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伝統と自由のバランス・西川智成の場合

小代焼中平窯の西川です(^^)

私は小代焼という伝統的工芸品に携わっているのですが、度々、

「伝統的な仕事と自分が自由にやりたい仕事、どのようにバランスを取っているのか?」

という趣旨の話題が出ることがあります。

今回は私の場合の『伝統と自由のバランス』についてのお話です。


先に、身も蓋もない答えを言ってしまいますが、

「私は敢えてバランスをとっていません。
自分が良いと思った物を作って、思いつくままに文章を書いています。」




小代焼


まず、私の一番の核となる部分です。

小代焼・焼物師として青小代・白小代・黄小代、そして流し掛け技法を技術の中心に据えながら定番食器を中心に作っていきます。

私は実家に帰って、今7年目~8年目くらいです。

10年を一区切りと考えて、あと2年~3年掛けて同業者やお客さん等の客観的な視点から見ても、合格ラインのロクロや窯焚きの技術を身に着けることを目先の目標にしています。



和食器


和食器も小代焼の技術が核にはなりますが、小代焼では主要な技法ではない焼き締め・刷毛目・土灰釉・鉄絵など、比較的自由に技法を横断しながら和食のための器を作っていこうと思っています。

個人的には和食器の作り手として、北大路魯山人氏を尊敬していますので、魯山人氏の作品に迫ることが目標です。

その中から、自然とオリジナルの表現が出てくれば、まぁそれはそれで良しと思っています。



茶陶


こちらも古小代の茶器が一つの核にはなりますが、刷毛目・黄伊羅保・井戸などを自分なりの解釈で制作していきます。

赤い鉄釉や、薄茶碗はガス窯でも焼きますが、基本的には登り窯での焼成を主軸に抹茶碗を作るつもりです。

最近は登り窯では黄色に発色する鉄釉を使い、天目形のお茶碗も作ってみようかと思っています。

上記はあくまで形が天目形というだけで、釉薬としての曜変天目・油滴天目の再現は考えていません。



陶板画


今月の大阪での個展で初お披露目した作品群になります。

現状ではサルとフクロウをモチーフにしており、しばらくの間はこのモチーフに絞って制作する予定です。

ちなみにフクロウは自画像として作っています。

また、素地は小代粘土を使いますが、ゴス(コバルト)で背景を青くしたりなどしますので、小代焼としての作品ではなく、私の個人的な作品であると捉えています。


『フクロウ 自画像』



動物のオブジェ


以前から制作していたシリーズですが、こちらも引き続き作っていきます。

私がそもそも生き物好きであるということが根本にありますが、それに加えて大学生時代の動物埴輪の造形に感動したことが、元々の制作動機となっています。

比較的大型の円筒形の作品は陶板画と同じく、サルとフクロウをモチーフとし、手のひらに乗るサイズの作品は自由にモチーフを選択するつもりです。

これまでは私の個人的な作品と思って制作していましたが、次回の窯焚きから藁灰釉や流し掛け技法を積極的に使用し、小代焼としての動物作品を作るつもりです。


『フクロウ』 ※焼成前



美術評論


美術評論と言うと大げさですが、このブログを通して美術館へ行った際の感想を書いていきます。

最初は藤田美術館などの、茶陶を中心とした感想を書くつもりでしたが、今では特にジャンルを限定せずに心に残った展示会や美術館について書いていこうという気持ちになっています。

私の根本は『焼き物好き』ですが、そもそも美術・芸術全般に興味がありますので、場合によっては現代アートについても書く予定です。



古陶磁研究


恐らく多くの窯元の方々より、私は焼き物の正確な歴史に執着しております。

研究と言いますか、まぁ気になる事は何でも調べ、有識者へも積極的に質問していこうという態度で古陶磁と向き合います。

現在所属している研究会に上野焼や高取焼に非常に造詣の深い方々がいらっしゃいますので、小代焼のみの歴史ではなく、小代焼・上野焼・高取焼を合わせた多面的な視点から、小代焼の歴史を調べ考察していこうと思います。

私の人生で、一度で良いので小代焼の歴史を詳しくまとめた本を出せれば幸せだなぁと思っています。



哲学


私は宗教哲学者の柳宗悦氏に強い興味関心があります。

ひょっとしたら、他人の目からは異常な執着心に映っているかもしれませんが、これは私の幼少期の体験と固く結びついていますので、仕方がありません。

そもそも哲学とは何かを考えつつ、哲学の土俵で柳氏について深く考えていこうと思っています。

ちなみに、現在の時点で私が共感している哲学者はアリストテレスとデカルトとカントです。



さいごに


10代の若い頃には「やる事を一つに絞った方が、よりレベルの高い作品が作れるのではないか?」と考えた時期もありました。
これは18歳~19歳の頃に、柳氏の思想に多大な影響を受けていたためでもあります。

しかし、現在の私の感覚では、何でもかんでも興味のあることに手を出した方が、かえって一つ一つの事柄が共鳴しあって、全体のレベルが上がるように感じています。

日本語で伝えるのが難しいですが、手を広げ過ぎてとっ散らかるのとはニュアンスが違うんです…。
伝わりますか…?


例えば、古陶磁の歴史に関する興味や知識が、抹茶碗の制作時に活きてくるという感じです。

このブログを読んでいらっしゃる方の中には
「こいつ文章ばっかり書いてるけど、ちゃんと作ってんのか?」
とお思いの方もいらっしゃるかもしれません(^^;

しかし、私の中心はあくまで「良い物を作る事」ですので、ちゃんと作ってますよ 笑


どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。



2024年6月24日(月) 西川智成


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