見出し画像

【映画感想文】愛すべき期待外れハリウッドムービー - 『マダム・ウェブ』監督:S・J・クラークソン

 最近、映画館へ行くたび、『マダム・ウェブ』の予告編が流れていた。

マーベル初の本格ミステリー・サスペンスという惹句に興味が湧いて、公開初日に早速見てきた。

 で、面白かったは面白かったのだけれど、けっこうモヤモヤしてしまった。

 というのも、全然、本格ミステリー・サスペンスではなかったのだ!

 騙されたと言えばそれまでなのだが、騙されたという感じでもなくて、腹が立っているかと言えば、腹が立っているわけでもなくて、これはいったいなんなのだろうと、この三連休はあれこれと考えていた。

 そもそも、わたしはなんで『マダム・ウェブ』を見ようと思ったのだろう。実は最近、マーベル作品を追っていなかった。『アベンジャーズ』は何個か見たけれど、途中で、派生作品があまりに多くなってしまって、もういいかなぁ……と消極的になっていた。

 子どもの頃、好きな漫画のキャラクターグッズをコレクションしていたのだが、あるとき何万円もするフィギュアが発売されて、これが手に入らないのであれば他のものも買わなくていいかなぁ……と急に興味をなくしてしまった感覚に似ていた。

 結局、マーベルの新作を見ても、わたしの知らない伏線と小ネタがたくさんあって、どうせ楽しめやしないのだ。それなら、ぜんぶ見なくても一緒と考えるのは自然な成り行きだった。

 ところが『マダム・ウェブ』の予告編を見る限り、一部、スパイダーマンっぽいヒーロースーツは出てくるものの、全体的に知性を使った駆け引きが展開される雰囲気に満ち満ちていた。

 予知能力のある主人公が電車内で三人の少女が殺される未来を見る。たぶん、主人公と少女たちに面識はない。犯人の狙いもわからない。とにかく、最悪の結末を回避するため、知的に奮闘するのだろうと想像させるトレイラーだった。

 これなら、マーベルの知識がなくても楽しめそう。というか、マーベル初の本格ミステリー・サスペンスと謳っているし、きっと、全体の流れから独立した作品なのだろうと思ってしまった。

 しかも、普通に面白そう。主人公はなぜ予知能力を手に入れたのか。三人の少女との隠されたつながりはなんなのか。犯人の目的も気になるし、決められた未来を変えるため、どのような工夫がなされるのか、普通に興味深った。

 わたしは少年ジャンプ+で連載していた『サマータイムレンダ』が好きなので、似たようなテイストの物語がハリウッドスケールで展開されるから、ぜひ大きなスクリーンで見ておきたいと心が躍った。

 だが、蓋を開けてみたら、すべての謎は最初から明かされている上に、未来を変えるのはめちゃくちゃ簡単で、別にハリウッドスケールでもなかった。端的に期待外れもいいところ。かなりビックリした。

 と、言ってしまうと、よくなかったように聞こえてしまいそうだけど、自分の中ではそんなことないので複雑だった。

 なんなら、たぶん、わたしはこういう映画が好きである。でも、どうして好きなのか、理由がわからなくって悩ましかった。

 気持ちはさながら、教科書に載っていた山田詠美の『ひよこの眼』みたいで落ち着かなかった。

 転校生の男子生徒の瞳になぜか懐かしさを覚えてしまう私。そのことをまわりに茶化されながらも、二人の距離は近づいていく。やがて、二人は初めて手をつなぐ。その日、家に帰ると妹がウサギを飼いたいと騒いでいた。母は諭すように「むかし、ひよこを飼って死なせちゃったでしょ」と言うのだが、これをきっかけに私はトラウマになっていた死ぬ直前のひよこの眼を思い出す。そして、男子生徒の瞳に感じた懐かしさの正体はこれだったのだ、とも。

 さて、そんな無意識レベルのノスタルジーをわたしは『マダム・ウェブ』に感じていた。いったいどういう懐かしさなのか。気になって、気になって、夜しか眠れなかった。

(もちろん『ひよこの眼』ほど深刻な話では全然ないです笑)

 で、今日、なんとなく子どもの頃に好きだった映画を振り返ってみたのだが、ぼんやり、こういうことなのではないかという仮説にたどり着いた。

 結論から言うと、わたしは『マダム・ウェブ』に日本テレビの金曜ロードショー的ノスタルジーを感じているっぽいのだ。

 ここ十年近く、金曜ロードショーと言うとジブリ作品だったり、邦画だったり、ハリウッドの大作だったり、ちゃんとした映画を流しているのがほとんどだけど、わたしが子どもだった2000年代はB級映画をバンバン流していた。

 特に印象的だったのは『ザ・コア』という作品。

 突然、地球上で電子機器が使えなくなったり、異常気象が発生したりして、多くの死者が出る大惨事が発生する。調査の結果、地球の核の回転が停止したことが原因らしいと判明する。再び、核を動かすため、選ばれし六人が命懸けの任務に挑む。

 と、どこからどう見ても『アルマゲドン』を意識した内容で、一応、そこそこ期待は持てる。

 しかし、見てみるとそんなことは全然なくて、いわゆる化学考証がめちゃくちゃだったり、そこをそんな雑に処理しちゃダメでしょだったり、ツッコミどころのオンパレード。

 例えば、世界を変えてしまう画期的な発明が人知れず完成しまくっていたり、そんな凄腕の科学者がうっかり計算ミスをして全滅の危機に陥ったり、爆風で防火服の強化ガラスは割れていないのに中の眼鏡がパリンッと割れたり、指摘するのも野暮になるレベル。

 ただ、当時はこういう映画を宿題の算数ドリルを解きながら、わたしは一生懸命見ていたのである。

 そういう意味で、今年に入ってから『哀れなるものたち』とか、『瞳をとじて』とか、『ボーは恐れている』とか、映画史に残るような大作ばかりを見ていたわたしにとって、『マダム・ウェブ』は映画って本来こういうもんだよなぁと思い出させてくれる地元のツレ感があったのかもしれない。

 TSUTAYA全盛期など、パッケージの煽り文句に騙されて、期待外れの映画を何本見せられたものか。時間の無駄とはわかっていても、すでに数百円支払っているため、見ないという英断もできないまま、ずるずるとB級映画を視聴しまくった。

 後に、行動経済学にサンクコストという言葉があると知った。費やした労力やお金、時間を惜しんでしまって、人は不合理な選択をしてしまうという理論らしい。まさに思春期のわたしはサンクコストな映画ライフを送りまくった。

 だから、わかっちゃいるけど、『マダム・ウェブ』を嫌いになれるわけがないのだ。

 なるほど、してみれば、内容に準じてはいなかったけれど、マーベル初の本格ミステリー・サスペンスと銘打った広告戦略は抜群に上手だったと褒めざるを得ない。

 でも、でも、そうは言っても、ちゃんとマーベル初の本格ミステリー・サスペンスを見てみたいから、そこのところは関係者各位よろしくね! 笑




マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大募集!
質問、感想、お悩み、
最近あった幸せなこと、
社会に対する憤り、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください!!


ブルースカイ始めました。
いまはひたすら孤独で退屈なので、やっている方いたら、ぜひぜひこちらでもつながりましょう!

この記事が参加している募集

最近の学び

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?