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東洋思想のこれまでとこれから

日々、GAFAのサービス使って、テクノロジーとかクリエイティブとかカタカナ使って仕事をして、NetflixみてSpotify聴きながら生活してる。

でも、5年ほど前に仕事でマインドフルネスアプリの設計に関わってから、東洋思想って面白いと東洋人として改めて再認識したのと、あとみんな大好き「キングダム」は同じく好き。
2021年のNHK大河ドラマになったり、2024年から一万円札の顔にもなる渋沢栄一の再評価で「論語」に興味を持つ人も増えそうだなということで、東洋思想についてのゆるふわ雑記。

東洋哲学の源流「諸子百家」

今から2500年以上前、乱世の春秋戦国時代(キングダムの時期)に生まれ、立身出世のための生き方、ビジネス書でもよくみる「孫子」や、広大かつ膨大な人口の中国の統制に用いられている儒学、帝王学として経営コンサルで使われる儒教系の「易学」など。今なお機能する古代中国思想。

乱世に思想という弁舌一本で各地の諸侯の政策を盤石にし、覇者にするために思想家が争った時代。
「孔子の論語」「孟子」「筍子」「老子」「荘子」「韓非子」「孫子」「呉子」
なんかが出てきた。
諸侯につく思想家たちは理論で戦う「百家争鳴」というラップバトルみたいなこともしてた。
現代の中国政府はラップ禁止令を出してるけど、諸子百家の時代にできた漢詩(四書五経)からずっと中国って韻踏んでて、ヒップホップが盛んな四川省の成都出身のHigher Brothersはアメリカ進出もしている。

春秋戦国時代の諸子百家のジャンルはざっくりとこれ。
儒家:孔子、孟子の儒教系
道家(老荘思想):老子、荘子の道教系
法家:韓非子の法令遵守系
兵家:孫子の兵法で有名なやつ
墨家:自分からは戦わない墨子の非攻系

孔子の論語は、キリスト、釈迦、ソクラテスばりに口承で、弟子たちが孔子の死後に書物というパッケージに落とし込んだもの。
道徳的「仁」の思想で、今では古典だけど出てきた当初は支配層、知識層以外にも分け隔てなく「知恵」を与える危険な反体制思想とされているのが面白い。
日本の古事記を仮に1400年前としても古い時期の思想で、仏教より早く孔子の儒教は日本に入ったと言われ、日本の乱世で徳川家康が天下とった400年前の江戸時代から庶民レベルまで浸透して「論語読みの論語知らず」という言葉が流行るほど。

冒頭に名前をあげた明治時代の実業家渋沢栄一は、「論語と算盤」で、
「経済活動も拝金主義に走らず道徳的であるべし」
「武士道は実業道」
など説いて、今でいう社会起業系やソーシャルグッドの先駆け。


神道、儒教、仏教…

古代中国は乱世に多くの思想を生み研ぎ澄ました。
日本では戦いのない平和が約260年続いた江戸時代に宗教が多様化した。

日本の原風景には、神道、儒教、仏教の三教に加え、蘭学、キリスト教、民間信仰とが単体ではあらず、複雑に関係していた。

仏教が政治の中枢だった時代もあるし、仏教を各宗派を認めつつ幕府が儒教を国教的にそえる時代もあった。
鎖国時代に、宗教対策でオランダ人が隔離されていたが、中国人は貿易中心の中で商人と混ざって僧侶も渡り、徳川家に囲われ日本で骨を埋めた僧もいる。
今の日本には国教がない。
明治時代の国家神道の話は複雑なので各自で解釈してほしい。


現代も通用するもの

多様性や混沌を受け入れる荘子
混沌を説いた荘子は「胡蝶の夢」で夢とうつつ、自己と対象に区別がないという詩を残したけど、万物斉同(万物は同じである)として、相対的なものさしを否定。
言ってることは、現代のGAFAも取り入れている「アンコンシャス・バイアスに気づこう」や、最近よく聞く「不確実性の高いVUCA時代に『絶対というものはなく』現実より精神世界で俯瞰して社会と自分を見よう」
とほとんど同義。

リバタリアンの楊朱
楊朱の主張した個人主義は現代のリバタリアニズムにも似ている。
生に差異はあり、平等な死しかないなかで、賢愚も美醜も貴賎もどうしようもないので、国家のために我が身を犠牲にせず、今ここにある自分の利己と快楽のために生きろという。
人間の寿命を運良く長く生きられても、100年が限界。何もわからない子どもから、ボケ老人時代を引いて50年、眠ったりぼーっとしてるとまた半分の25年。病気、ケガ、悩みごとを引いてさらに半分の十数年しか楽しく過ごせないのに、世間の評判や法令遵守、うわべの品行方正さなどは馬鹿げた矛盾だというスタンスで、不確実性の高い乱世に支持された。

世界のエリートが読んでいる(らしい)孫子の兵法
ビジネス書としてたくさん投げ売られている孫子の兵法は、敵国を倒す上で軍事力を使うのはコスパが悪い。如何に正面衝突を避け、あざむき、屈服させるかを十分にシミュレーションし、勝ち目のある戦だけにしろという。
日本人だと、武田信玄、徳川家康とかもお気に入りだった。自衛隊、アメリカ陸軍も教科書に使ってる。

