関係性によって発揮されるクリエイティビティ― ―なぜ「nailmarks」は存在するのか?
フリーランスとして活動する2人のデザイナー飯島、加嶋によって生まれた「nailmarks」。「2人が定期的に行う1on1や、仕事を通じた活動に名前を付けてみよう」。そんな遊び心のある発想から生まれたnailmarksは、3年を経た今、2人にとってどのような意味を持つのでしょうか。集まる意味を考えていく2人の会話は、「関係性とクリエイティブ」という興味深い話に発展していきます……。
取材・執筆 長瀬光弘(ライター)
名前を付けてみると2人にどんな変化が起きるか?
ー前回の記事では主に「デザイン」をテーマに話が展開されました。今日は、「nailmarks」に焦点を当て、なぜクリエイター同士が集まるのか、なぜnailmarksが存在するのか、といったテーマについて考えていこうと思います。nailmarksが生まれる過程は加嶋さんがnoteに書いていますが、改めてその経緯や考えを聞かせてください。
加嶋:2人で1on1をしているときに、飯島さんから2人の活動に名前を付けたらどうか、と提案があったのがきっかけですよね。
飯島:そうですね。2人で仕事をすることが多かったですし、1on1で定期的に話もしている。この関係性は、ただフリーランスが2人いるという形ではもはやないなと感じていました。だったら、名前を付けてみたらどうだろう、と。名前を付けることで、外からの見え方も変わるし、自分たちの中でも何か意識が変わるかなという考えがありました。ただ、すごく先のことを考えていたとか、何か深い狙いがあったというわけではありません。面白そうだな、というのが大きかったと思います。
加嶋:nailmarksは爪痕という意味です。私たち2人はまず仮説を立てて、そこからコンセプトやデザインを作るプロセスを大事にしています。仮説を立てるということは、つまりクライアントの考えであったり、プロジェクトに対して爪痕を付けるということ。2人の活動を総称する名前としてぴったりだと思っています。…というのと、noteにも書いてますが、共通の知り合いの名前をもじったものでもあります。
飯島:名前を付けることについては、私から提案しましたが、そうした考えが思いついたのは、加嶋さんがはじめた1on1があったからです。なので、そもそものきっかけとしては1on1が大きかったように思いますね。
ー名前を付けてから何か変化はありましたか?
加嶋:ロゴを得意とするデザイナーさんにロゴ制作をしてもらったり、notionで自分たちを紹介するページを作ってみたりと、アウトプットは少しずつ生まれていきました。それから、大きな変化といいますか、新たな取り組みとして2人でシステムコーチングを受けるようになりましたね。
関係性に着目をする「システムコーチング」をあえて受けてみる
ーシステムコーチングというのは?
加嶋:コーチングは、一般的には個人が目標達成するために必要な支援を行うことを言います。一方のシステムコーチングというのは、2人以上の間で生まれる関係性をシステムと捉え、その関係性を把握するためにコーチングするものです。
共通の知人であり、システムコーチングの資格を持たれているAkiさんに、月1回程度の頻度でお願いしていて、もう1年ぐらい続けていますね。
ーへぇ、そんなのがあるんですね。なぜシステムコーチングを受けることにしたんですか?
加嶋:1つは、Akiさんとは別の仕事がきっかけでコーチングを受ける機会があったのですが、諸々の都合でその機会がなくなることになったんですね。このままだと、Akiさんと疎遠になるし、なんかもったいないなと思っていました。そのころ、ちょうどAkiさんもシステムコーチングのプログラムを終えたばかりで、試してみたいという時期だったので、だったらnailmarksのコーチングをお願いしてみようかな、と。
ーなるほど。一つひとつの関係性というか、縁を大事にする加嶋さんらしい考えですね。
加嶋:もう1つの理由は、システムコーチングをはじめたのが、nailmarksと名付けて1年以上が経過していたタイミングだったのですが、1on1に何か変化を加えたいなと思っていた時期だったんです。もともと無目的な会話をする機会だった1on1が、長期間続けているからか、自然と仕事の話が多くなり、目的ベースの会話が増えていた感覚がありました。
飯島:それまでも、仕事の話をしないわけではありませんでしたが、雑談と半々ぐらいではあったかなと。それが、ほとんどが仕事の話になってしまう日も出てきたりはしましたね。2人で取り組む仕事の量が増えてきたのも背景にあり、それはそれで必要な会話であり、いいことではあると思います。ただ、何かしら変化がほしいというのは、私も感じていました。
加嶋:それで、システムコーチングを受けてみることで、ある種の偶発性というか、1on1に変化を加えられるのではないかという考えがありました。
飯島:それから、あえてそうしたプログラムを受けることで、自分たちの仕事にも何か活かせる発見があるんじゃないかという考えもありました。ややこしい言い方になりますが、“システムコーチングというシステム”に一度はまってみるのもいい経験かなと思ったんです。
2人の関係性を客観視するための偶発的な会話
ー面白いですね。システムコーチングでは、どのような話をするのですか?
