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#11 百玉探 ~飲み会のネタにもならない与太話シリーズ~

Google Photoの整理をしていると、100円玉の写真が出てきた。
何故タダの硬貨の写真など、わざわざ写真に残しているのか。
それにはとても深く、底抜けにくだらない思い出があるのだ。
この話に出てくる友人がもしこの文章を読んでいるのなら、懺悔も兼ねてその思い出を綴りたい。
今から話す話は、全て俺がダサいのが悪いのだ。
しかしそろそろ、俺の罪は時効であろうと思う。

(※注意 四~五年前の話の為、記憶が曖昧になっている部分を補う多少の脚色と意図的なフィクションをご容赦願いたい。)

その日、俺は学生時代の友人たちと酒を飲んでいたのだ。
時間の経過と共に人が増えたり減ったりしながら店を転々とし、終電が過ぎた頃、最終的に俺ともう一人、計二人が残った。

ここで皆様に問いたいのだが、仲の良さの度合いに関わらず「サシだと謎に気まずい関係」ってないだろうか?
決して他の友人に比べて関係が浅い訳でも、同席した回数が少ない訳でも無い。寧ろ大人数でいる時の会話のキャッチボール回数は多く、場を盛り上げるくらいだ。
だが二人きりになった途端、そこに急激に厚めの壁が生まれる。
そこに居たはずの最高の相方は一瞬にして、偶然電車で隣り合わせた一回くらいしか喋ったことない同級生、くらいの関係へと変貌する。
つまり、なんっか気まずいのだ。
男女によっても違うのかもしれないが、そういった関係の相手って、いないだろうか?

ここまで語っておいて何だが、最後に残ったその友人が、所謂「サシが気まずい」関係な訳では無い。寧ろ二人で遊ぶことはよくあるくらいだ。
しかし、この日は話が違った。
原因はそう、酒である。

そいつは普段、酒をあまり飲まない。
嫌いなわけではないが、普段からそこまでアルコールを欲してないのだ。
友人間で集まって飲もうとなった時など、そいつは自分だけノンアルコールで過ごし、いい感じに酔いが回った俺たちを自分の運転で海に連れて行ったり、それぞれの家に送り届けたりする。
周りから求められているわけでも、使われているわけでもなく、そういった事を皆にしてやるのが好きなやつなのだ。
良い言い方をすれば「尽くしたがり」
悪い言い方をすれば「ちょいKY」なのだ。

そんな性格の為、今日はみんなで飲もうと集まった時も、飲めないわけではないのに「俺はいいよ」と飲まないことが多かった。
そういった性格から生じるズレが他にも多々あり、寧ろ皆気を遣ってしまうため、学生時代はつるんでいたメンツ間でお互い面倒な雰囲気になり誘わない、といった時期もあった。
だがある程度の年齢になった今、こうやってまた集まれることが嬉しく、そんなことを今更気にしている奴もいなかった。
飲みたきゃ飲んだらいい、そんなものどっちだっていいのだ。

そんな友人だが(以下A君とする。)、その日は酒を飲んでいたのだ。
今日は飲む日、と事前に決めていたらしい。
これはあるあるだと思うが、そうやって普段外で飲み慣れていない奴は、自分のリミッターがわからない為、普段と酔った時の差が激しい。
(防犯や護身の為にも、やはりある程度外で飲んでおく練習をしておくのは大事だ。)
つまりその日、ほろ酔い状態の俺と残されたのはいつものA君ではなく、「酔っ払い野郎(レア度100)」なのであった。

こいつはどうしたもんか、と思った。
いくら普段色んな人に迷惑をかけているとはいえ、他の人の介抱するのはなるべくごめんだ。防げるリスクは防いでおきたい。
とはいえ俺も酔っていたし、「こんな時じゃないと話せないこともあるよな」などと、どうせどちらも覚えていない期間限定の大切な話をどちらかがちらつかせ、結局二人で行きつけのカラオケバーに行ったのだった。
(結局そんな話は一切無かった。)