東洋の学問
日本も諸子百家に負けない知の巨人は色々いる。例えば南方熊楠。
中国の漢文を素読し、地誌、博物の体系的哲学を体得し、明治にイギリスの科学誌ネイチャーに論文を発表したり、研究で通ってたイギリスの大英博物館を追い出される論争をし(しかもぶん殴って)、言語による理論だけでなく、身体的修練や行動を伴う仏教(華厳宗とか)に関心を持ち、真言宗の僧侶と文通や対話をしていた。
彼の自然観はSDGsを持続可能なものにするトランジションデザインなどとも親和性が高く、私は注目してる。水木しげるがマンガにするくらいクセが強いのでシンプルに面白い。


マインドフルネス
これは800年以上前の鎌倉時代に武士や農民に広まった仏教の禅の思想が「日本的霊性」であるとして鈴木大拙が1950年代に禅をアメリカで啓蒙したり、60年代のヒッピー文化とか色々あって「マインドフルネス」とローカライズされた思想。Calmというマインドフルネスアプリは8800万ドル調達しユニコーンスタートアップとなった系譜とつながる。

日本にとっては、逆輸入という外から評価されたありがたみと、「マインドフルネス」という言葉のおかげで宗教色が消えて、気軽なメンタルトレーニングとしてもウケている。
ちなみにキリスト教が強いアメリカでは「コンパッショネイト・マインドフルネス」という内省より他者への慈悲、思いやりも取り込んだものがあるらしい。

こんまり
礼儀正しく、ゴミ部屋をスパークジョイする東洋ブランディングにより、Netflixの人気番組を持ち、世界30カ国から依頼がくるまでに。

Ikigai
日本の「生き甲斐」の概念が2017年以降、書籍やゲームになり自己啓発的な文脈で流行っているらしい。

Mottainai
ものを再利用したり、人と共有して長く使い続ける日本のバズワード「シェアリングエコノミー」のような使われ方をしている。

この辺の謎のフランス人ブランディングに近いかもしれない…。フランス人、何者?


ポスト・ヒューマニズムと東洋の自然観

ざっくりいうと西洋が神との邂逅で、東洋が宇宙との一体化だったけど、国連でパンチラインを繰り出したグレタ・トゥンベリ然り、東洋の一切の生きとし生けるものが統一されている自然観が見直されている。
20年前のもののけ姫は、自然のために戦う少女や、たくましい製鉄所の女性たちは#MeToo以後の女性像のようで予言的だという記事。

フェミニズム研究者(ダナ・ハラウェイ、ロージ・ブライドッティたち)はもうこの世にいない白人男性たちが築いた哲学(近代・西洋・白人・男性的)へのカウンターとして、性差をすっ飛ばして、もはや人間は害に近いというポストヒューマン思想もでてきている。それは期せずしてかはわからないが、東洋的自然観に接近している。


更新される東洋思想

信用スコアにより、まるでジョージ・オーウェルの「1984」のようなディストピアと言われる中国は、テクノロジーにより中華未来主義(サイノフューチャリズム)を享受し、キャッシュレスによる凄まじく便利な生活を実現し、あっけらかんと町中の顔認識監視カメラの精度をバライティ番組で競っている。

日本企業の「イノベーション視察ツアー」もシリコンバレーから深センに移り、インドへと移っている。
幸福な監視国家・中国 」には、タガが外れたようなテクノロジーの加速と中央集権の監視の明暗の「明」の部分も書かれていて面白い。

日本が西洋文化に染まりきる前、第二次大戦中のアメリカの諜報部の依頼で日本人を分析した文化人類学者のルース・ベネディクトは「菊と刀」で日本人についてこうあらわした。

類例のないくらい礼儀正しい国民であり、しかしまた彼らは不遜で尊大である。この上なく固陋(前時代的)であり、しかしまた彼らはどんな新奇な事柄にも容易に順応する。彼らは他人の評判を気にかけて行動するとき、良心を持っていない。

日本という島国は歴史だけでなく大陸と海を隔てた位置も国民性に関連する。良く言えば、和を大切するし、日本人による日本人論の定番『「空気」の研究』でも相互監視的な国民性と指摘している。

中国で社会実装されたデジタルによる「監視」を古くから人力でやってきたのが日本人だが、SNSによるヒステリックな分断の論争は日々起きている。「自由か、さもなくば幸福か?」で語られたテクノロジーによる「ハイパー・パノプティコン」という概念(フランスの哲学者フーコーの考えの発展系)はテクノロジーによる監視は案外、日本人と相性が良いかもしれない。

デジタル鎖国により見えない中で、急成長している中国は面白いけど、台湾は大胆にリベラル化しており、興味深く追っている。
・2016年台湾総統に女性である蔡英文が任命される。
・2016年台湾行政院(内閣)では唐鳳がIT担当大臣が35歳で入閣。トランスジェンダーであることも公表している。
・2019年5月に同性婚の法制化を実現
・2020年のアメリカ大統領選挙には台湾の移民二世アンドリュー・ヤンが出馬する。彼はテック関連の事業家経験から、テクノロジーにより職を失う人々の救済としてベーシックインカム導入を推している。


AIによる自動化で「消える職業」「なくなる仕事」ができ、暇と退屈の時代が到来する。平和が約260年続いた暇と退屈の江戸時代は多くの文化が花開いた。
江戸時代中期のパンク絵師曾我蕭白が描いた中国の詩人林逋(林和靖)は、官に仕えず、隠居してたまーに詩を書いて「梅が妻、鶴が子」とした人。そういう人がこれから増えるかもしれない。仏教では「無常」という時間軸が絶えずうつろうもの、「無我」はうつろいの中で自己にとらわれ無いようにという考えがある。
この絵で、林逋は完全に暇過ぎて無我で目が死んでるけど。

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