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45分間のマジック

めあて

 ご一緒している先生方には本当に申し訳ないのだが、私は自分自身がメインとなって活動をする際に「めあて」を設定しない。めあてを設定した時には、既に活動にガイドがバッチリある気がして。私自身は子どもたちがこの授業から何を見つけ出すか、それも楽しみの一つなので自己満足ではあるのだが、最後にそれを一緒に味わえたら良い、と思っている。

 これは私自身の考え方で、めあてを否定するつもりはなく、どちらかを選ぶとしたら、私はこちらの方が指導しやすいということだけ。方法はひとそれぞれあっても良いと思っているから、先に設定されている場合でも否定的な気持ちで授業をすることはもちろんない。そこにあるものとして普段通り授業をするだけ。
 私は英語という「ことば」の担当で、ことばというものはそもそもそれを使う中での発見がいろいろな方向で多いものなので、私自身が子どもたちと一緒に味わうことを選んでいるだけなのだ。

 子どもたちは「今日は曜日を学習するんだな」と単元を見てわかっているので、それ以上の目標はそれぞれが持ってくれたら嬉しい。そう思いながらいろいろな要素を散りばめていく。ある生徒は文字に注目し、ある生徒は音に気付くかも知れない。またある生徒は7日を全部暗記することに興味を示すだろうし、ある生徒は授業の最初とんがっていたが、終わることには柔らかい笑顔になっている。
 その日の発見は「文字を読める様になった」「英語らしく発音出来た」「全部覚えた」「気持ちがスッキリした」様々。学習者の数だけあっても良い。それを本人が意識しているかどうかはわからないが、その満足感はそれぞれの味わい方で良いかな、と私は思っている。

 私の中の「裏めあて」は子どもたちが英語を通して何か前向きな気持ちになること。そしてそれぞれの方法は違うと思っている。文字を読むのが苦手な生徒に「文字を読めること」というめあては重過ぎるし、交流が苦手な子にとって「人との交流をしっかり」は重い。そのめあてが掲げられていたら、その子は最初から構えて「苦手な交流しなくちゃ」と思うかも知れない。そして最後に「もっと上手になりたい」と書くだろう。
でも知らない間に活動の中でただ交流を楽しめたら、最後の感想には「交流が出来た」と書くのかも知れない。仕組みの作り方、ガイドの仕方に少し気をつけられたら、今とても増えている「英語が苦手」な小学生を減らすことは出来るかも知れないな、と思っている。

ある日のマジック

 前述した「英語の授業で心がスッキリ」する生徒に関して。私は英語の授業を「励まし」と「自分の力に気付く」時間だと思っているので、ひたすら驚きと励ましの言葉を注ぐ。もちろん言葉だけでなくリアクションのしかた全てに全力を注ぐ。そんな45分の中で変わっていく子どもたちの様子がドラマチックで、私が励まされることが多い。
 週の内のたかが45分。されど45分だ。

 見えないボールのアクティビティーは私のお気に入り。最初に「このボール、見える?」と手で見えないボールを持つ。子どもたちはキョトン。
「実はこれ、正直者にしか見えないボールだから...」と言いながら見渡すと「見える見える!」と首をブンブン振る子、キョトンとしている子、そして「俺、正直やないけん、全然見えんし!」という子。
私はそのボールをクラスの中の一人目掛けて放る。その子は笑顔でキャッチ。「投げ返して!」とジェスチャーで表すと、満面の笑みで投げ返してくる。見えないものを一緒に見る、素敵な時間。
 そして「俺、正直やないけん…」の子に放る。その子はプイッと横を向く。ボールが見えない振りをする。私は床に落ちたボールを拾ってまた前に戻る。そこからそのボールを使った活動の始まり。友達同士でキャッチボール。この活動のことはいつかまたご紹介しよう。
 
 さて、子どもたちはお隣さん同士、グループの中で見えないボールを一緒に見ながら楽しく活動した。時間も終わりに近づいたので、クラスに向かって「はい、じゃ今ボール持ってる人」と尋ねると「正直じゃない」彼が手を挙げているのが見える。「今日はここまでだから、ボールを先生に戻してくれる?」と声をかけると、あちこちから生徒がボールを投げ返す。その中に見える彼の笑顔。満面の笑みでボールをこちらに放ってくれる。

 彼はたったこの45分間で、自分を「正直」だと認めたんだ。彼も気付かない間に。その笑顔があまりにも眩しくて、思わず目を細めた。
 英語の学習。否、ことばの時間。私たちはこの時間に、英単語を覚えるよりももっともっと多くのものを得ているのだ。

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