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東京さ行くだ

私は京都生まれの京都育ち。仕事もずっと関西でやってきた。
そんな私が2005年、いきなり昼ドラ『病院へ行こう!』の主役に抜擢され、
慌ただしく上京することとなった。

ずっと芝居をしたかったわけだから、昼ドラが決まったことは、心底嬉しい。
しかし、生粋の関西人がいきなり東京で一人暮らしを始めることには、
大きな不安があった。

『東京の人はよ、人の心を持たねぇ。若いねーちゃん騙くらかして、
とんでもねぇ所に売り飛ばすんだとよ。』なんてことは思わないが、
これまでオーディションなどで東京へ行くと、
いつも『早く京都に帰りたい』と思った。
東京の人は忙しそうで歩くのが速いし、冷たそうに見える。
建ち並ぶ高層ビルに、行き交う人々。
東京はビジネスをするための街だ。

今回のオーディションは、本当に急だった。
まさかの最終オーディションで合格。
劇的に人生が変わった私は、
『心の準備が何もできていないまま、勢いで体を東京に持っていく』
という感じだった。

家族も友達も仕事仲間もいない東京。一人ぼっちの東京。
引っ越した当日、段ボール箱に囲まれた狭い部屋の中、私はひとりで泣いた。

数日後、近所のスーパーへ行った帰り道、ちょうど電車に出くわしてしまった。
下北沢駅は、いつも踏切りが鳴っている。
仕方なく電車が過ぎるのを待っていると、辺りがいつもより赤いことに気づき、
私は空を見上げた。

夕日が、溜息が出るほど美しかった。

「なんて綺麗な夕日!」
思わず見とれてしまった。

「東京でも、こんな綺麗な夕日が見えるんだ。」
そりゃそうだろ。と今なら思うが、この時は『あの東京』でも
こんな綺麗な夕日が存在することを知って、感動した。

私は少し救われた気持ちになり、さぁ帰ろうと振り返ると、
井の頭線のホームには多くの人が集まっていた。
夕日を見るために、わざわざホームの端っこまで歩いてきた人たち。
ずっと夕日を眺めている。

「東京の人も、夕日を綺麗だと思うんだ!」
おいおい、東京の人を何だと思ってるんだと怒られそうだが、
この時の私は感動していた。そっか。東京の人も同じように、
綺麗な夕日を立ち止まって眺めるのか。
不安しかなかった東京での生活で、私は初めて明るい気持ちになった。

「東京で、やっていけるかも。」
私は少し、東京を好きになった。

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