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憂き世離れ

 若者の車離れ、みたいに私の浮世離れも加速していく今日この頃。
アイドルの苦悩時代の記事が目に留まって読んでいると、本当に辛くなった。「怪我したら休めるんじゃないか、と思った」ってさ。

 私も思ったことあるな。仕事をしてもしても次から次へと仕事が湧いてくる。あの時、自分の様子を落ち葉を掃くお坊さんになぞらえたことあるわ。月刊のカタログ制作をしていたから、今月号が終わったらすぐ来月号。なんなら終わらないうちに違うリズムで発行している他の地域のカタログ仕事が降ってくる。止めどなく。
 最近も学校の先生がtwitterで朝学校に行くのが嫌過ぎて「事故にでも遭えばいいのに」って思う、って書いてるの見て心傷めた。みんなどこに向かっているんだろう。

 こうやってどことなく他人事みたいに書いてる私は、今フリーランス。しかもかなり今の生活を気に入っている。フリーになったばかりの頃は、仕事するのが嬉しくて来る仕事全部引き受けて更に手を伸ばそうとしていた。それはそれで楽しかった。でも、ある時ふいに立ち止まりたくなった。幸いフリーは、立ち止まりたい時に立ち止まることは出来る。何も考えなければ。でもある意味それはとてもシビアな未来を招くので、しっかり自分と相談しなければいけない。他の誰も私のことは決められない。でもそれが幸いしたのかもしれないな。

 それが、意外と自分との相談も難航するんですよ。
「え?今乗ってきたとこじゃん。どんどん仕事増えてるじゃん。一件断ったら、もう仕事こなくなるかもよ!」というアグレッシブな私と、「ちょーっとゆっくりする時間が一週間に一日でもあったらいいなぁ…」というちょっとのんびりな私。
 時々そこに現れる外部の声「英語教室運営が乗ってきたら、二軒三軒、同じ条件で判で押したみたいに展開出来ますよ」。うーん、魅力的。

 どうしよう、どうしよう、と舵を切り損なったまま進む私の船。
そこで現れた救世主。その名も「突然の倦怠感」。おや。これはもしかして。噂の更年期障害なのでは?そう思った私、今度は真剣に考えた。で、意外と答えは早く出た。

よしっ。仕事減らそう。

 で、広がっていた仕事を少しずつ減らしていった。想定していた収入減よりも更に減った感はあるけれど、心配していた程怖くはない。むしろ工夫や試行錯誤が好きだから、節約法を自分で編み出しながらの日々はアドベンチャーチックで楽しい。時間はたっぷりあるから、いろいろなお店を回って品質が良くて手頃なものを探して買ってこられるし、趣味の家庭菜園にも力が入る。以前は苗を買っていたけれど、もっと節約出来んかな、と素人ながら自分で種から苗を作ってみたら可愛い可愛い。起きるなり空を見て、「お?今日は野菜が干せる!」っておもむろに野菜を干し始める朝。そんな時、湧き出る程の幸福感が訪れる。正に十数年忘れていた気持ち。ただ何も考えずに遊び続けて、夕暮れと同時に家に帰る子どもの頃みたいな気持ち。街の中に住んでいても、こうして目の前の小さな自然と向き合うことでこんなに幸せな気持ちになれるんだな、って発見。ただただ嬉しい。

 これは自分の人生にとって何よりのご馳走。若い頃、就職してまとまったお金が手に入った時、初めて高い服を買った。震えるほど嬉しい…なんてことはなく、なんとも思わなかった。だってその時にお金があったから。自分の持っているお金の分だけの生活をした。それはそれで楽しかった。良さそうなレストランに行った。バッグも買った。でも。なんだろうね、この空を見上げながらのんびり過ごす時間の震える様な喜びは。

 多分私にはこれが向いているんだと思う。高い服、良い車、新品の何か…あまり物には興味がなかった。だから、その時々で価値が変わってしまう紙幣とかコインにも興味がないんだと思う。私が欲しいのは、この湧き上がる様な喜び。それをくれるのは、自然と本。私の場合はね。
 それに気付いたから、今とっても幸せ。

 人生の中で度々いろいろな組織をなみ縫いみたいにスイスイ出たり入ったりしたけれど。それぞれの世界にそれぞれの価値基準があって。そのほとんどと私は合わなかったんだよね。でもそれは自分を確認するための大切なプロセスだったんだと、今は思う。正に今の幸せな私に続く大事なプロセス。過去の頑張った自分、傷ついた自分に感謝したい。そして今の自分にたっぷりご褒美。浮世離れは、憂き世離れ。人の価値観に振り回されっぱなしだった私は今、自分だけの幸せを見つけて生きてる。

 かつて住んでいたニュージーランドで、大手のアイスクリーム屋さん(本当に美味しい!)に日本の会社が契約を迫ったところ、「忙しくなるのは嫌だから」と断った、っていう噂を聞いて。あぁ、こんな風に生きたいと思ったのを思い出す。自分にとって何が一番大事なのか。その時その時の自分としっかり相談するのって大事なのかも。そしてその時にそれまでに出会ったたくさんの人や考え方がいろんな意味で参考になる。
 いろんな経験して、時々立ち止まっては自分に当てはまるかどうか、じっくり考えてみるのも贅沢な人生なのかもね。

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