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先日、noteの、ある人の記事を読んでいて、思い出した。ちょっとした、長男と家内との思い出だ。

もう、20数年前の話だ。写真だとか、記録だとかは、一切残っていない。主に長男との思い出なのだが、長男の記憶にさえ残っていない。ただ、一緒にその様子を眺めていた家内は、少し記憶が残っているくらいのものだ。


スーパーで家内が買ってきたキャベツに、小さな小さな幼虫がついていた。シンクで野菜を洗うときに、家内が見つけたのだ。

これ、どうしようか。

家内が私に見せてきた。

私は、

本当に蝶々になるのかどうか、ちょっと育ててみようか。

そう、安請け合いをして、その頃まだ幼稚園の年少くらいの長男に見せた。

長男は、

蝶々になるの?

いぶかしげに見ていたのだが、その幼虫をケーキ屋さんの小さな箱の中に入れて、キャベツの切れ端を入れ、食べさせて飼育ゾーンを確保した。


キャベツは、新鮮なものを毎日のように入れ替える。サナギになれるように、木の切れ端のようなものを入れた。すると、その幼虫は、元気にキャベツを食べて成長していった。

私は、本当に蝶なのか、他の虫になるのかの確証もなかったが、よくよく調べることもせず、自然にまかせて、その命を育てることに決めた。


毎日箱を観察し、ずっと長男と世話をして、やがて、春になった。そしてある日、その日は訪れた。

箱の中に、小さな小さな虫が誕生していた。

それは、ほんとうに小さくはあったが、確かに、蝶だった。

箱から逃げ出さないように、そっと隙間を開けて、長男に見せた。すると、

蝶になったんだね!

長男は、笑顔で私と家内を見上げた。


私と長男は、家から少し離れた公園に行った。そこは、すぐそばに畑もある。畑では、害虫として嫌がられるのかも知れないが、公園でも畑でも、どちらにでも行けるようにと、私たちなりに配慮した。


長男と家内と、みんなで、ゆっくりと、その箱を大きく開けた。すると、水分を少しだけ含んだ枝にとまっていたその蝶は、ゆっくりと飛び、箱を出て、ひらひらと舞い、外界へ、自由へと、その羽を広げ、羽ばたかせて舞い出ていった。

鳥などに追いかけられないかと心配したが、ほどなく、蝶は、草花のあいだに、姿を消した。


小さな小さな蝶が、箱から出て自由になったお話だが、なんだか自分自身が自由を手に入れたような感覚の、心に残る思い出だった。

川中さんの記事を読んだとき、ふと、その出来事を思い出した。


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