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今日の音楽@上野のBar

先日、とあるイベントの帰りに普段は通らない道を上野駅に歩いて向かっていると、駅の入口のすぐ手前に、アメリカレトロ風の雰囲気の良さそうなお洒落なバーを発見。ドアが開放されている入口の空間を通して店内を覗くと、ドナルドフェイゲンの名盤”The Nightfly”のレコードジャケットがインテリア的に飾ってある。

左下のアルバムジャケットは、コンテンポラリーレコードを当時代表するジャズミュージシャンが参加した高音質盤、
ソニーロリンズの”The Contemporary Leaders”(1958年)
最高のミュージシャンを集めて高音質で収録する、
という同作のコンセプトを暗示しているかのよう

その他、八十年代の邦洋楽を中心としたレコードが壁にかけられていて、レコードが聴けるであろうところに心をくすぐられて立ち寄ってみることにした。

開店直後でお客は他に誰も居ない。バーに腰かけて、ビールを頼んで店内を眺めていると、レコードプレイヤーと真空管アンプのオーディオに加えて如何にも凝ったレコード、書籍やらレア物のウイスキーが置いてある。

ウイスキーの話をお店の方に投げかけると、「オーナーの趣味なんです。このウイスキーは確かにレアで入ったばかり。どういう経路なのかは分かりませんが、オーナーの伝手で仕入れています」とのこと。

本記事のヘッダー写真にある年代物のジュークボックスを眺めていると、その方が「まだ現役なんです。たまに壊れるのですが、その都度修理して稼働しています」とのこと。よく見ると電子ピアノも製造していたウーリッツァー製。そのピアノの音色に興味がある方は、こちらをどうぞ。

約80曲あるジュークボックスの楽曲は邦楽と洋楽が半々で、シティポップ、八十年代の歌謡曲やロックが中心の選曲。「渋い選曲ですね」と話すと、「オーナーの趣味なんです。外国のお客さんが多いので、山下達郎や竹内まりやといったシティポップのリクエストが多いんです」とのこと。

音を聴きたいので、100円を入れて先ずはサムアンドデイブの”Hold On, I‘m Coming”をかけてみる。すると自動的にスピーカーの音源入力がレコードプレイヤーからジュークボックスに切り替わって音楽が流れてくる。如何にもアナログな、ドンシャリが効いていないラジオ的な音質が更にまろやかに聴こえる印象。以下、ブルースブラザーズのワンシーンで流れる音楽です(2:26〜)。

しかし、音が明らかに何か物足りない。期待していた迫力あるホーン類が僅かしか聴き取れないのだ。お店の方に違和感を伝えて、確認のために、スティービーワンダーの”Superstition”をかけてみる。

すると音的にはある程度カバーされているものの、明らかにモノラルなので、そういうものかと思っていると、お店の方が気を利かせて下さって、ブルースブラザーズのサントラ版LPを探し出してレコードプレイヤーでかけてくれた。

かなり年季の入ったドイツ製プレスのレコード

大好きで何度も聴いていて、オーディオ試聴の際のリファレンスにも使うことのあるアルバムなので、その違いから何かがおかしいことを確信する。物足りなさを通り越し、違和感がムズムズして堪えられないほど。ステレオでも無いし、レイチャールズの”Shake Your Tail Feather“も明らかに音にパンチが効いていないのだ。

我慢できなくなって席を立ち、二本設置されているシェルフ型のスピーカーの中央に立って音楽を聴くと、なんと左側のスピーカーから音が出ていないでは無いか。

お店の方にお伝えすると、会話で頻出していたオーナーが裏方から登場。サランネットが外されて裸の状態の左のスピーカーに耳を当て、更にそのコーン部分におもむろに手で触れて、音が出ていないことを確認すると、オーディオ機器の背面にあるケーブルの接続箇所を確認し始める。レコードの出力、アンプのスピーカー出力、スピーカーの入力端子等々、あちこちに触れること約五〜六分、ようやく左のスピーカーが復活。オーナーは「直りました」と言うと、また裏方に戻って行った。

その後、ストレス無く無事にA面が終了。映画は見た事がないけれどこのアルバムが好き、というお店の方が更に気を利かせてレコードを裏返し、B面冒頭曲のアレサフランクリンの”Think”をかけると、左の音源問題とは別にそれまで気なっていた音の曇りや籠り感が、一気に、そして見事に晴れた。

アレサの歌声が今まで耳にした中で最も生々しく耳に迫って来るのだ。お店に入った際に期待していた音はこれだと満足したのだが、ふとA面とB面の状態に雲泥の差がある理由が気になった。恐らくは、A面ばかりかけられたレコードでそちら側は疲弊して劣化が進んだ一方で、登場機会の少ない憂き目に遭った裏面の品質は維持されて現在で光輝いているのだろう、と勝手に解釈した。MP3とCD以上に音質の差がある感じ。そう言えば、CDが登場した時の「音質が劣化しない」、「ディスクを裏返さなくて良い」というレコードに対抗する謳い文句がまさにこれなんだと認識した次第。

もう少し聴きたかったものの、次の予定があったので店を出た。なかなか体験できない貴重な経験をさせてもらって感謝です。

素敵な一日をお過ごしください。

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