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秘曲「道成寺について」

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能の秘曲「道成寺」⑧

能の秘曲「道成寺」⑧

鐘が上がるとここからは勢いの勝負!地謡が終わると「祈(いのり)」と言う舞(ではないのですが・・・)になります。

立ち上がったシテが前シテで着ていた唐織を身体に巻き付けます。これが慣れないとなかなか上手くいかない・・・打杖が暴れたり唐織が垂れ下がったりすると興醒めです。しかしあまり時間を掛けすぎると舞台がダレてしまいます。

この作業が終わり、シテが打杖を横に出すとそれが合図で囃子がテンポアップし

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能の秘曲「道成寺」⑦

能の秘曲「道成寺」⑦

私の道成寺披きの時は、鐘が落ちた瞬間、鐘の中で頭が真っ白になっていました・・・。結構上手く入ったようなのですが、かなり強めに頭を打ったらしく、一瞬、ぼーッとなりました。

後見の合図はわかったので返事を返しましたが、自分が置かれている状況を思い出すのに一寸時間がかかりました。

さて、鐘に無事に入った後は時間との戦いです。間狂言とワキの語りの間に色々な作業をしなくてはなりません。ここのところは余り

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能の秘曲「道成寺」⑥

能の秘曲「道成寺」⑥

乱拍子の最後にシテが「成寺(じょうじ)とは名付けたりや」と謡いながら爪先を左右に動かし(習いの足裁きです)拍子を踏むのが常の型。「無躙之崩(ひょうしなしのくずし)」の小書が附くと足拍子を踏まずに回り込んで急之舞に入ります。

「急之舞」はその字の如く最も早いテンポの舞で、小鼓はそれまでの一番ゆっくりしたリズムからいきなりフルスロットルで打たなければなりませんし、大鼓は40分以上固まっていた状態から

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能の秘曲「道成寺」⑤

能の秘曲「道成寺」⑤

いよいよ乱拍子です!
が、その前にシテが気を使うのがそのスタート位置。物着から大鼓の一調に乗って舞台に走り込んできますが丁度良い位置に止まるのが結構難しいのです。

鐘の真横より一寸前であまり左に寄らずに居たいのですが、勢い余って出過ぎたり鐘の下に入ってしまったりとなかなか具合の良い場所に立てないものです・・・

そしてシテの次第の謡となり続いて地謡が地取を謡いますが、道成寺の地取は特殊で乱拍子に

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能の秘曲「道成寺」④

能の秘曲「道成寺」④

いよいよシテが登場しました。重々しい次第の囃子に乗って舞台に入り、いよいよ最初の謡です。「作りし罪も消えぬべし。作りし罪も消えぬべし。鐘の供養に参らん」の詞章ですが、私はここが一番緊張しました・・・ここがマズイと曲の雰囲気が決まってしまいます。

執心の籠もった、それでいて変に荒れたり苦しげな感じのしない美しい謡・・・いまだに上手くは謡えませんが気を使う部分です。

観世流では小書(特殊演出)が附

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能の秘曲「道成寺」③

能の秘曲「道成寺」③

今回からは舞台の進行に沿って書いていきます。

幕内での囃子のお調べが済むと片幕で囃子方が登場します。

服装は「長裃(ながかみしも)」が一般的です。重習以上の舞台は裃が基本ですが、その中でも道成寺は「別伝」と言う重い扱いなので長裃を着ることが多いのです。(薪能などでは汚れるので裃のこともありますが)

囃子・地謡が座附くと幕が開いて、この曲の主題でもある「鐘」が狂言方によって運びこまれます。観世

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能の秘曲「道成寺」②

能の秘曲「道成寺」②

まず道成寺を披く(初演する)事が決まると囃子方にご出演をお願いしなければなりません。多くは自分が習った先生を頼みますが、やはり「座付き(ざつき)」にこだわる方もいらっしゃいます。

囃子方には全流儀のシテ方の謡に対応する手組が出来てはいますが、曲によっては詞章の違いなどで微妙に具合の悪い部分があることもあります。特に道成寺の場合は初めてのシテに神経を使わせたくないので一番具合の良い座付きの流儀を選

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能の秘曲「道成寺」①

能の秘曲「道成寺」①

今回、長男 中森健之介が師匠のお許しを得て、「道成寺」を披くことになりました。

道成寺は、若手能楽師の登竜門、というか、通らなければならない卒業論文のような意味を持つ、能楽師人生の大きな節目となる大曲です。

どんな風に「秘曲」かというと、道成寺を披いたことのある人しか知らない口伝がいろいろあって、それを学び、次代へ継承するという意味でも、大きな意味を持つ曲です。

秘事口伝を全部お話しするわけ

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