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【読書コラム】平和に見えて、最後の最後でゾクっとくるタイプのホラーが好き! - 『脳髄工場』小林泰三(著)

 わたしは気になる本があったら、とりあえず買ってしまう人間なので、積読が尋常ならざることになっている。平均して3日で1冊読んでいるけれど、2日に1冊買っているので、どう頑張っても増えていく一方。

 しかも、積読とは名ばかり。ポンッ、ポンッとそこら辺に放っているので、さながら我が家は坂口安吾の部屋みたいになっている。

安吾先輩

 だから、次はなにを読もうかなぁと探すとき、地面をガサガサ掘り起こすような感覚で、フィーリングの合う一冊を見つけたときは世紀の大発見をしたかのような感動がある。たまに、

「うわぁ。この本、面白そう。センスあるわぁ」

 と、自分で買っておきながら絶賛したくなることもある。それぐらい、本気で忘れているのだからどうしようもない。

 最近もビックリするような本を見つけた。まず、タイトルが素晴らしい。小林泰三の『脳髄工場』、いったい、どんな話なのだろうと興味がそそられて仕方ない。その上、ジャケットが不穏過ぎる!

 なにやら固そうな機械を頭蓋骨を突き破って差し込んでいる。たぶん、脳髄にぶっ刺しているということなのだろうけれど、いったいなんのためにそんなことを? ソワソワが止まらなくなった。

 どうしてこんなに魅力的な本がうちにあるのか。いや、わたしが買ったのは間違いないのだけれど、いつ、どこで、なんのために買ったのか、諸々の記憶がないために新鮮で仕方なかった。

 たぶん、誰かにオススメしてもらったか、ネットで目にして気になったからか、とにかく、外的な動機によるものだから内側に答えがないのだろう。

 調べてみたら、『呪術廻戦』の芥見下々が小林泰三を好きという情報が出てきたから、その関係で知った本なのかもしれない。まあ、いずれにせよ、覚えていないけれど家にある本ほど面白いものは他にない。ドキドキ、ワクワク、胸を大きく高鳴らせ、文庫本のページをめくり始めた。

 表題作を含む11個の短編ホラーが収録されていて、そのどれも素晴らしかった。表紙の絵からグロテスクな内容なのだろうと予想していたが、どれもそんなことはなく、なんならスタートは平和なものが多かった。

 たとえば、『脳髄工場』の冒頭では、脳の機能をコントロールする装置を取り付けることで、マイナスな感情を除去できるようになった世界で、その装置を使っていない少年が自らの感情に悩み苦しむ。

 『友達』は冴えない男の子が妄想の友達を作り出すことで心の平安を保とうとするところから始まる。『停留所まで』は小学生男子がバスに乗りながら、都市伝説について楽しそうに話している。『綺麗な子』はロボットペットを巡って、夫婦が意見をぶつけ合う。などなど。

 描写が丁寧なので、現代文のテストに出てくるような小説っぽくもあり、

「全然怖くないじゃん」

 と、余裕綽々、すいすい読み進めているうちに、突然、物語は変な道に迷い込んでいく。まさにギアが数段階も変わるような勢いで、取り返しのつかない陵域へと突入していくのだが、その怖さと言ったら、どれもハッとさせられた。

 ホラーにもいろいろある。小学生だった頃、フジテレビの『世にも奇妙な物語』と『ほんとにあった怖い話』を通して、わたしはその違いを学んだ。前者は日常に潜む違和感の先にある不都合な論理が怖いのに対し、後者は非日常の違和感自体が怖いという点で根本的に構造が異なっていた。

 どちらも面白いので見てはいたけれど、個人的には『世にも奇妙な物語』のタイプに大ハマり。映画でも小説でも、ホラーには最後の最後にあっと驚くオチを求めてしまう。

 中学生になり、近所にあった個人経営のレンタルビデオ屋さんで『SAW』のDVDを借りて観たとき、その思いはピークに達した。

 パッケージからわかりやすいホラーかと思って見てみたら、死体を挟んで鎖つながれた二人の男が何者であるか、その過去を丁寧に描写し、この非日常な世界は日常の延長に存在しているように作られていた。そして、フィクショナルなノンフィクションを観客後受け入れた上で、強烈などんでん返しが示されるのだから、最終的なカタルシスは半端なく大きかった。

 高校生のときには、これまたフジテレビの『放送禁止』というドラマにハマった。

 いわゆるフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)というやつで、夕方のニュースの特集で流れそうな内容の取材をしていたところ、時間が発生し、お蔵入りになってしまったVTRを特別に放送している設定の変わった番組だった。

 しかも、新聞のラテ欄に載らないという謎のしばりがあり、偶然、夜中にやっているところを見つけなければ見ることができなかったので、知る人ぞ知るというか、知られる気がないとしか思えない幻のコンテンツで、わたしが出会えたのもたまたまだった。

 それはDVに悩む若い奥様を取材したもので、隠しカメラを使って、夫の罵声や暴力を記録し、専門家の意見が紹介されるなど、いかにもありそうな映像になっていた。ただ、モザイクもボイスチェンジャーも使われていないし、言葉がやけにセリフっぽいので、よくできたお芝居なんだと徐々にわかってきた頃、現実離れした展開が繰り広げられるので、なるほど、そういうことかと深く感動したことを覚えている。

 後に、ネットで調べて、『放送禁止6 デスリミット』というタイトルだったと判明する。どうやら過去作がソフト化しているらしいので、そこからどどっと見漁った。

 つくづく、わたしは幽霊とか妖怪とか、殺人鬼とか、その存在自体が怖い話より、物語の構成によってゾクッとさせられる話に心をがっちり掴まれてしまうようだと確信した。

 そういう意味では小林泰三の『脳髄工場』はもっと早い時期に読んでおきたかった。どの作品も構成が巧みで惚れ惚れとしてしまう。

 もし、14才の夏休みなんかに出会っていたら、人生が変わっていたかもしれない。それぐらい、自分にとってはドンピシャなホラー小説ばかりだった。

 猛烈な速度で走り抜けるジェットコースターみたいなホラーもいいけれど、じっくりゆっくり上昇し、一気に急降下することで落差を楽しむフリーフォールみたいなホラーがわたしは好きだ。





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