中井スピカ

塔短歌会所属。短歌冊子Lilyメンバー。第33回歌壇賞。 第一歌集『ネクタリン』(20…

中井スピカ

塔短歌会所属。短歌冊子Lilyメンバー。第33回歌壇賞。 第一歌集『ネクタリン』(2023/7)で第30回日本歌人クラブ新人賞。 noteに掲載お知らせや歌集評、旅行記などを綴っています。

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  • 作品掲載お知らせ・『ネクタリン』や短歌冊子Lilyお知らせ

    短歌、その他作品掲載のお知らせや、歌集『ネクタリン』、参加している短歌冊子「Lily」のお知らせです。

  • note創作大賞2024応募作品(小説)

    note創作大賞2024に応募している小説です。全12回の予定となります。

  • 旅の記憶(旅行記)

    これまでの一人海外旅のエッセイです。実際の旅の順とは関係なく、基本的に一話読み切り。今は2005年のオーストラリア一周の旅を時系列で書いています。(古い情報も含まれますので実際に旅に出られる際は最新情報をご確認いただければ幸いです)

  • Lots of other things -その他もろもろ-

    他のマガジンに分類できない「その他もろもろ」です。 ときどき出現します。

  • 歌集評・一首評・その他書評

    歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。

最近の記事

【掲載のお知らせ】『短歌研究』2024年8月号「8月の新作作品集」

7/20発売の『短歌研究』2024年8月号「8月の新作作品集」に 短歌連作「あふれだすチェダー」20首を掲載していただきました。 機会がございましたら、お読みいただければ幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。

    • 【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第12話(最終話)

      〈 光司 〉    撮影してきたのは坂の多い町だった。主要幹線道路からはるか離れた、電車も本数の少ない支線しか通っていない町。そんな通いにくい場所に建っている、ある会社の紹介ビデオに使う素材を撮っていた。美しい坂道の風情。地域に点在する情緒的な家々の軒先。探さないと見つからないそんなカットばかりをかき集めて、イメージ映像を作り上げる。それより働いている人たちの活躍する様子なんかを使った方がよほどいいのでは、と思ったけれど、もちろん光司にどうこうできる話ではない。  早朝の人

      • 【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第11話

        〈 香乃 〉  朝から香乃は機嫌が悪い。母親と喧嘩をしたからだ。いや、喧嘩だったらまだマシだな、と香乃は思う。喧嘩にさえならない。あの人はアタシの怒りを理解していないのだから。思春期。反抗期。そんな単純な言葉でアタシの気持ちは言い表せない。  日曜の朝は、本当なら大好きな朝だ。家には相変わらず誰もいなくて、静かな空気が漂っている。香乃はいつもよりずっと遅くに起きて、シリアルにヨーグルトをかけた簡単な食事をとった。簡単な、というのがミソだ。シンプルと言いながらも、一般家庭に

        • 【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第10話

          -ミルク同盟- 〈 結 〉  後片付けをして職場を出ると、外はもう真っ暗になっていた。暑くも寒くもない、晴れ晴れとした夜が、結は好きだ。くっりした夜の輪郭に優しさがにじんでいる。どこか親密な気配。それに守られるようにして、結は硬い歩道にパンプスの音を響かせている。  帰りが遅くなったのは、結婚式を数週間後に控えた花嫁が、お色直しのドレスを決めかねていたからだ。どんな形の、どの色にしようか。結は花嫁が沢山のドレスを試着するのを手伝いながら、ようやく自分もまた、彼女の幸せを

        【掲載のお知らせ】『短歌研究』2024年8月号「8月の新作作品集」

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        • 作品掲載お知らせ・『ネクタリン』や短歌冊子Lilyお知らせ
          23本
        • note創作大賞2024応募作品(小説)
          13本
        • 旅の記憶(旅行記)
          29本
        • Lots of other things -その他もろもろ-
          9本
        • 歌集評・一首評・その他書評
          29本
        • 「少年ジャンプ+」× note原作大賞応募作品(小説)
          13本

