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歴史小説「Two of Us」第3章J‐15

割引あり

~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
    (改訂版は日本語文のみ)
    The Fatal Share for "Las abandonadas"

J-15 ~ Find Out A Way & A Faith ~

 再び、穏やかな日々が、訪れた。毎日どんよりな曇天。
 それは、あなた珠子にとって、退屈で死んだように生きる事を、意味していたかもしれない。

 夫細川忠興にとっては、満を持して豊臣の大坂(大阪府)お膝元、細川玉造屋敷へ正室珠子を呼び寄せる朗報だった。だが、再び共に暮らすと云っても、戦に出ずっ張りの忠興に、あなたは相変わらず居城に置き去りである。

 農家に紛れ込み、丹波の水戸野小笠原少斎たちと一家五人で暮らす日々は、もう二度と来ない。

 峠茶屋で店の手伝い駄賃として、季節の野菜や果物を頂き、その中で工夫して自ら手料理して献立の数を増やして行く楽しみ。
 野山をはしゃぎまわり〈四つ身〉の着物を汚しながらも、毎日の出来事を勢い込んで話す、お長の姿
 小笠原や侍女のイト(清原マリア)も含んだ家族のみんなを、その都度声のする方を見つめては、ほやっと笑う、興之丸。

 そして戦の合間に、愛馬〈ハヤブサ〉を駆けて戻って来る忠興は、戦利品の茶器を見せては、品格付けを語っていた。宮津と戦場と大坂玉造を往来する度、書物の束が増えて行った。


 この屋敷におれば静かなもので、家臣の噂以外には、何も戦闘の音は聴こえて来ない。豊臣は、一旦は畿内を中心に天下を治めたかに見え、京に聚楽第の建立をも佳境を迎えている。


 大坂は、出入りの商人職人の声しか、聴こえない。 太閤殿が床に臥せっておられるがゆえの、お急ぎの建立なのか。。。忠隆も、まもなく元服を待たずに初陣を飾るやもしれぬ。

 未だ、勝ち続けている忠興殿も、太閤殿の要らぬ征服欲を充たすため、はるか海向こうの百済(朝鮮半島)では、苦戦を強いられていらっしゃるとか。。。

 いかに美しい〈辻が花〉を三重四重と羽織ろうとも、町衆や旅人の笑顔に触れたあの水戸野での毎日は、もう訪れはしまい。ただただ広すぎるお屋敷ではあるが、ここから一歩も、外へ出る事は許されぬ。

 わたしに意志があろうとなかろうと、お堀のそこかしこの渡し橋には門番が居て、馬舎庫へ向かう事さえ叶わぬ身。

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