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まだらちゃんfamily エピソードα

 まだらちゃんと元カレ

 一番最初に1人暮らしを始めたのは、学生アパート。

 といっても、古民家を改造したワンルーム内装の長屋風。つまり、京都市内にはよくある物件を学生課に斡旋してもらった、これまたよくある経緯で、おまけのように、大家さんはあの新撰組を養ったおうちの子孫だったりする。

 ついでにいうと、共同で使うシャワースペースが3個しかない。当たり前に近所のあちこちに、観光客さえ立ち寄る『銭湯』が在るからだ。京都らしいコミュニテイーには事欠かないエリアに住んでいた。

 およそ外大らしくないイメージだが、同じ長屋の隣やはなれも、すべて、外大生と美大生。地域的に大家さんの配慮的に、2つのガッコの女子しかいない、、、はずだ。

 だが、暗黙の了解で同じ敷地内に住んでるのも、、、居る。複数。

 あ、彼氏たちではない。出入りするし、隣の酒屋さんとも顔見知り。けど♂も♀もいる。友達ではない。

 あ、友達でも彼氏でもあるかもしれない、ネコちゃん達のことだ。はなれのフランス語学科の先輩の、タイプライターの音が好きな♂や、一番表の美大生の描く油絵モデルの役目してる♂もいるが、♀は、1匹だけ。

 この♀の地域猫ちゃんが、私に一番なついていた。なぜ、♀が独りなのかって❔ あたりまえに、敷地内が彼女「初代まだらちゃん」の逆ハーレムだったからだ。

 名付けたのは私だが、今現在私の実家にも貫禄の「2代目まだらちゃん」が出入りしている。正確にいうと「むぎわら猫」というHALFやQUATERよりより混ざっている種類で、優性遺伝で圧倒的に♀が多いデータがある。

 本当にエキゾティックで、コケティッシュなスレンダー美人だった。

 いつも♂のネコちゃん達、老いも若きも5匹6匹引き連れて、近所を「シマ」にしている、まだらちゃん。

「地域猫」というのは、特に飼い主が決まっていないが、暗黙の了解で人間に見守られて地域で保護されている、野良猫のこと。首輪も付けていないし、去勢もされていない。でも、寝床や食事する場所は決まっていたりする。複数居場所が在ると、自分ち以外はどこかわからない。けど、誰かしらが名前つけて、周知である。ネコ本人(・・?も気づいている。

 TV番組の「世界ねこ歩き」観ていると、飼い猫なのだが屋内やバスケットにいなくって、自由に外出して帰って来るネコが多いのだが、それとは違う。

「自由な飼い猫」ではなく、共存している「野良猫」なのだ。おかげで家屋からハツカネズミの騒音がなくなったりする。出入りしてくれるだけで防犯にもなる。「自治会長」ってあだ名がついたボスネコが居たり。

 話を「初代まだらちゃん」に戻そう。

 まだらちゃんは、いつも数人の彼氏を引き連れてやって来たり、寝泊りしたりしているけど、少なくとも食べ物を与えている学生は、見たことがない。

 でも、兼六園か御苑でもデートしているように、うんと昔からあるこの古民家リフォームの和式庭に遊びに来る。毎日。

 で、先頭に立って私の足元にからみついて来る。マウント行動だ。♂達は、少し離れて見守ったり、同じようになついてきたりする。

 三毛や茶トラやブチや一色や色々いるけど、犬と小鳥しか飼ったことない私は、そこまで人懐っこいネコを知らなかった。「ミス独立心」なのだと思っていた。

 案外ネコちゃんの方が気が合うのかも、、、と思い始めた。私はどの♂にもまんべんなく愛でてやるのだが、まだらちゃんはしばらくすると「このヒトに決めたんよ」とばかり紹介しに来る。妊娠出産後、またしばらくするとやって来る。数匹引き連れて。

 だけど、私の彼氏には寄って行かない。彼も動物好きらしいが、まだらちゃんは彼氏には自分から寄ってかない。他にはいつもマウント行動で甘えん坊をしている。あ、隣の美大生にも近づかなかったが、彼女は『ネコが嫌い』とはっきり言って、卒業待たずに転居した。

(どこに行っても、京都市内は居るけどね。。。)

 きっと、モテる猫の掟なのだ。だって私のクラスメイト男子にはスリスリした。私の匂いを見つけたのか、彼氏にだけはスリスリしない。だから、私もまだらちゃんに紹介された♂には、自分からナデナデしなかった。4年間、ずっとまだらちゃんと友達でいられた。


 ある雨降りの午後。私は出入り口の共用電話の前で、ぼんやりと上がり框に座って、雨音と庭の濡れた緑の情緒に浸っていた。

 電話をかけに来る女子もいないし、玄関共用の奥の部屋からも、英米語学科先輩んちの彼氏の体育会系デカい声も、聞こえない。私はと云えば、雨が降ったら琵琶湖行かない彼氏からドタキャンが入っていた。不安や疑念より「ほっこり感」が私を支配していた。不思議な感覚だった。

