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庭師と英語講師の共通点

 実家に帰ると、庭がスッキリしていた。母が嬉しそうに「すごい庭師さんに来てもらったのよ」と喜んで話してくれた。その内容がなんだか英語講師の自分の仕事と重なってとっても興味深かったので、書いてみることにする。

発音指導でGood job!!

 10年前、小学校で英語指導補助をしていた時のこと。仲良しのアメリカ人ALTが職員室に "Namio, good job!!" と親指を立てながら入ってきた。「なんだろう」と思っていると、ALTと私が日替わりで教えている高学年のクラスの生徒たち、発音がメキメキ上達しているという。
 確かに私は日本人講師だから出来ること、例えば日本語にはないけど英語を話す時に必要な発音を特に気をつけて、わかりやすく指導することにしている。そして子どもたちは柔軟であるが故に、教えられたコツをきちんと上手に使って発音をする。実は発音指導は英語を指導する時に指導者が技術的、心理的に特に気をつけるポイントなのである。
 明らかにカタカナに聞こえる「ザ・日本人英語」を忌み嫌う人が日本にはやたら多いけれど、それは問題じゃない。私はむしろ「言葉は名刺」だと思っているので、訛りはある程度その人のルーツや歴史を表していて、私にとっては言葉を学ぶ上で欠かせない楽しみな部分の一つだ。そして明らかにカタカナの英語に聞こえても、他の国のアクセントで話していても、人々が英語を使って笑って話している場面をかなり見たので、それが大した問題ではないこともよく知っている。
 各国の訛りを持ちながら会話を楽しめるポイントは何か、ズバリ「ここさえ押さえておけば伝わる発音」に留意しているかどうか、だ。日本出身でも海外出身でも、数個の発音が曖昧なために英語が通じにくくなってしまっている人はいるが、日本人にはそれがとても多い気がする。
 私はそれを「実践の足りなさ」だと思っている。「ネイティブみたいにカッコよく発音しないと恥ずかしい」という思い込みが会話の機会や英語を発してみる機会を奪い、そのために実践が足りなくなるからポイントがぼやけてしまう、という悪循環。その中に日本の英語教育はある。

 だから、正しい発音指導と励ましはワンセット。どちらが欠けても伸びないものだ。この辺りのメソッドはまた後日、他のコラムに書こうと思う。

庭師さんの言葉

 庭の話をしていたかと思ったら、突然英語の発音の話…なんでやねん、と思われた方、種明かしはこちら。

 母曰く、今回やってきた年配の庭師さんは庭をざっと見渡してバランスを掴み、「あそこの木はいらないですよね?」「ここはない方が良い」「ここはこんな風に…」とトータルコーディネートをしてくれたとのこと。今までは出てきた枝を切るなど部分でしか見てこなかった部分を、見える部分から根っこに至るまでトータルでこの庭が最大限に活きる整え方を考えてくれた、ということだ。
 やっぱりプロはすごい、高くても払う価値がある、と大喜びの母を見ながらプロであることを考えていた。
そして次の一言に私はブンブン頷いていた。

 「素人が切ったものを元通りにするのが一番大変だ」

という庭師さんの言葉だ。

 そう、英語の発音を中途半端に間違って覚えている生徒の発音を正すのには、0から英語を学ぶ生徒の数倍時間や労力、精神的サポートが必要になる。ザッと見た感じは整った枝や庭かも知れないが、プロの専門技術が入らなかったために庭としての魅力が欠けてしまい、それをそれぞれの植物の持ち味を活かした形に戻すには0から作るよりも数倍の労力と時間が必要ということがピッタリと重なった。

見栄えよければ

 庭を維持するのは大変だ。あまり出かけられない事情があるから家の庭で四季の移ろいを感じたい、そんな人にとってはとりわけ庭は大切なものだ。でもある程度見た感じ整っていれば大丈夫、という考えの人もいるだろうし、それはそれでアリだと思う。

 そして教育に関しても「決められた英語の授業時間数をカバーすれば大丈夫」「このテキストを一通り終わらせれば大丈夫」と見栄えさえ良ければ内容はどうでもいいです、というニーズがあることも知っている。

 でも私はこの熟練者の庭師さんと同じ気持ちで子どもたちや英語学習者に向かっている。この学習者が英語を通して真っ新な目で自分自身や周りの人、世界を感じられるにはどうしたら一番良いか。自分のことを深く知り、人との関わりを味わい、世界を見渡して新しい価値観に触れる。自分の生き方を選んでいく。そんな学習者の未来を見通しながら教育に携わっている。

プロであることの喜び

 出会ったことのない庭師さんを、母の喜びと美しい庭を通して知った。そして勝手にその人の言葉に自分の想いを乗せている。
その人の仕事に、技に、言葉に、その人が80歳を超えた今でもワクワクしながら庭と向き合っていることが伝わってくる。
 私も子どもたちが英語を口から出した時、パァーッと感動が訪れる瞬間。

「わぁ、いい音出てるね!」

 子どもたち、大人の学習者の皆さんの声がもっと大きくなる。

「皆さん、正しいですよ。もっともっと。自信を持って話してみましょう。」

「今日は楽しいお話ありがとうね。もっと聞かせてね」 

 もっともっと声が上がる。笑顔が増える。その瞬間のワクワクがたまらなくて、また教室に行く。人と出会う。

 その私の目には、その先に学習者一人一人が目を開いて世界を見つめ、素敵な自分を発見し、人を愛する様子がハッキリ見えている。

 

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