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夢のような世界

雨が降る外。男女がソファーに座らずもたれ掛かり、テーブルを前にして横並びで話をしている。
女は本を読んでいる。

「俺は夢のような世界に生きたい」
「例えばどんな?」
「わたあめで出来た雲の上の世界」
「わお、ファンタジー。可愛いね、サンリオみたい。他には?」
「俺自身がめちゃめちゃ強くて他の誰も俺に勝てない世界」
「ジャンプみたいだね。でもそれ絶対天涯孤独だよ。はい、次」
「はい次て。まぁいいけど。戦いのない平和な世の中でのほほんと暮らしたい」
「さっきの能力持ってたら全くもって無意味な世界だね。でも平和っていいよね。次は?」
「誰も嘘をつかない世界」
「でも時にはつかなきゃいけない優しい嘘もある。全てが真実ならこの世に平和は存在しないよ」
「でも今そっちが俺についてる嘘は、優しい嘘ではないよね」
「なんのこと?」
「とぼけないでくれ。俺に言ってないこと、あるよね」
「……さぁ」
「あぁ、これが夢なら醒めてくれ。こんな嘘をつかれる世界、もううんざりだ」
「さながら悪夢だね」
「あぁ、悪夢だよ。とんだ悪夢さ。さぁ、吐いてくれ」
「そんな大層な嘘ついたかな」
「あぁつきました。ついてるとも。嘘、というか隠してることがね」
「隠していることと嘘は別物です」
「いーえ、同じです。同等です。頼むから吐いてくれ」
「え、食べたプリンを?」
「ちげーわ!汚ぇな!てかやっぱり食べてた!それだよ!隠してること!俺が買ってきた360円もしたプリン、食べたよね!?」
「バレたか」
「バレるよ。てかしっかり自分で言ったしね」
「だって吐いてって言うから」
「あぁ。言ったとも。言ったともさ。吐いてくれってね。わぁ、止めて、プリンは吐かないで。でね、俺はその隠していることを言って欲しかったの。自分から。わかる?」
「だってそんなに悪い事だと思わなかったし。ごめんね」
「あぁ、うん、更にこんな簡単に欲しかった言葉を貰えるとは。何だここは、夢の中かな?色々なことが思い通りになる」
「じゃあそうかもね」
「なんて嬉しいんだ。ようやく夢のような世界で生きられる日が来たんだ!俺!ばんざい!」
「盛り上がってるとこ悪いけどさ、私が今日見た夢教えてあげようか?」
「え、なになに」
「私があんたを、殺す夢」
「やっぱり現実が1番だね」

女、笑う。
男、立ち上がって冷蔵庫に水を取りに行く。
女、テーブルの下からそっとケーキの箱を出して、テーブルの上に置く。

男、戻ってくる。

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