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ロニホーン展@POLA美術館 レポート

全作品、非常にコンセプチュアル。

そして作品は共通して、「シンプルさと添えられた物語」が特徴的だった。

企画展「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」(Roni Horn)
会期:2021年9月18日(土)~2022年3月30日(水) 
会場:ポーラ美術館
https://www.polamuseum.or.jp/sp/roni-horn/

1. 《エミリのブーケ》 Bouquet of Emily

5本の柱それぞれの1面に、アメリカの伝説的な詩人Emily Dickinsonの手紙の一節が引用されている。

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こんなにシンプルな方法で言葉が物質として溶けていくのを表現できるのかと驚いた。

同時に、言葉はある1面から見れば言葉として存在するが、それ以外の面では形を留めない、つまりいくらでも解釈の方法がある、ということも感じた。そしてそこからは引用されているエミリーの叙情詩とのリンクを感じた(彼女の詩や私生活は謎が多く、詩の解釈はいまでも議論されている)。

また、引用されている詩は、正直それ単体ではよくわからないものが多く、文脈を欠いた言葉が伝える内容の不確実性についても考えさせられた。

たとえば、近年よく騒がれる、一部だけ切り取った動画の拡散や、スマホの画面に収まるように短くまとめられたニュースのタイトルなどの問題が脳裏に浮かんだ。

2. 《無題》(10点組、鋳放しの鋳造ガラス) Untitled

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”鋳放しの鋳造ガラス”とは、高温で熱し液体になったガラスを型に流し込んだそのままの状態、という意味だろう。

クリアな物体からとてつもない重量を感じた。

あまりに透明なので、覗き込んだときに引き込まれて突っ込みそうになった。

タイトルはないが、それぞれの作品に文学作品や歌詞から引用した一節が添えられている。

通り過ぎていく人は皆「これは水?ガラス?」「水と思ったけど水面に固まった跡がついているからガラスかな?」「これは1番だから『魔女は山雨の中で、想像していたよりもずっと綺麗だ』…どういうこと?」などと話していく。

言ってしまえばタダの超透明なガラスなのに、ひとつひとつ、しげしげと覗き込んで見て回る人たち。少し引いて部屋の隅からその様子を観察していると、ちょっと滑稽だった。

置かれた場所、添えられた文章にどんな意味があるのか。などと考えてしまうのもロニホーンの狙い通りなのだろうか。

ーーー後からロニホーンのインタビューを読むと、この作品やガラスを使った一連の作品のタイトルに詩の一節が付けられていることについて、「作品とは関係ない引用文をタイトルにするアイデアが気に入っています。」と言っているので、やはり難しく考えすぎていたよう。

参考:https://imaonline.jp/articles/interview/20211026roni-horn/#page-5

3. 《静かな川(テムズ川、例として)》ANOTHER WATER

ロンドンのテムズ川の写真15点からなる作品。
写真中のいくつかの箇所に番号が振られており、脚注のように文章が添えられている。

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こうやって静止画として切り取られた川をまじまじと見ていると、まるで川ではないものを見ているように感じる。

1枚の写真に100もの脚注をつけてしまうロニホーン、普段どんなことを考えながら生きているのだろう。

ーーー後から調べてみると、8割の脚注は撮影前につづられたものらしい。

4. 《ハック・ウィット -安い痛み》Hack Wit -aching cheap

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文字の描かれた紙を重ね、切り、ずらし、再度張り付ける。1とは違う方法で、言葉が溶けていった。

どの作品も共通した工程で丁寧に作り込まれていて、この作業を繰り返すことは彼にとってある種の心の安寧でもあるのではないか、と感じた。

5. 《あなたは天気 パート2》You are the Weather, Part 2

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温泉につかる1人の女性の顔を、6週間に渡り撮影し続けた作品。なんとその数、100枚。

四方の壁に同じ高さで写真が並べられた展示室をぐるっとしながら、これだけの枚数同じ人の顔を眺めていくと、表情の違いがよくわかる。

「あれ、さっきまで無表情だったけど、この1枚だけちょっと口角が下がっていて、怒ってるかな?」という具合に。

一周し終えて改めて部屋全体を見渡してみると、同じ顔の写真がぐるりと展示されている空間はとても狂気的なのだが、1枚1枚よく見ると全く異なる表情の女性が映っているのであった。

『少しいい方を変えましょう、会場でぐるっと見回すような構成にしている理由は、この作品が循環している出来事の集合体を表しているからなのです。』

写真作品といえば、『円周率(Pi)』の展示方法が印象的だった。本作品と同様に四方の壁に写真が並べられているのだが、その高さは目線よりもだいぶ上で、身長低めの私にはなんなら少し見辛いくらいだった。(そこで真ん中にあるソファに座って眺めていると、写真同士の繋がりが少しずつ見えてくる。)

ーーー後から調べると、この展示方法は没入感を作り出すため意図的にされたようだ。実際鑑賞中も輪の中に落とされたような感じがして、輪廻からは自分達人間は抜け出せないと言われたかのようだった。

以上、レポでした。

参考




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