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今日のジャズ: 3月7日、1957年@ロサンゼルス

Mar. 7, 1957 “I’m An Old Cowhand”
By Sonny Rollins, Ray Brown & Shelly Manne
At Contemporary Recording Studio, LA for Contemporary (Way Out West)

アメリカの録音技師に東⻄横綱がいるとするならば、東海岸はブルーノートのバンゲルダー、⻄海岸はこの作品を手掛けたロイデュナンとなる。

レーベルの特色はあるものの、両者の特徴は対照的。恐らくは当時の主な音楽視聴環境だったラジオや低分解能のオーディオ機器を想定した中音と低音を凝縮してゴリゴリ押し出すゲルダーに対して、デュナンは当時の流行語となっていたHi-Fi、音に味付けの少ない原音に忠実な音(High-Fidelity)をカラッと愚直に追求している。

テナーサックスの巨匠、ロリンズの二十代半ばにして絶頂期の神がかった演奏は、ゲルダーの凝縮された録音と本演奏の鮮明で垢抜けたデュナンによる録音がそれぞれ残されているが、どちらも高次元の出来栄えで甲乙付け難く、軍配を上げるのは困難。同時期のゲルダー録音は、今後紹介していきたい。

秘密主義を貫いて録音機器等を隠し通したゲルダーと録音機器をアルバムに掲載するオープンなデュナンの姿勢も真逆。

演奏しているロリンズの個人的な好みはどちらなのだろうか。勝手な憶測で物申すと、「それぞれの良さがあるから両方」と迷う事なく言いそうだ。

白人清音派ドラムの代表格、シェリーマンの冒頭のコミカルなリズムから始まり、 ロリンズ独特の絶妙な間合いで外されたリラックスしたメロディーが紡ぎ出され、それを滑らかに取り持つレイブラウンのクリアで重いベースの組み合わせが何と相性の良い事か。

ロリンズの特徴である音階の上から下まで隈なく使った先の読めない奇想天外さは、ここでも存分に発揮されている。

マンの耽美なリズム、特にハイハットの美しさがまさにHi-Fiに収録されている。先に取り上げた五年後2月5日の東海岸録音のマンの作品と比較してみるとスタジオの機器、録音技術、プロデューサーの意図、空気感の複合要素で音質が随分様変わりしている事が分かる。

この曲の楽しみ方はベースラインを追い掛けること。和音楽器の無い自由度の高いトリオ編成だけに、個々の力が問われていて、特にそれはソロを取るサックスとリズムを司るドラムの間を取り持つベース奏者の真価が問われるから。それを難なくやり遂げるのがモダンベースの大御所、レイブラウン。2:50秒から50秒続くベースソロを含め、最初から最後までロリンズに匹敵するメロディーとユーモアのセンスを発揮した力強い演奏が展開されていて、この時点でモダンベースの典型的なスタイルが完成されている事が分かる。

最後がフェードアウトするが、その先に何が起こるか分からない演奏の面白さが興味をそそる。録音も66年前とは思えない程の高音質だから、何も考えずに音楽に酔いしれたい。

曲は名作曲家ジョニーマーサーによる映画「愉快なリズム」向けの音楽、邦名は「俺は老カウボーイ」というウエスタンのテーマで如何にも⻄海岸録音らしい。

アルバム名も、東海岸に拠点を置くロリンズによる初めての⻄海岸録音を受けて「道を外れて⻄へ」。レーベルはデュナンをスカウトした事で始まるコンテンポラリー。

アルバムジャケットも西部開拓的なワイルドウエストのイメージ。

本アルバムのライナーノーツに”Internationally well known”と紹介されているこの写真家、William Claxtonを調べてみたら、確かにその通りで、見た事のある写真が幾つか出てきた。ジャズに造詣の深い写真家だが、スティーブマックイーンの写真で特に有名な方。

チェットベイカーの格好良い写真もある。Claxtonは、数あるジャズミュージシャンの撮影を行なっていて、”Jazz Seen”というドキュメンタリー映画の題材にもなっている。

これらのシリアスな写真と比べると尚更、ロリンズのユーモアさが伝わってくるし、それはまた、この作品のテイストを表現しているように感じられる。

因みにアルバムジャケットのカラー写真化は、この頃を機に普及していて、それまでは絵や白黒かセピア調の写真か、その組み合わせが大半。カラー写真のみならず、カラー印刷技術の開発と普及によって、ジャズのアルバムジャケットの主流となってゆく。名盤”Ella and Louis”の印象深い鮮明なカラージャケットが、1956年の8月録音でカラー化の最初期の一枚と言える。

セロニアスモンクの名盤”Brilliant Corners”も1956年10月以降の作品で、これもまた初期の一枚と言える。

マイルスの初カラー写真アルバムジャケットも調べてみたら1956年5月以降に録音された作品。

ロリンズのジャケット写真が仮に白黒だったら、西海岸の特徴たる燦々とした陽射しの表現が難しいだろうから、アルバムの印象も全く異なったものだったに違いないと、改めてジャケットの重要性を感じた次第。

そして写真家の被写体の個性を的確に捉える秀でた腕にも敬意を表したい。当時、カラーフィルムはとても高価だったのだろうから、尚更そう思う。と、ここまで書いて、もしや、と思ったら、同年1月19日に収録された同じコンテンポラリーレーベルの手掛けたアートペッパーのアルバム写真もClaxtonの手によるものだった。

ベースとドラムのリズムセクションが気に入った方は、本作品の直後に録音されたバーニーケッセルのギタートリオ作品も是非どうぞ。

【3/15追記】
noteクリエイターの、とらねこさんに「今日の魅力的な記事」の一つとして本記事をご紹介頂きました。どうも有難うございます!

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