HD-2D版ドラクエⅢのトレーラーから見える開発現場の懸念点
私は子供の頃に、FC 版のドラクエⅢを遊び、そして SFC 版のリメイクでも遊びました。
当時味わったわくわく感は、その後ゲームプログラマーになる一助になったと思います。
そのドラクエⅢが HD-2D 版となってリメイクされます。当然、興味があるのでトレーラー映像も見てみました。
そして、どうしても気になる点がひとつありました。
それは作品の出来そのものというより、ゲーム会社の開発現場に対する懸念です。
リメイクものが乱発される理由
実は、ゲームを作る作業自体は、そんなに難しくありません。
グラフィックやサウンドの素材があれば、ユーザーの入力通りに動かすプログラムを書けば出来上がります。
難しいのは、グラフィック、サウンド、シナリオなどを自然な一体感でまとめ上げ、ユーザーが没入感を得られるようにブラッシュアップし、ひとつの作品として仕上げることです。
これが、ゲーム開発で最も苦労するところです。
しかし、こういった 開発者のこだわり があったからこそ、ファミコンのようなスペックのゲームでも、ユーザーは没入でき、感動を味わえたのです。
リメイクものは、これらの苦労をある程度スキップすることが出来ます。
経営者や株主にとっては、この 無駄 にも見える作業がスキップできることが、非常に魅力的に映るのです。
景気の影響を強く受ける娯楽業界
私が勤めていたゲーム会社の当時の社長は、ことある毎に以下の台詞を言っていました。
これは、
「私たちは、ユーザーにすぐにそっぽを向かれる存在だ」
ということを意味しています。
不景気になれば、ゲームは真っ先に買われなくなります。
飽きられても、買われなくなります。
面白くなさそうと思われただけでも、買われなくなります。
不景気になった 2000 年代以降、ゲームのリメイク作品が増えたのは当然のことなのです。生き残りのためには必要なことであり、決して悪いことではありません。
行き過ぎた効率化は、ゲームそのものを衰退化させる
不景気の中、ゲーム事業を続けていくには効率化、無駄の削減が必要不可欠になってきます。そして、資金を稼ぐためにリメイク作品を作っていくことは、理にかなっています。
しかし、短期的には無駄に見えるが 本当は必要なこだわり まで削ってしまうと、長期的には「コンテンツ価値の低下」「ユーザー離れ」を引き起こしてしまいます。
一時期、粗製乱造されていた
「単に素材を画面に配置して動かしただけのリメイク作品」
を見ていて、
という懸念を持っていました。
懸念を打ち破ったリメイク作品
2022 年に、そんな懸念を打ち破ってくれたリメイク作品が登場しました。
それが、HD-2D を使用して生まれ変わった『ライブ・ア・ライブ』という作品です。
私が感心したのは、ドット絵の動き です。
ただ動きが細かいだけでなく、背景ともマッチしており、ドット絵なのに動きに不自然さを感じません。
その こだわり具合 を見て、「これは良作だ」と確信をしました。
HD-2D 版 ドラクエⅢ と比較すると・・・
ドラクエⅢが、その HD-2D 技術を使ってリメイクされる。
その話を私は、期待半分、懸念半分で聞いていました。
皆さんには、トレーラー映像はどう映ったでしょうか。
キャラクターの動き、特に「背景とマッチしているか」「動きに不自然さを感じないか」という部分を『ライブ・ア・ライブ』のものと比較して見てみてください。
開発者にも経営の知識が必要な理由とは?
リメイク作品は、こだわりを捨てても、話題性である程度売れます。短期的に影響は表れないのです。なので、経営層は危機感を持ちません。
また、経営層には利益への圧力が常にあります。放っておくと、こだわりの削減 の圧力は強くなります。
日本の開発者たちは、経営の知識がない人がほとんどです。なので基本的には経営者のいいなりです。これは、良い状態ではありません。
私も、経営側の介入が強くなったために、駄作化してしまった作品というのを開発現場で見てきました。
本来、開発者は経営者に提案し、対等に交渉ができなければいけません。ゲームの価値を維持できるのは開発現場だからです。
私が経営や財務の勉強をしている理由でもあります。
今回の HD-2D 版ドラクエⅢのトレーラーは、
「この開発現場は、それが出来ていないのでは・・・?」
と懸念を感じさせるものでした。
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