連載小説「オボステルラ」【幕章】番外編2「ゴナン、髪を切る」(4)
<<番外編2(3) || 話一覧 || 第四章1話(1)>>
第一章 1話から読む
番外編2 「ゴナン、髪を切る」(4)
「はあ…。一時はどうなることかと思ったよ。ありがとう、ナイフちゃん」
拠点への帰り道。先を歩くゴナンの後ろ姿を見ながら、リカルドはナイフに礼を述べた。
「変な悪知恵働かせて、ゴナンを試すような物言いをするから、報いを受けるのよ」
「…」
ナイフの厳しい指摘に、シュンと落ち込むリカルド。
「素直に『床屋なんか目指さずに、これからも一緒に旅に来てほしい』って言えば済む話だったんじゃないの?」
「そうだけど、でも、ゴナンの気持ちを否定したくはなかったから…」
「それで、うっかりゴナンが手元を離れたら、元も子もないじゃない」
「…そうなったらそうなったで…、仕方なかったよ…。ゴナンにはゴナンの人生が、一番だから」
「……」
そう口では言いながらも、絶対にゴナンとは離れたくないという表情をしているリカルド。ナイフにはどうにもよく分からないが、彼の中で大きな葛藤が渦巻いていたのは確かだろう。
「…それにしても、ゴナンは恩を返したり誰かに尽くしたり、誰かの期待に応えようとすることに、とてつもなく熱意を出すわね。それはそれで良いことではあるかもしれないけど、場合によってはちょっと危うくはないかしら」
「……」
リカルドも、同じことを感じていた。そもそも、巨大鳥と卵探しを一番に考えてはいるようだが、どうにもそれも「自分のため」ではないように思えるのだ。
「…もっともっと、自分の欲に素直になってほしいんだけどなあ。まだその方法も分からないんだろうね」
「……」
前を歩くゴナンは、床屋からもらったハサミを大事そうに手に持ったまま歩いている。「ゴナン、ハサミを見ながら歩くと危ないよ」と、リカルドはゴナンの方へと駆け寄っていった。
+++++++++++++++++++++++++++++
翌朝。一行はリカルドの拠点に集まっている。今日は各々分散して鳥探しに出るのだが、その前にゴナンが早速、カットの腕をふるうためだ。ミリアが椅子に座り、ゴナンが神妙な顔でカットをしている。
「ゴナン、すごいな。プロの床屋のような手さばきだ」
ディルムッドが感心している。リカルドもニコニコ顔で見守っている。
「…よし、できたよ。ちょっと長さをそろえただけだけど」
そう言って切った髪の毛を払い、ケープを外すゴナン。ミリアは手で自分の髪に触れてみた。
「…すごいわ。なんだか、毛先がキレイにまとまっている気がするわ」
「これで、少しは寝癖ができにくくなればいいんだけど…」
そう口にしながら、ゴナンはミリアの髪をブラッシングする。
「俺がもっと早く、上手にカットできるようになってればよかったな」
「まあ、そんなことはないわ、ゴナン。きっとわたくしの寝相の問題もあるのよ」
ミリアはゴナンに切ってもらった形にとても満足しているようだ。その様子を見て、エレーネがゴナンに依頼する。
「本当に上手ね。ねえ、ゴナン。私の髪も整えてもらえないかしら? 伸びた分を少し短く切るだけでよいのだけど…」
「えっ、無理です」
ゴナンは言葉を被せる勢いで断った。その反応に驚くエレーネ。
「無理? そんなに難しくないと思うわよ」
「いえ、あの…。無理…、です…」
そう言ってうつむき、少しだけ顔を赤らめ、そしていそいそと後片付けを始めるゴナン。首を傾げるエレーネの横で、リカルドは含み笑いだ。
「きっと、エレーネの髪はとても長くて柔らかそうだから、扱いが難しいんだよ、ね」
「そう? 普段は私、自分で切っているほどなのだけど…」
不思議そうにしているエレーネにリカルドがフォローした。まあ、それはともかく、早速身に付けた技を活かせたゴナンは満足げだ。この小さな成功体験の積み重ねが、きっとゴナンが自分自身に自信を持って、本当に自分がやりたいことへと向かう力の礎になるはずだ。
「いやあ、ゴナンはすごいね、ナイフちゃん」
「ええ、そうね…」
と、横で複雑な表情になっているナイフに気付く。
「? どうしたの? ナイフちゃん」
「ええ、まあ、別にいいんだけど…」
「?」
テキパキと後片付けをするゴナンの姿を見守りながら、ナイフは呟いた。
「たぶんゴナンって、何でもそこそここなせるけど、器用貧乏に陥りやすいタイプのような気がして…」
「……ああ…。ふふっ、そうだね。確かに…」
〈「ゴナン、髪を切る」終わり〉
第四章スタートまで、少しお時間いただきます。
お楽しみに!
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?