加嶋:いつも、miroを使って話をしているので、それを見てみましょうか。――こんな感じで、Akiさんから何か"問い"を言われて、それに対して2人の考えを出し合うというのが多いですね。
ーウルトラマンの画像が貼ってありますね。
加嶋:これは、2人の関係性を例えると何になるか?というお題だったかと思います。
飯島:この2人は相手に合わせてモードを変えながら仕事に取り組んでいるという印象があったので、同じようにモードを変えながら戦うウルトラマンをイメージとして出してみました。
加嶋:これはあくまで一例ですが、2人の関係性についてさまざまな角度で話して、それを受けたAkiさんからフィードバックをもらう、ということを続けています。他にも、いろいろ組織や関係性にまつわる理論を教えてもらったりもしていますね。
ーなるほど。これって、本来であれば企業研修的な形で、マネージャーや人事の方が受けるのがおそらくニーズとして多いのかなと思います。それをフリーランスの2人の集まりで受けるっていうのは珍しいですね。
飯島:そうですね。ただ、nailmarksを今後会社にしていくから、とかそういう考えは特にありません。そもそもが課題解決のためのコーチングではないので、何か2人の関係に問題があったということでもない。
私の場合は、ただただ純粋に2人の関係性、つまりnailmarksのシステムを客観視して、解明したかったという興味が大きかったですね。
加嶋:それは私も同じ感覚です。システムコーチングを受けることで、もともと考えていた、無目的な会話、偶発的な会話がまた増えるようになりました。そして、そういう会話を通して、この2人の関係性で見えていなかった部分が見えるようになる。それをどう活かすかまでは考えていなくて、ただただわからないことがわかるようになる感覚を楽しんでいるように思います。
ー前回の記事では、リモートワークによって、2人の役割が溶けていったという話がありました。そうした感覚も、システムコーチングを通して持ったものかもしれませんね。
加嶋:そうかもしれませんね。もうそろそろ、この2人の関係性はこうです、という答えを出してみてもいいかなという話もしています。その後にまた変わるかもしれませんが、一度答えを出してみるのも必要なのかな、と。
自分自身、これまでの経験から、デザイナー同士の関係性であったり、あるいはデザイナーとエンジニアとの関係性についてはいろいろと思うこともありました。
“組織の中でのクリエイティブ”への違和感
ーいろいろ、というと?