        記事

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第9話

          〈 光司 〉  狭いパーキングに会社の馬鹿でかいバンを入れてしまうと、光司はしばらくの間、運転席に座ったままぼんやりと前方を眺めていた。動きの止まったワイパーはもはや何の役目も果たしておらず、一層強さを増す雨粒で視界はどんどん霞んで見える。光司は背もたれに深くもたれた姿勢のまま、両手で顔をぐっとこすった。それから濡れそぼった傘を引き寄せ、ドアを開ける。一心に降る冷たい雨の中を踏み出す。  何度やってもあまり気の進む来訪ではない。重い荷物と共にじめじめした階段を上りながら、

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第9話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第8話

          〈 香乃 〉  ずっと我慢しているんですね、香乃ちゃん。そう言ってらしたわよ、と星野の奥さんに言われた。ケーキのショーケースの上で、不覚にも泣き出してしまった、あの後。多分話を聞いてたノンちゃんが慌てて厨房から飛び出してきて、それからタルトにクリームを絞っていたはずの奥さんまで表に出て来てしまった。そんな大事にする気はまったくなかった。アキナのことを誰かに喋って泣くなんて、絶対にあり得ないことだと思っていた。途中までは上手くいっていたのに、気づいたら涙が止まらなくなっていた

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第8話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第7話

          -青い部屋- 〈 結 〉  赤ん坊を抱くように白いチューリップの束を横抱きにして、結は喫茶ひなたの大きな窓から中を窺っていた。右の肩には傘の柄を挟んでいる。降り続く雨は小雨だが、出し惜しみをしているみたいにさめざめと執拗だ。雨粒で窓には沢山の斜線が描かれていて、暗い店内ははっきりとは見えなかったが、それでも啓介がいないことだけは結にも見て取れた。  いつもと同じ日曜の午後。珍しく啓介がいない。昨日、職場の式場で結婚式が終わった後、結は余ったチューリップをもらってきた。ま

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第7話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第6話

          〈 光司 〉  レンジで柔らかくして、種と皮を取ったかぼちゃを裏濾しする。黄色ではない、いっそオレンジ色と呼べそうな、豊かな色彩がボールに広がる。暖かな香り。このまま生クリームを混ぜて団子にするだけでも充分旨いだろうな、と思う。その誘惑に負けないよう、ペースト状になったかぼちゃの上に勢いよく小麦粉をかけて混ぜ込む。パルメザンチーズとナツメグも次々と投入する。機械的に手を動かせばいい段になって、やっと光司は大理石の調理台に乗せてある置き時計を見た。  まもなく夜中の二時にな

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第6話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第5話

          〈 香乃 〉  突然、ごめんね、と謝られてびっくりした。そしてどうしてこんなにびっくりしたのか、その理由がすぐ後から追いついてきた。多分、謝る大人なんて初めて見たからだ。  焼きソバと焼き鳥を平らげてもまだ満腹には程遠いと言う光司が、アキナを引き連れて屋台に舞い戻っていった。人混みの中でやっと見つけた日陰の一画。持ってきたギンガムチェックのビニールシートを敷いて、香乃は結とぼんやり座っていた。対角線に座っていた二人が抜けると、奇妙に離れて見える。香乃は喋ることが思いつけず

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第5話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第4話

          -若草色の車- 〈 結 〉 「そこそこ、その路地を左に。」  丸いフォルムをした若草色の軽自動車が指示通りに細い路地を曲がり、二回の切り返しの末、浄水場の敷地内にある駐車場に停車する。後部座席から真っ先に香乃が飛び降りて、ビニールシートやお菓子を詰めたトートバッグを肩にかけた。温めたアロマオイルのような風がゆらりと車内に流れ込む。  結が運転席のドアを開けると、その匂いは車を飲み込むほどの存在感を示す。結たちの町に水を供給しているこの隣町の浄水場は、毎年桜のシーズンに

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第4話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第3話

