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能の秘曲「道成寺」⑤

いよいよ乱拍子です!
が、その前にシテが気を使うのがそのスタート位置。物着から大鼓の一調に乗って舞台に走り込んできますが丁度良い位置に止まるのが結構難しいのです。

鐘の真横より一寸前であまり左に寄らずに居たいのですが、勢い余って出過ぎたり鐘の下に入ってしまったりとなかなか具合の良い場所に立てないものです・・・

そしてシテの次第の謡となり続いて地謡が地取を謡いますが、道成寺の地取は特殊で乱拍子に向かってドンドン勢いをつけて謡い切ります。そこにかぶるように小鼓の鋭いかけ声が掛かりそのまま乱拍子に入ります。

普段小鼓は正面を向いていますが、乱拍子の時にはシテの方に斜めに向き後見が床机を押さえます。物凄く力を溜めて打つために押さえていないと場所がずれていくそうです。小鼓方は人によっては腹にサラシを巻いてより力が入るようにしていますし、昔は「卵料」や「お肉料」と言って事前に栄養を付けて貰うためにお祝儀を包んだそうです。今だったら栄養ドリンクの差し入れですかね・・

乱拍子は小鼓の気合に合わせてシテが足を運び、通常は舞台を左回りに三角形に一周します。小鼓の流儀によって掛け声が長い流儀と短い流儀があり、それによってシテの足捌きも微妙に変わります。

声を引く流儀を例にすると、シテは声を引いているときに足を出したり引いたりして、鼓の音に合わせて爪先や踵を上げ下げします。しっかり本寸法で勤めれば一時間を超えるので尋常ではない体力と集中力が要求されます。

小鼓の「エ-イ、イャ-」と言う掛け声を区切りとして一段と数えますが、短い寸法で七段半、「中之段」と言うシテが扇を左手に持ち替え、後は謡いながら前に四段出ます。これが本寸法ですと十八段(!)で中之段なので気が遠くなりそうになります。

小鼓の呼吸も一定ではなく「序・破・急」の考えで次第に呼吸が浅くなります。ですからシテもずっと気を張って小鼓の息遣いを感じ取らなくてはいけません。文字通りの一騎打ちです。いまでは「乱拍子(らんびょうし)」と書きますが、本来は「蘭拍子」と書いて”最高”と言う意味の囃子事だったそうです。

乱拍子の最後にシテは「成寺(じょうじ)とは名付けたりや」と謡いながら習いの足使いをして拍子を踏み急之舞に入ります。シテも小鼓も固まっていた筋肉を急に全開で動かすので非常にキツイ・・・でもここからが一番の見せ場ですからね。次回はいよいよ鐘入りですよ!

◇公益財団法人鎌倉能舞台HP   http://www.nohbutai.com/

◇「能を知る会東京公演-道成寺」 
◆日時 2021年6月20日(日)13:00
◆会場 国立能楽堂(JR千駄ヶ谷駅下車徒歩5分)
◆入場料 正面自由席13,200円/脇中自由席9,900円
◆演目
講演「隔てるもの・乗り越える力」葛西聖司
仕舞「清経」津村禮次郎
  「海士」永島忠侈
  「融」 駒瀬直也
狂言「樋の酒」野村萬斎
仕舞「砧」  観世喜正
  「卒都婆小町」観世喜之
能 「道成寺」中森健之介 
詳細 https://blog.canpan.info/nohbutai/archive/816

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