加嶋:会社という組織、それも、大規模な組織の中で、デザイナーとして働こうとすると、どうしても分業体制のなかに組み込まれてしまう形になります。それは、組織としては必要なことだと思うのですが、一方で窮屈な思いもありました。マネジメントされすぎているというか、余白が小さすぎる感覚です。
じゃあ、小規模なデザイン会社だとどうかというと、営業とデザイナーしかいなくて、受け持つ仕事の幅がすごく広くなるというケースがよくあります。マネジメントがまったくなく、余白が大きすぎる感覚ですね。個人の能力でなんとかするしかない、という状況が生まれやすいかと思います。
ーわかります。クリエイティブな仕事を組織でどううまく行うか、はまだこれというHowがないように思います。エンジニア組織では、アジャイル開発やそのための組織づくりといったある種のフレームがあり、今回の話に照らし合わせるなら、関係性を意味するシステムがある程度構築されていると言えます。デザイン領域においては、あまりそういう話は出てこないですよね。
加嶋:確かにそうですね。どう一定のクオリティ以上のデザインを維持するかという、意味でのデザインシステムの話にどうしてもなってしまう気がします。
そういう意味で、2人以上の関係性からデザインのプロセスがどうなっているのか、システムコーチングを通して深まった考えをもとに、nailmarksなりの答えを出してみてもいいかなと思います。それが何か他に影響を与えるなんてことまでは考えていませんが、少なくとも自分たち自身には何か得られるものがあるかもしれません。
関係性の中からクリエイティビティを発揮する
ーなるほど。今回のテーマである「クリエイター同士が集まる意味」ですが、それぞれの関係性により、それぞれのデザインプロセスあるいはアウトプットが生まれる、というのは1つの解としてあるように思えますね。
飯島:集まる意味について、私も少し考えたのですが、自分の経験を振り返ると大学院での出来事が大きかったように思います。詳細は以前にTweetしているので、そちらを見てもらうとして、思い返すともともと2人以上の関係性の中から、クリエイティビティを発揮することが自分は好きだったのだなということに気づいたんです。
もともと人間関係そのものはあまり好きなタイプではないと思っていたのですが、相談されたり、フィードバックをする行為自体は好きだったんですね。そういったリアクティブな行動はすごくクリエイティブなんだということに、気づいたんです。
加嶋:飯島さんは、たしかにあまり積極的に人に絡んでいく印象がなかったのですけど、オランダに行ってリモートになって以降くらいかな、むしろ意外とSlackで自分から話しかけたりしてますよね。Tweetを見ても全然違和感ありませんでした。
飯島:人と話しながら、クリエイティブをするのがすごく好きで、加嶋さんとの関係性もそれにすごく近いんです。だから、自分にとって、集まることは、お互いにフィードバックし合ったり、アイデアを出し合ったり、そうしたコミュニケーションを通じてクリエイティブを行うために、必要なことだと感じています。
人数を増やす=不確定要素を増やすことでクリエイティビティを刺激する
ーnailmarksは今、人数が増えていますよね。最初2人だったのが、今は十数人に増えている。それは、今話していただいたような、集まることの意味が根底にあるのでしょうか?
飯島:今、振り返ってみるとそうとも言えるかもしれません。ただ、最初はなんとなく2人以外にも人が増えても面白いかもね、ぐらいの話をしていたように思います。
加嶋:実際に、我々と一緒に仕事をする人は周囲に何人かいたので、そういった人たちにも声をかけて、1つの集まりとして見えると面白いのかな、と。
飯島:一度、メンバーで揃って写真を撮りましたね。そういう行為を通して、nailmarksという集まりが形としてもっとはっきりします。ひとつの会社とかの組織ではないんですけど、あえて関わってくれてる人達を一枚の絵として捉えてみたたかったというか。
加嶋:人が多く関わると不確定要素も増えていくので、それを楽しんでいるような感覚です。システムコーチングでは、2人の関係性について深く考えていますが、それが3人になった途端まったく違うシステムになるかもしれない。じゃあ4人、5人、10人を超えたらどうなるか。そういう楽しみがあるから、声をかけて人を集めているのかもしれませんね。
飯島:すごくわかります。複数の人が集まっていると、その時々の仕事に応じていろいろな人と組むことになります。それ自体が新鮮な体験ですし、そうやってフォーメーションを変えながら取り組んで、それぞれのチームでのクリエイティビティを発揮していく。そのための場がnailmarksであると言えますね。
加嶋:これから、もっとnailmarksの活動を発信していきたいと思っています。このインタビューもその一環です。少しでも私たちの考えに共感したり、面白いと思ってくれる人が周りに増えるとその分楽しさも増えるのかな、と思います。
ーなぜnailmarksがあり、なぜフリーランスが集まるのかが、今日の話を通じて理解できました。関係性から生まれるクリエイティブ、というのはとても面白いテーマだと思います。ぜひ、次は他のメンバーの方にもお話を伺いたいですね。本日は、ありがとうございました。
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