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人生の教訓

待ち合わせに早く着いた。
といっても、お茶をするほど早く着いたわけでもないので、 
駅前で待つことにした。


春の陽気に包まれたその日は、まさにお散歩日和。
保育園児たちが、先生に連れられてお散歩をしていた。
二人一組で手を繋ぎ、お揃いの帽子を被って楽しそうに歩いている。
「可愛いなぁ。」
愛らしい姿にホッコリ癒されていると、中団を歩いていた女の子
(仮に名前をさおりちゃんにしよう)が何かにつまづいて転んでしまった。と同時に、さおりちゃんと手を繋いでいた女の子
(仮に名前をしおりちゃんにしよう)も引っ張られて転んでしまった。
同時に転んださおりちゃんとしおりちゃんだったが、二人は対照的だった。


「うわぁ〜〜〜ん!!!」
大号泣したのは、自らつまづいて転んださおりちゃんだ。
よほど痛かったのか、それともビックリしたからか、
立ち上がることもできずに泣きじゃくっている。
一方、さおりちゃんの道連れで転んでしまったしおりちゃん。
転び具合は、さおりちゃんもしおりちゃんも似たようなものだ。
しかししおりちゃんは、一粒の涙も見せなかった。
グッと堪えて一人で立ち上がり、洋服の汚れを手で払った。
そして、いつまでも泣き止まないさおりちゃんに手を差し出して、
起き上がるのを助けてやった。それだけではない。
さおりちゃんの洋服についた汚れまで払ってやったのだ。


ちょうどこの時、泣き声を聞きつけて先生がやってきた。
真っ先に声をかけたのは、号泣しているさおりちゃんだ。
「大丈夫?」
先生に優しく声をかけられても、泣いて頷くしかできないさおりちゃん。
先生は、怪我がないか全身を見て、
「ケガはないね。もう大丈夫だから、泣かないよ。
はい!頑張って歩こう!」
と、優しく励ました。
そして隣のしおりちゃんに目を配った。
涙の跡もなく、凛としているしおりちゃん。
「よし!しおりちゃんも行くよ!」
ひと言声をかけて、先生は列の先頭へと戻っていった。

先生は一連の出来事を見ていないわけだから、これは仕方のない対応だ。
しかし私は、しおりちゃんのカッコイイ行動を、
思い切り褒めてあげたかった。


「せんせーい!待ってください!実はね、さおりちゃんが転んだ道連れで
しおりちゃんも転んでしまったんですけどね、
これがエラかったんですよ〜!
まず、さおりちゃんを責めなかった!
そして泣かずに立ち上がった!
さらにさおりちゃんに手を差し伸べて起こしてやり、
服の汚れまで払ってあげたんです!
先生、しおりちゃんを褒めてあげてください!」


あぁ。。。
世話焼きババアは、先生にこう言いたかった。
しかし見知らぬ女に、突然このようなことを言われても、
気持ち悪いだけだ。


私はガマンした。
そして心の中で、しおりちゃんにエールを送った。
『しおりちゃん、えらかったよー!』


そして同時に思った。
『ほっとけない子』と周りから可愛がられ上手に世渡りするのは、
確実にさおりちゃんタイプだ。
しおりちゃんタイプはしっかりしすぎていて、スキが無い。


『いかん。私ももっと甘え上手にならねば!』
保育園児から学んだ教訓であった。


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