TONIKAKU

 私は裸の芸人さんが好きなわけではないけれど、とにかく明るい安村氏やなかやまきんに君がとても好き。彼らは見た目のオチがあるにも関わらず、シンプルに見せるその奥にストーリーがあって、知的に笑える部分を持っている。しかしこの"TONIKAKU 明るい安村"氏のイギリスでの大躍進を誰が予想しただろうか。

 語学講師としてとても気になったのは、「安心してください、履いてますよ」のくだり。日本語でもこの皆まで言わない感がとても好きで、「あぁ、パンツね。ふふふ」っていう私たちの言葉を共有している感をくすぐるのは本当に素敵な演出だと思った。これが「パンツ履いてますから、大丈夫です」みたいな言い回しだったら、面白さが全然違う。こういうところ、プロだな…なんて妙に感心しながら。

 それが実際イギリスでなんと言われていたかと言うと、"Don't worry.  I'm wearing." このネタのyoutubeの英語版でも同じセリフが言われていたので、英語ではこう言う、と決めているのだろうけど。この「敢えて皆まで言わない」部分が英語バージョンになると「言葉を共有の面白さ」を超えて、"パーンツ!"の大合唱を巻き起こすのも、彼の計画の内だったのか。私は心底感激した。もしそれが狙っていなかった効果なら尚更、彼の言葉のセンスは素晴らしい。
 「着る」という意味での "wear" は他動詞。他動詞とはその後ろに言葉がないと「え?何着るん?」と、モヤッとする性質を持っている。だから、彼の発する"I'm wearing…"が振りになっているのだ。そこで客席が黙っていられずに"パーンツ!" すごすぎる。初回からその雰囲気はあったが、この決勝の舞台では完全にコールアンドレスポンスの形が仕上がっていて、圧巻。

 「とにかく明るい安村」という名前がいつの間にか"TONIKAKU"になっているのも、日本人視点から見たら「名前じゃなくて様子でもなくて、そこかよ!?」となる面白さ。"Tony"って呼ばれたら、もう「とにかく」が名前に見えてきた。語学講師でありながら改めて、言葉はただ空っぽの入れ物でそこに何が入っているかが大切なんだと思った。ありったけのお笑い愛を詰め込んで丸腰で世界に飛び出す彼らが、ただただ眩しい。

 とにかく、言葉も何もかも超えて自分だけを信じて活躍する彼らから目が離せない。日頃文法を教えたり、どうやってうまく作文すべきか…マルバツをつけたりつけられたりして学んでいるのが馬鹿馬鹿しく思える程、「想い」や「ひたむきさ」が全てを超えていくその様子を頼もしく嬉しく見守っている。

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