ゆっくりと酒を飲みながら適当に歌を歌い、それなりに楽しんでいた。
するとどこかのタイミングでA君が、
「B子ちゃんが今からくるって!」と言った。

俺はさらに困った。

二人だとしんどいと判断した俺は、「今から誘ったら来るような奴いないかなあ〜」などとジャブは打っていたのだ。
するとA君も乗ってきて、今会いたい!という友達に呼びかけをはじめ、引っかかったのがこのB子ちゃん、というわけだ。
先ほど話した通りA君は俺がつるんでいた仲間達とあまり交わらない期間もあったので、元々顔が広かったのもあり別界隈の友達も多かった。
B子ちゃんとは流石に知り合いだったが、そこまで話して遊ぶほどの仲ではない別界隈寄りの子で、ましてやまあまあ綺麗な女の子だ。
所謂「友達の友達」。
ギャグマンガ日和1期のOP状態である。

見事に作戦が失敗した。
「気まずい」を倒そうとした結果、更に「気まずい」が仲間を呼んで増えてしまった。
タダでさえ女の子と喋るのは精神を使うのに、飲みの場ともなれば嫌でもカッコつけてしまって、俺は苦手なのだ。

程なくして店にB子ちゃんが来た。
B子ちゃんもどちらかといえば人見知りのタイプだが、ここに来るまでに別で飲んでいたらしく、久しぶり~!とお互い柄にも無いテンションで再会を祝した。
このまま地獄の気まずさに囲まれ、為す術なくやられてしまうかに思えたが、ここで嬉しい誤算があった。
酔った俺と酔ったB子ちゃんは、人見知り同士の化学反応を起こし、思いのほか馬が合ったのだ。
A君もいい感じの緩衝材となり、こんな事なら在学中からもっと話せばよかったな、などと言いながら中々に楽しい時間を過ごした。
失敗に終わったかに見えた作戦は、結果として成功したのだ。

上機嫌で店を出た俺たちは、コンビニで酒を買って始発まで公園で飲むことにした。

事件はここで幕を開ける。

俺はその頃、毎日同じ指輪をしていた。
決して高いものではないタダの雑貨だが、当時好きだった子から貰った、大切なものだった。
指が浮腫んでいる日はちょうどいいが、そうじゃない日は少しぶかぶかだった。
しかし、気にすることはなかった。

公園についた途端、俺の指からスルリと、その指輪が地面に落ちた。
今までぶかぶかでも、落としたことは無かった。
そこは暗く、だだっ広い草むらの中。
俺は一瞬にして青ざめた。

例えばその時俺がシラフなら、一緒にいたのが他の友人なら、俺は大声をあげて指輪を落としたと伝え一緒に探してもらったかもしれない。
しかし何故か、その時、俺はそれができなかったのだ。

何故か?と聞かれても、答える事ができない。自分でもわからない。
無駄な気を遣ってしまったのか、謎のプライドがあったのか。
酔っ払いのA君と、ほぼ初めて意気投合した女の子と上機嫌で来た公園で、このシチュエーションで、俺は「好きな子にもらった指輪を落としたので一緒に探してもらいたい」と言う事が、どうしてもできなかったのだ。

俺はその後も同じテンションで変わらず酒を飲みガハハと笑ったが、内心はもうそれどころではなかった。
どうやって指輪を探すか。始発が過ぎ明るくなってから探すか?いやでも帰らないのかと皆に気を遣わせてしまうかもしれない。かといって一度ここを離れてしまえば、もう二度と出てこないかもしれない。

そうして葛藤している内に、やがて俺の酩酊状態の頭が、遂に1つ、コレしか無いと起死回生のアイデアを弾き出した。

俺は何とか指輪を落としたであろう草むらの周辺に2人を誘導すると、徐に財布から100円玉を取り出し、「これでゲームをしないか」と持ち掛けた。

内容はこうだ。
A君がこれを今から周辺に落とす。それを俺とB子ちゃんが探す。
見つけたほうがこれを貰う。

以上だ。

そう、以上なのだ。

小学生もびっくりのクソルールであるが、酔っ払った状態のA君Bちゃん2人の知能など、最早小学生どころか幼稚園児レベルに等しかった。
2人は嬉々としてやろうやろうといった。

A君が地面に100円玉を落とし、ゲームがスタートした。

そこからの記憶はあまりない。
俺はとにかく必死で、指輪を探した。
やがて空は赤みを帯びだし、B子ちゃんはもうすぐ始発が動くと帰宅した。
A君も、100円くらいもういいじゃないか、といった。

