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能の秘曲「道成寺」③

今回からは舞台の進行に沿って書いていきます。

幕内での囃子のお調べが済むと片幕で囃子方が登場します。

服装は「長裃(ながかみしも)」が一般的です。重習以上の舞台は裃が基本ですが、その中でも道成寺は「別伝」と言う重い扱いなので長裃を着ることが多いのです。(薪能などでは汚れるので裃のこともありますが)

囃子・地謡が座附くと幕が開いて、この曲の主題でもある「鐘」が狂言方によって運びこまれます。観世流では狂言の後見が4人がかりで運びますが、流儀によっては間狂言が持って出る事もあります。その時は途中で「何と重い鐘ではないか」と言って休息が入り時間がかかります。

舞台上の滑車の下まで鐘を持ってくると二本の長い竿が持ち出され、それを使って鐘を吊る綱を天井の滑車に通し、笛柱の脇に座っている鐘後見(かねこうけん)に綱を渡します。(これは観た事の無い方には想像がつかないでしょうね)

鐘後見はその綱を受け取ると鐘を釣り上げるのですが、後見は4人いても、綱に触ることが出来るのは正・副の2人だけで、後はその2人が滑って(足袋を履いてますから)前に出て行かないように押さえる「重り」の役目が2人、「綱捌き(つなさばき)」と言って綱を笛柱の環に結ぶ役目が1人で構成されます。

鐘を釣る高さは最初は床机に掛けた大・小鼓のおでこ位に決めています。

鐘が決まると幕が開き笛の「名乗笛(なのりぶえ)」の演奏に乗ってワキが登場します。常は見所から向かって左奥の「常座(じょうざ)」で止まりますが、重い曲では「真之名乗(しんのなのり)」と言って舞台中央にワキが立って自分の名乗りをします。

その後ワキ座に行くにもしっかりした位を保ってワキツレと共に座附くと寺男(間狂言)を呼び出し、鐘の供養を始めるに当たり「女人禁制」をきつく申し渡します。

寺男は鐘の供養があること、そして女人禁制と言うことを高らかにふれ回り笛の前に座ります。この時に舞台をゆっくり一周するのですが、「城固め」と言って曲の雰囲気を重厚にする効果を持っています。

ここで囃子の「次第(しだい)」の演奏が始まりいよいよシテの登場となります。いきなり小鼓が物凄いテンションで打ち始めるので初めて観る方は驚かれますね!が、シテはなかなか出てきません。幕が開くまでも結構長い演奏ですが、幕が揚がってからも姿は見えないままです。

実は、シテは幕の中で特別な足捌きをしていまして、これが「口伝」の一つとなっています。ですから幕の所には道成寺の経験者だけが入ることを許され、幕上げも若い人にはさせません。これは”猿真似防止”のためです。近年ではビデオやDVDでいくらでも舞台上の型は見ることが出来ますが、きちんと師匠から許しを得て稽古を附けて貰わないと出来ない部分がこの曲には数多くあるのです。

幕が開いて暫くすると勢いよくシテが登場し、幕の前で止まります。これが、水の中からスーッと浮かび上がるように見えれば大成功です。囃子のノリとシテの気合が揃わないとなかなか上手くいかない部分でもあります。

続きはまた次回に!

◇公益財団法人鎌倉能舞台HP   http://www.nohbutai.com/

◇「能を知る会東京公演-道成寺」 
◆日時 2021年6月20日(日)13:00
◆会場 国立能楽堂(JR千駄ヶ谷駅下車徒歩5分)
◆入場料 正面自由席13,200円/脇中自由席9,900円
◆演目
講演「隔てるもの・乗り越える力」葛西聖司
仕舞「清経」津村禮次郎
  「海士」永島忠侈
  「融」 駒瀬直也
狂言「樋の酒」野村萬斎
仕舞「砧」  観世喜正
  「卒都婆小町」観世喜之
能 「道成寺」中森健之介 
詳細 https://blog.canpan.info/nohbutai/archive/816

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