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平行に見える垂直


交差するその模様を見ながら
僕の横にいる彼は
「全てが直線だったらいいのに」と呟いた

「どうして」と僕が聞くと
彼は「そうすれば交わることを知らないから」
そう言った。

前々から彼には不思議なところがある。
僕と彼は幼なじみなのだが、たまにボーッとしながら何も無いところを眺め、その後考え事をしていることがある。

「何を見てるの」、と尋ねても
「何にも見てないよ」という答えが返ってくる

その繰り返し。

幼稚園の年長の時、彼は僕の家の横に引っ越してきて、同じさくら組になって、仲良くなった。

家が隣だから毎日一緒にいたし
休みの日でも遊んだ。  

彼は何も変わらない。
昔から不思議な男の子。

小4の時の理科の授業で外の虫を捕まえに行ったら捕まえないでずーっとバッタを眺めてた。
そのバッタを、クラスのボスみたいな男の子に踏み潰されても
ただずーっと眺めてた。

あれから5年。
僕らは中学3年生になった。

君は何も変わらないんだ。

僕はこんなに変わってきているのに。

こんなにも、
変わらない君に惹かれているのに。

横でボーッと交差する模様を眺める君の横顔も
その白い肌も
横に長い目も
潤んだ口元も

全部全部昔より好きになっているのに。

君は僕の変化に気付いてなんてくれないんだ。

僕は交差する模様を眺めながら彼に言う。

「交わることを知らないなんてつまらないよ」

彼は不思議そうにこっちを向いて首を傾げた。

「どうして?」

「…だって交わらないと、嫌でも関わらないと、その人を知れないんだ」

「…人」

彼はまた交差する模様に目を向けた。

秋の風が吹き、彼の髪を揺らす。
僕の坊主頭は音も立てない。

「人は、マイノリティを嫌う」

彼はゆっくりと僕を見る。
心做しか、頬が赤らんでいるように見えた。

「だから僕は、交差したくないんだ」

彼はじっと僕を見る。

「…意味が、わからないよ」
「今は分からなくていいよ」

僕を見透かすような瞳をして、彼は微笑む。

「僕は、世間からしたらマイノリティ。でも誰にも馬鹿にされたくないし、されるつもりもない」

「……」

「交差、しない」

「…それは、誰とも?誰とも交わるつもりはないの?」

僕はそう聞かずには居られなくなって、聞いてしまった。
君は少しだけ驚いて、また微笑む。

「…どうだろうね」

手の人差し指と人差し指を交差させて、
彼はまたボーッとそれを眺め始めた。

彼はきっと、僕の気持ちに気付かないんだ。
ずっとこのまま、僕らは変わらずに生きていく。
平行な線を描いて僕らは生きていく。

僕がいつか、勇気を出して彼に向かって垂直な線を描けたら

その時彼は、答えてくれるのだろうか。

答えてくれるといいな。

僕が、大好きな君の最初の変化になるといい。

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