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【旅の記憶】鍵トラブルのスペシャリスト

鍵トラブルのスペシャリストを自認している。
と言っても対応のスペシャリストではなく、トラブルに見舞われやすい、という情けない方の意味だ。
いたる所でやらかしてきたし、不可抗力で困った目にもあった。
部屋に鍵を置いたまま安宿の部屋を出てしまい、己を締め出したことは数知れず。

これは、学生の時に初めて海外へ行ったロンドンですでにやっていて、
この時は留学している友人を訪ね、彼女と二人で泊まったB&Bだったのだが
私が宿の奥様に言いに行く役目を仰せつかり、泣きそうになった記憶がある。
なんせ、その状態を英語でどう説明していいのか、皆目わからなかったのだ。
その時、口にした「My key is in my room.」を思い出すたび、恥ずかしくなる。
(今もLock out的な英語しか思いつかない私の弱小英語力よ・・・)

その後、一人旅でキッチンだかシャワーだかに行こうとして深夜に自分を締め出し、
ネグリジェ姿の宿のマダムをインターホンで叩き起こして以来、
ドアの内側にテープで鍵を貼りつけたり、入口の床に置いたりして、鍵忘れを回避するよう努めている。

先に登場したヴェネツィア・リド島のホテルの鍵は最初から調子が悪かった。
到着した日の晩に、部屋に戻って鍵を開けようとしたら開かず、
偶然通りかかったホテルのスタッフに手伝ってもらったのだった。
翌日も上手くいかず、今度は受付のスタッフに来てもらったところ、何とそのお兄さんも開けられず
更にはスタッフ用のカードキーでも開けられないことが判明。
何度も試してもらった末「鍵を差して、少し引いてから押す」というアナログなやり方ならいける、となって
以後それを実践するはめになった。

同じホテルでは、夜に「いい加減な格好」で旅ノートを書いていたら
ガチャガチャガチャ!と誰かが部屋の鍵を勢いよく開けようとする音がして、飛び上がったこともあった。
「No! No! It’s not your room!!」と叫んだら複数の女性が爆笑して、そのまま去っていった。
おい、ふざけんな、謝らんかい、と内心毒づいたことも忘れがたい。

でも、究極に怖かったという点では、パリの短期貸しアパートだ。
そのアパートは、他の部屋には普通にパリっ子が住んでいて、部屋貸し状態なのは私が借りた部屋だけだった。
そしてその古風なアパートは、
〇通路の灯りをつけても、節電のためにすぐ消える
〇エレベーターが3人乗ればぎゅうぎゅうのサイズ。骨組みが見えている感じの旧式の造り。ギシギシ鳴る
という、おそらくパリでは一般的なのだろうが、初心者には少々ハードルが高い物件であった。
そのアパートでの初日の晩のことである。
日本の会社を通して借りた部屋だったので、部屋の使い方の説明は在仏日本人の方に日中にしてもらっていたのだが、
その方から「この辺りは少々暗くなっても気をつけていれば安全」と聞いていたので、日暮れてから近くへ食料の買い出しに出掛けていた。
買い出しから帰り、玄関でまだちゃんと覚えていなかった灯りのスイッチを探していると、
少し後から入ってきた男性が後ろでパチッと点けてくれた。
助かったが、「Merci!」と言うべきか迷ってしまい、更にはあの狭すぎるエレベーターに2人で乗るのは嫌だったので、
黙って階段を上がると、男性も後をつけるように上ってくる。
私の部屋は4階=最上階の奥の方だったのだが、どうやら最上階までつけてくるではないか!
震えあがり、慌てて部屋の鍵を開けようとするが、この部屋の鍵がまた上下2つ付いていて、すんなり開かない代物だったのだ。
鍵をガチャガチャさせながら(ああ、もうダメだ。襲われる、強盗だ、不審者だ)と心の中で叫んでいたら、
男は狭い通路をつと追い越して、一番奥の部屋に入っていった。隣人であった。
考えてみれば、このアパートは古風ではあるが暗証番号式のオートロックもついていたので
無関係の人が入ってくる可能性はかなり低いはずだった。
あの男性も、私が焦りまくって鍵を開けているのを見て、きっと気まずかっただろう。
ごめん、隣人、と思う。
(でも、用心する心は大事だ。この時も、携帯電話で話す振りでもして、先に行ってもらったらよかったのかもしれない・・・)

ちなみにこのアパートの鍵、上下の「開いている」「開いていない」の組み合わせがおかしくなり
一生部屋に入れないのではないか、というピンチもあった。
右回し・左回しもあんまりやると何が何だかわからなくなって、50パターンぐらい試して奇跡的に開いた。

部屋を選べても、鍵は選べない。
教訓。鍵を侮ってはいけない。

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