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能の秘曲「道成寺」④

いよいよシテが登場しました。重々しい次第の囃子に乗って舞台に入り、いよいよ最初の謡です。「作りし罪も消えぬべし。作りし罪も消えぬべし。鐘の供養に参らん」の詞章ですが、私はここが一番緊張しました・・・ここがマズイと曲の雰囲気が決まってしまいます。

執心の籠もった、それでいて変に荒れたり苦しげな感じのしない美しい謡・・・いまだに上手くは謡えませんが気を使う部分です。

観世流では小書(特殊演出)が附くとここを「三偏返し(さんべんがえし)」と言ってシテ・地謡・シテと三回繰り返します。最初が低く、最後が高くと調子を変えて上手く謡うのは難しいものです。

ここからのサシ謡・道行は披き(ひらき=初演の事)の人にとっては本当に苦しい謡です。普段謡えばどうと言うことのない分量・節なのですが、極度の緊張の中でここまで謡うと半ば酸欠のように苦しくなります。これが二度目になると不思議に楽になるのが面白いですね。見ていても披きの人と何度か演じられている人では全然雰囲気が違います。(別に楽をしてるとか手を抜いていると感じるわけでは無いですよ)

無事に道成寺に着くとシテは鐘の供養を拝もうと鐘楼に近づきます。これを見とがめるのが間狂言の寺男ですが、このシテを止めるタイミングが結構難しい。遅いとシテはかなり舞台の前まで行ってしまうか、止められるのがわかっているように歩調が重くなってしまいます。加速中に丁度良い場所で止まれれば最高です。

寺男が白拍子の美しさに女人禁制と念を押されたにも拘わらず供養の場に招き入れ、女はその返礼に舞を舞います。その際に寺男に対して「あら嬉しや」と謡いますが、これが凄みと喜びの感情を込もっていることが肝心です。「安達原」の「あら嬉しや候」と共に般若を使う曲の独特な謡です。

ここでシテは後見座にクツロギ(行って座る)、舞折烏帽子を附けます。これは後見の仕事ですが非常に気を使う仕事です。本当ならば烏帽子紐を面紐に絡めて万一結び目が緩んでも大丈夫なように附けるのですが、この曲では鐘入りの前に烏帽子を脱ぐので特殊な結び方で顎の下で結びます。きつく結べば安心ですがそれではシテが声が出ませんし、乱拍子の間に苦しくなっては困ります。しかし乱拍子の最中やその後に舞う「急之舞」と言う物凄く早い舞で烏帽子が落ちる事故があっては困ります。ですから後見は中入まで本当に気が抜けません。

この物着(ものぎみ)の最後に大鼓の「シラセ」と言う掛け声があり、ここで小鼓は打つのを辞めて大鼓の一調になります。立ったシテがゆっくり橋懸かりに行き、一之松で正面に向く頃に大鼓の雰囲気がガラッと変わります。それに合わせてシテが鐘を見込む型が「執心の目付」と言い、この曲に三箇所ございます。そして舞台に走り込みいよいよ乱拍子の始まり・・・と言うところで続きはまた次回に。

◇公益財団法人鎌倉能舞台HP   http://www.nohbutai.com/

◇「能を知る会東京公演-道成寺」 
◆日時 2021年6月20日(日)13:00
◆会場 国立能楽堂(JR千駄ヶ谷駅下車徒歩5分)
◆入場料 正面自由席13,200円/脇中自由席9,900円
◆演目
講演「隔てるもの・乗り越える力」葛西聖司
仕舞「清経」津村禮次郎
  「海士」永島忠侈
  「融」 駒瀬直也
狂言「樋の酒」野村萬斎
仕舞「砧」  観世喜正
  「卒都婆小町」観世喜之
能 「道成寺」中森健之介 
詳細 https://blog.canpan.info/nohbutai/archive/816

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