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八潮七瀬
2017年5月29日 20:06
夜が明ける音がした。一人で迎える朝は冷え冷えとしていて、世界の果てまで延びていく。朝の便の飛行機が頭上を通過して飛行場へ向かうのが、屋上階の私の部屋の天窓から見えた。残された飛行機雲を暫く私は眺めていた。雲はやがてほろほろとほどけ、空の色に紛れて消えた。私の吐いた煙は、その雲に追随するように空に昇っていく。私が今日乗る飛行機を、見上げる人はいるのだろうか。飛行機から日本に降り立つと、
2016年9月28日 01:27
あなたに最後に会うと決めた日に、私は赤い口紅を新調した。銀座の松屋でそれを丁寧に塗られる時、私の唇は刷毛のしなりに合わせてその形を変えてみせた。力を抜き半開きにした口の隙間から、白い歯が見える。少し斜めにした鏡を見下ろした時、私は初めて自分がどんな表情で白いシーツの中のあなたを見下ろしていたのかを知った。向かいのシャネルのソファは、私とあなたの待ち合わせ場所だった。姿勢を正してそこに座っ