          〈 光司 〉  解けかけた靴紐を結び直そうと、カメラバッグを地面に置き片膝をつく。くるぶしまである頑丈なトレッキングブーツには不似合いな、桜の花びらが数枚張り付いている。撮影のため川の浅瀬に入った時にくっついた名残のようだ。光司はそれらを手早く払いのけてしまうと、靴紐をきつく結ぶ。夕闇が追い立てるように迫っていた。今日一日歩き回って撮影した、「晴れた日で、小川のせせらぎと美しく咲き乱れる桜が一緒に映っていること」という絶対条件をクリアした素材。それらのごっそり入ったビデオカ

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第3話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第2話

          〈 香乃 〉  扉がしっかりと閉まるのを背中で聞いてから、香乃はほおっと息を吐いた。胸の真ん中から全身に後悔が駆け抜ける。  ・・・どうしてあんなにテンション上がっちゃうんだ?  今日は落ち着いていくぞ、と心に決めていたのに、アキナのあの顔を見た途端、決意など吹っ飛んでしまう。自分の心を自分でコントロールできないなんてどうかしてる。言った言葉も考えていたのと全然違うし、順番もめちゃめちゃになった。アタシ、何て言った? 頭から順を追って思い出す。アキナの返してきた言葉もそ

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第2話

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第1話

          《あらすじ》 啓介は「喫茶ひなた」を一人で切り盛りしている。親友、光司の妹、香乃は小さな頃から啓介のことが大好きで、今は喫茶ひなたの向かいのケーキ屋「フレイズ」でアルバイトをしている女子高生だ。 喫茶ひなたの常連だった結は三カ月ぶりに店を訪れ、成り行きで三人とお花見に行くことに。最初は嫉妬していた香乃だったが、話している内に結と打ち解けるのだった。 昔の恋人の結婚を知り、今の恋人と上手くいかなくなっている結。 自分の進む道に悩む光司。 啓介への恋心が叶わない香乃。 彼らの心

          【小説】「喫茶ひなたに春が来て」第1話

          【お知らせ】note創作大賞2024応募作品を掲載していきます

          noteで開催中のコンテスト、note創作大賞2024に応募する小説 「喫茶ひなたに春が来て」を掲載していきます。 このコンテストは、このnoteに記事としてアップすることで応募となるため しばらく小説の記事が続く予定です(全12回予定)。 もしご興味やお時間がございましたら、覗いていただければ幸いです。 ちなみにこの小説は、すでに小説投稿サイト「エブリスタ」にて 連載完結しているものと同じ内容です。 ご了承くださいませ。 ※エブリスタのサイトへは以下から飛ぶことができま

          【お知らせ】note創作大賞2024応募作品を掲載していきます

          【旅の記憶】スワンストンストリートを北へ(Melbourne 2)

          新しい街に着いたら、すぐにでもうろうろ歩き回りたくなるのだが、それにはまず腹ごしらえをしなければならない。 この日の私は、列車の中で食べ残しの雑穀クッキーを食べただけだった。 私は街のど真ん中を南北に走るメインストリート、スワンストンストリートの適当な場所でトラムを降りて、 フードコートがあるというビルへ向かうべく東へ折れてコリンズストリートに入った。 このコリンズストリートの東側は、パリの街並みを思わせるということで、通称パリスエンドと呼ばれている。 確かにヨーロッパ風の建

          【旅の記憶】スワンストンストリートを北へ(Melbourne 2)

          【公開記事】静かに問いかける(『歌壇』2024年2月号作品評)

          『歌壇』2024年2月号掲載の作品評(批評対象は2023年12月号)を公開します。 ◇巻頭作品三十首「細道を」より 秋場所は始まりたれば終はりたり奔流のごと時は過ぎゆく 少年にほのかに髭の生えそめて 女自転車に乗る恥づかしさ さまざまな人の来たりて弾いて去る「駅ピアノ」よし「空港ピアノ」も 背に負へるリュックを降ろし旅人はエルトン・ジョンを弾きはじめたり                               小池光 秋の暮らしを詠いつつ、社会問題や自らの老い

          【公開記事】静かに問いかける(『歌壇』2024年2月号作品評)