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本棚の外側で

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本以外のすきなもの、買ってよかったもの、あるいはお酒などなどについて。
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#エッセイ

名字が変わるまで知らないでいた、透明なかなしみについてのこと

名字が変わるまで知らないでいた、透明なかなしみについてのこと

数年前、家族の希望で名字が変わった。
いろんな都合があってのことだったけれど、もともとは、結婚で改姓した母の「自分の名前に戻りたい」という気持ちに端を発したことだったので、私は反対しなかった。それはそうよね、と思って。多少不便だけど、その気持ちはわかるなと思ったのだった。

「名前が変わってしまうこと」について自分があまりに無自覚だったなと気づいたのは、届けが受理されてもとの名前に戻ったと喜ぶ母に

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私に呪いをかけたあの子の行方を、いまはまったく知らないけれど

私に呪いをかけたあの子の行方を、いまはまったく知らないけれど

鏡を見るのは勇気がいる。毎朝、勇気をふりしぼるようにしてこわごわと覗く銀色の四角には、眠たげでゆううつそうな私がいる。
そうして鏡の中に自分を見出すとき、いつしか私は(あなたの顔がよく見えない)とぽつんと思うようになっていた。自分の顔がいったいどんなのもので、肌の明るさだったり何が似合うのかということすらも、なんだかよくわからなくなってしまっていた。

気にしていないようでいて、その実私にも自分が

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本棚の前に花を挿す

本棚の前に花を挿す

「あなたのイメージだったから」とか「何となく目にとまったから」と添えられて、思い出したように花を一輪いただくことがときどきある。
その都度、家にあるありあわせの瓶に挿すのがしのびなくて、ずっと花瓶を探していた。

私の部屋に合うデザインで、いろんなお花に似合いそうで。あまり場所をとらなくて、でもいつも目に入るところに置けるようなもの。そして、机に積んでいる本がなだれてしまっても恐ろしい思いをしなく

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