だが俺はこんなところで引き下がるわけにはいかない。
「A、お前は本当にわかっていない。この100円にこそ、そして100円を探すこの時間にこそ、意味があるのだ。バタフライエフェクトという言葉を知っているか?この100円で人生が変わったらどうする?100円に情熱を注げない奴は、1円にも、1億円にも本当の情熱を注げない。お前のそういう所がもったいないんだ」

などと得意の屁理屈と御託を並べまくって、何とかその場に留まり続けた。
俺はそもそも100円など眼中にすらなく、ダサいプライドを優先した言い訳しかしていないというのに。

しかしやがて、俺の体力も語彙も底を尽きた。
それ以上捜索を続けるのは、不可能だった。
空は段々と明るくなってきている。
もう限界か、と諦めかけた、その時だった。

草陰に、光るものが見えた。
俺の指輪だった。

それは時間にして本当に一瞬で、今までの捜索が嘘の様に、そこに指輪が鎮座していた。
俺の心は感動とも安心とも言えぬ、暖かくて優しい光に包まれた。
涙が零れそうなのをぐっとこらえ、A君に悟られぬ様指輪をポケットにしまった。

A君は一連の動作を見ており、何かあったのか?という顔でこちらを見ていた。いっそ全てを打ち明けようかとも思ったが、それではあまりに滑稽だと、ここまで守り抜いたプライドが首を横に振った。

喜んだのも束の間、もう一つ重大な問題が発生している事に、俺はそこでやっと気づいた。
100円玉が無いのだ。

ここまで散々御託を並べた俺から、今更「もういいか」とは、言えない。そうは問屋が卸さない。
言い方を間違えれば、別のものを探していたことが悟られ、先ほど何かを拾い上げた事を咎められるかもしれない。
俺は焦った。俺の中で、やり場のない「これからどうしよう」が蠢いていた。

そんな時、指輪が落ちていた地点から数十センチ程離れた場所だろうか、もう一度光を放った。
まさか、と近づきしゃがんでみた。
それは100円玉だった。

平成23年製造、比較的キラキラとした硬貨。
彼は俺に、「もう大丈夫だよ」と言った気がした。

喜びに満たされ全てから解放された俺は、訳の分からぬテンションになり、とうに酔いの冷めたA君をその後朝が来ても解放せず、飯を食いに行ったり、限界が来るまで連れまわした。
(何の罪滅ぼしにもならないが、コンビニで何か色々奢った記憶がある。)

以上が、俺の失態の記録と懺悔である。
A君には本当に申し訳ないことをした。
冒頭に書いたが、これはもうかなり前の話だ。
今だったら、比較的どんな人の前でも「ごめん!指輪無くした!」と言える様になった…と思う。
どちらが正しいか分からないが、俺は一応これを対人関係やコミュニケーション力的には成長と捉えている。

あの時俺は、100円玉の妖精が指輪を運んできてくれたのだと、本気で思っていた。
ありがとうありがとうと、ただ感謝した。

しかし少し時間が経って考えてみた時、ある一つの仮説にたどり着いた。

「最初からその部分を探していなかったのでは無いか?」

考えてみれば指輪が見つかっていない間、同じく100円玉も見つかっていないのだ。
灯台下暗しとはこの事で、それはスタート地点から割かし近しい場所であった。
その地点を最初からずっと見落としていたとすれば、2つ一気に見つかった辻褄が合うのだ。

まあ今更そんなことはどうでもいいか、と俺は指輪を握りしめた。

今でもA君すまんかったな、と思うことがあるが、人と人とは持ちつ持たれつ、支えあい寄り添いあいなのだ。

その後何年か経ったある日、うちに見覚えのないブレスレットがあった。
珍しくA君が遊びに来て何日か泊っていた後だったので、写真を撮ってA君に送ったところ、
「親友の女の子にもらった大切なものなんだ!ずっと探していたけどそんなところにあったのか!失くしたと思って今度謝るつもりやった、、、ありがとう!!」と返信が来た。

俺はガハハと笑い、そっか、ごめんごめん!今度持ってくわ!と返信した。


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