話だったね」

リカルドが思い出す。そのおかげで、ゴナンの居場所を知ることができたのだった。ミリアは頷いて、背筋をすっとのばした。

「そうよ、リカルド。ゴナンも無事だったのだから、鳥と卵探しに専念できるわ」

「背中に乗ってた女の子も近くで見たんだったね」

「ええ、顔も覚えたわ」

エレーネはそう口にして、ミリアをちらりと見る。

「背格好はミリアにそっくりだった。年頃も同じくらいに見えたわね。茶色い髪で…、肌は褐色気味で、少しエキゾチックな顔つき」

「うーん。茶色い髪の女の子……。ゴナンがミリアを見かける1年前に、北の村で鳥の上で見たっていう子と、同じっぽいな…」

「それで、服装に特徴があって…」

「服装?」

「ええ、おそらくだけど、コビナ衆国のどこかの部族の服のように思えたの。どの部族かはわからないのだけど……」

「あっ……!」

そのエレーネの言葉を聞いて、ナイフが声を挙げる。

「そうよ! 卵男も、ちょっと変わった服を着ているように思っていたのだけど、あれも部族の服っぽかったわ! ミリアの服の柄に雰囲気が似ている…」

「……!」

リカルドは腕を組んで考える。コビナ衆国とは、ア王国の東側に隣接する国で、20の部族が集まってできている。

「巨大鳥の故郷は、もしかしてコビナ衆国なんだろうか…。確かにあの国には、ポー族のように対外的に開かれた部族と閉鎖的な部族があって、外国人にとっては未開の地も多くあると聞くし…」

「そして、鳥を乗り回している子と、卵を背負ってうろうろしている子は仲間、ってことなのかしら…。でも、目的が分からないわね…」

うーん…、としばし悩む一同。

「昨日、飲みに行ったついでにいろいろ噂話を仕入れたけどね、相変わらず卵男はうろついているみたい。私は会えてないけど」

「そう…。ねえ、提案なんだけど」

エレーネが、皆に向かって顔を上げた。

「ひとまず今日は巨大鳥は置いておいて、その卵男に絞って探してみない?」

エレーネのその提案に、ミリアは少し驚いた。彼女は卵には興味がないと言っていたからだ。

「エレーネ? でも、鳥は…」

「……水場のある地域までは距離もあるし、探索エリアも広すぎるわ。卵はこの街の飲み屋街っていうごく限られた地域だし、直近で目撃情報もあるのなら、かなり絞りやすいように思うけど」

そう言いながらミリアを心配そうに見るエレーネ。リカルドとナイフは、エレーネの提案の真意を理解した。

 努めて元気そうに振る舞ってはいるが、昨日のディルムッドの話を受けて、やはりミリアは落ち込んでいる。連日の長時間の乗馬も相まってのことだろう。表情には明らかに疲れが出ており、目の下にはくっきりとクマが出ている。背筋もいつもより丸まり気味だし、いつもあんなに気を払っている寝癖も今日はピョンと跳ねたままだ。本当は休ませたいところだが、ミリアは逆に無理矢理にでも張り切ろうとしている。




「そうね…」とナイフは腕を組んだ。

「あの卵男の素早さは、とても厄介なの。本気で追いかけるなら、リカルドとエレーネと私の3人で対応した方がよいかもしれないわね。ミリア、あなたは危ないから、来てはダメよ」

「でも、わたくしも…」

「あなたにも大事な役割があるわ。ゴナンの看病をしてあげて」

ナイフはそう提案して、エレーネに目配せした。エレーネも軽く頷く。リカルドが付け加える。

「そうだね、適材適所だよ。今日の場合は、ミリアには看病に専念してもらった方がよさそうだ」

「……ええ、そうね。わたくし、走るのはあまり速くないから…」

そう口にして、リカルドに真っすぐな瞳を向けた。

「正式な看病とは何をすればよいのか、教えてくださる? 完璧に看病して、ゴナンの熱を治すわ」

「正式……? ふふっ。看病だけではなかなか治らないよ、でも、頼もしいな」

そう微笑んで、早速、ミリアに看病のノウハウを伝授し始めた。寝室に入ると、その気配でゴナンが目を開けた。熱でボンヤリとした表情だ。

「……ゴホッ…。どうしたの?」

「今日はミリアが看病をしてくれるから、何をすればいいか教えるところだよ」

「……そう…。ありがとう……」

そう言って、またゴナンは辛そうに目を閉じた。痛々しい表情でゴナンを見るミリア。

「…まあ、基本的には寝ているゴナンを見てて、汗がひどかったら汗を拭いて、おでこに乗せている水で濡らしたタオルをたまに交換して…。喉が渇いてそうだったら水をあげて…。そんな感じかな」

「……ええ、分かったわ。汗と、タオルと…」

真剣にリカルドの指示を聞くミリア。リカルドは小屋のリビングから、チェアをガタゴトと持ってくる。背もたれが程よくリクライニングしていて、柔らかいクッションが施されヘッドレストも付いている長椅子だ。

「……? リカルド。その椅子は、この寝室には少し大きすぎるのではなくて?」

「看病には必要なんだよ。この椅子にゆっくり深く座って看病するんだよ。この椅子からゴナンの様子を見るんだ。ああ、膝にブランケットも掛けた方がいいな。温かい飲み物を淹れていくから、それを飲んでね。持て余したら、本棚の本を読んでてもいいから」

「? ええ……」

ミリアは首を傾げつつ、従った。恐らく看病と言ってもほとんどやることはない。この座り心地がとても良いチェアで、しっかりとミリアにうたた寝をしてもらおうとの、大人達の悪巧みである。

「じゃあ、僕らは行ってくるよ。お昼御飯はキッチンの方に買ったのを置いてあるから。来客はないとは思うけど、もし誰かが来ても応じなくていいからね。『居留守』、わかるかな? 中に誰も居ないふりをするんだ」

「わかるわ!居留守。実践するのは初めてだけれども」

「居留守、頼むよ」

そう笑って、3人は拠点を出発した。





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