 ウィンド・サーフィン仲間や浜省ファン仲間といるのだと。その友人の1人が「コマシが、君だけは絶対会わせへんかってん」と云い、そのヨコシマ行動を許さず男同士が絶縁したから、そこを信じる事にしたのだ。

 何をするわけでもなく、ただ、その上がり框に座ってぼーっとしていると、いつまで経っても雨が止まないせいか、まったく時間を気にしていなかった。ただ、こんなほっこり感が落ち着くし、GW前にスキー場を引きあげて来てから、こんなゆっくりした時間を味わっていなかった事にも、初めて気づいた。

 ふと、何やら足元でモサモサしている。まだらちゃんが、独りで会いに来てくれたのだ。庭にも♂1匹どころか人影もない。

 上目遣いでじーーーーっと見つめるまだらちゃんの黒目が、いつもよりまん丸く、それこそ何分間と云わず黙って私の瞳を見つめ続ける。私の足元にチョコンと両手をそろえてお行儀よく座って見上げている。ゆっくりと瞳を瞬きする以外は、なんにもアクションを起こさなかった。

 おもむろに、私は(多分)左手を差し伸べて上半身を少し前にかがめる。ニコッとほほ笑んでみたら、まだらちゃんも左手を差し出して、エスコートされるレディみたいに私の手のひらに、可愛らしく乗せた。

「、、、そうかぁ。たまには独りでほっこり過ごしたいやんねぇ。。。❔」

 頷きはしなかったが、否定する様子もない。
 けど「あなたも大変よね。今日は気楽に行きましょ」と云われてる気がした。見つめ続けるまだらちゃんに、私はゆっくりと笑顔で縦に頷く。

 すると、イヤイヤでもなく慌てるでなく、まだらちゃんが、私の両ひざの上にひょいっと飛び乗って、座り込んで伸び伸びしてから、とうとうくつろいだ伏せをしてしまった。ネコちゃんにそこまで甘えられた事なかったので、びっくりして、結局身動きしちゃいけなくなってしまった。

 まだらちゃんは、とうとう眠ってしまった。私の膝の上で。

 初めてナデナデしてあげたかったが、気持ち好さそうに眠っているのを、起こしたくなかった。

 本当に猫ってゴロゴロって音で喉鳴らすんや!

 まだらちゃんを膝の上に乗せたまま、またぼーっと雨に濡れた庭を眺めていた。そのうち私も眠ってしまった。

 居眠りしていたと気づいたのは、目が覚めた時眼の前にしゃがみ込んだ彼氏の顏があったからだ。

「電話、待ちぼうけして、眠ってしまったんけ❔」

 確かに、上がり框の前には共用のピンクの電話があるので、私は否定せず、笑ってごまかした。あの不思議なほっこり感の事は、話していない。

 その後、学生でなくなってもその彼氏とは続いていた。引っ越しした先でも、相変わらず連絡なしに不意にやって来て、夏場は琵琶湖でウィンド・サーフィンで沖に出る彼氏を、岸辺の木陰で眺めていた。琵琶湖以外では二人きりではない。。。その辺はずっと変わらなかったが、変わっていったのはむしろ、私の方だったのかもしれない。

 スキーのインストラクターの仕事は、その後も30歳手前で就職するまで続けたし、45歳の時に1シーズンだけゲレンデで仕事復活した。だが、指導や検定員の資格を取ったり、京都府予選から全日本の選手権出場まで、次第にSKIにのめり込み没頭して行く間に、彼とは自然消滅していた。

 別れるつもりもなくキライにもなっていないが「夏の男」と「冬に生きる女」ではすれ違い過ぎていたことに、気づけなかった。気づいていても結局スキーをライフスタイルにすることで、別れを告げたかもしれない。彼も別れを選んだと受け取ったのかもしれない。

 まるで浜田省吾の「ラストショー」を地で行くような恋だった。人一倍リアリストな私は、取って付けた有り得ない現実のドラマを自嘲して語るしか処理できないでいた。後にも先にも漠然とにも、結婚願望をもった相手は、現在のステディーの前にはこの彼氏しかいない。少なくとも記憶にございません。。。

 出逢ったハンバーガーの店「萩」も、今は嵐山に存在していない。そして、選手としてデビューした年の夏の終わりには、イマ彼と出逢っている。既に出逢っていた事思い出したのは、実はずっと後だし、その事実を確認し合ったのも、もっと最近なのだ。

 その「大人のはつ恋」以降は、別れはキッチリお互い確認して一旦独りになって心の断捨離してからでないと、彼氏と呼びたい付き合い方は、しないのだ。

 惚れっぽいと、私を観ている人はいたけど、自身は付き合ったら永いし「それ、カウントしないよ」がけっこう在る。

 初代まだらちゃんは、4年間みつめていたから、知ってるよね❔

 

ーーーエピソードα いず じ・えんどーーー





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