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離島

長女が、色々考えた末、会社を辞めると言い出したのは、昨年の初夏だった。かなり、それから時間が経ったが、とうとう、この年明けに、退職することになった。

本人とも会話をしたし。本人も、ずっと考えあぐねての結論なので、家内も、私も、長女が戻ってくることを、最終的には、許すことにした。


そうこうしている矢先、年明けに、義弟から飲みに来ないかと誘われて、家族で義弟宅に食事に出た。

義弟は、隣町に住んでいる。年末、義母が来たときに、離島に就職活動に行くのだと、冗談ごかしに会話をしていた。

義弟宅で、飲んで、話が盛り上がってきたときに、義弟が、言い出した。もう、辞表を出したのだと。


一瞬、冗談かと思ったが、本人は、至って冷静だった。奥さんは、家内の妹だが、辞表を出したことは、知らなかった。ほどなく、大学生の姪が帰宅したが、姪は、かなり、怒っていた。

義弟は、ひとりで決めてしまう癖が、昔から、ある。家族に告白する機会を、我が家を使って、設けたようである。

仕事は、楽しいとは限らない。むしろ、辛いことのほうが、多いのではないかとも、実際、思う。

ふと、自分自身のことを考えた。なぜ、仕事をしているのか。そして、どうして、今の仕事を選んだのか。

私は、幼い頃から悪ガキで。人付き合いが、うまくはなかった。むしろ、ちょっと、引っ込み思案で。だから、人と接する、営業職を、敢えて選んだ。

少しでも、人付き合いに慣れて。ちょっとは、まともな大人になりたかったのである。本心としては。


長女は、1月末に、引越しの日程が決まっている。そして、義弟は、4月には退職し、離島へと引っ越すという。


義弟が、しみじみと、吐露した。

辞表を出してから、ようやく、まともに寝ることができるようになった。今までが、辛すぎた、と。


身内のことだから、関係無いとは言えない。だが、死んでも我慢して働けとも、言うつもりは、ない。

なぜならば、私は、こう思うのである。

人は、生きるために働くのではあるが、働くために生きているのではないのだ、と。



義弟宅からの帰り道。私は、しみじみと、省みた。私は、少しは、ましな人間関係を築ける人間になったのだろうか。


こたえは、まだ、出ていない。もう少し、私は、今の職場で働こうと思っている。そして、なるべく長く、現役で働き続けたいとは思っているものの、退職を一度して、なお、継続雇用をしてもらい、今の仕事を続けられる保証は、何処にもない。


心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

コジ。今の仕事を、どうしても続けたいとも、思っていないんだろう?


出来得るならば、仕事は、人のためになるような仕事をしたいものだ。そして、なおかつ、楽しければ、言うことはない。そうは、うまくいかない。だが、仕事は、辛いだけでは、続かない。そこに、どういう意味を見出すのかは、結局は、自分次第なのだろう。


長女が、戻ってきたときに、どんな顔をしようか。そして、義弟が、離島へと旅立つ前に、どういう送別をしようか。

そんなことを、ぼんやりと、考えながら、家に着いた。

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