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 世界地図の下書き(読書感想文)

 朝井リョウさんのエッセイを読んでとっても興味が湧いたので、物語をば。私は結構タイトルで本を選ぶ傾向にある。このタイトルもグッと心惹かれた。
 私が朝井リョウさんの小説をあまりたくさん読まない理由は、あまりにもリアルだからかな。エッセイで人のことを観察して書いている話が本当に面白いけど、それが「どうしようもないこと」だから面白くて。小説の中にも「どうしようもないこと」がたくさん出てくる。

 人がAIと違うところは「どうしようもないところ」だな、って最近思うけど。その「完璧になれない私たち」をあまりにも綺麗に描き出しているから、時々怖くなる。

 このお話の中でも多くの子どもたちが出てくるのに、それぞれの微妙な心の動きが手にとるように見えて胸が痛くなったり嬉しくなったりする。最後の感じは途中から見えてたけど、でもやっぱり最後に涙が出てしまったのは、彼らの感情がすぐそばにあったから。

 朝井さんのすごいのは、本の中の登場人物に会ってきたかのような感覚を持ってしまうこと。リアルな感情描写。

 「自分の今いる場所でなんとか歯を食いしばって頑張る」その答えだけが美しいとされていた時代を経て、私たちは我慢を覚えてしまった。自分がメタメタになっても笑える術を身につけてしまった。
 でも。自分にもっとスポットを当てて良い。自分を幸せにしてやれるのも自分。そのための方法は、我慢だけじゃない。逃げてもいい。そんなことを改めて考えた一冊だった。

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