見出し画像

任天堂の本当の弱点【前編】~Switch2(仮)で決まるゲーム機事業の未来~

私は、ゲーム業界を離れて久しく、情報も積極的にチェックはしていません。それでも、最近のこのニュースだけは気になっていました。

巷では、発売日や性能についての考察が主流ですが、元開発者&現 PM の私としては、別のことが気になっています。

それは、巷ではあまり語られていない 任天堂の弱点 についてです。
Switch2(仮) で、任天堂が弱点を克服できているか否かが明らかになり、ひいては、それがゲーム機事業の未来を決定づけると思っています。

今回も、既に公開されている情報から推測可能な範囲で、情報を整理していきたいと思います。
ただ、語ることも多いトピックのため、記事を前後編に分けることにしました。(^^;




1.実は企業が公開している弱点情報

さすがに「これが我が社の弱点です」などと正直に公開はしていません。
けれど、多くのアナリストやライターが見落としてる情報があります。

それは「中途採用者募集ページ」です。

例えば、Nintendo 3DS が発売された 2011 年に、任天堂の募集要項に、このような職種が追加されたのをご存じでしょうか。

ソフトウェア品質改善エンジニア
【業務内容】
◎テスト工程プランニング
◎テスト作業の指揮、品質判定
◎ソフトウェア開発技法の見直し

現在、公式サイトからこの職種はなくなっていますが、アーカイブサイトで今でも見ることができます。

【Wayback Machine】
https://web.archive.org/web/20111030090240/http://www.nintendo.co.jp/jobs/career/kyoto_sec1.html#p09

Wayback Machine : 2011-10-30 のアーカイブ

つまり、Nintendo 3DS の開発プロジェクトで、品質に関する問題が起きていたということが推測できるわけです。
しかも、業務内容に「開発技法の見直し」とあるので、単にバグが混入していたというレベルの話ではなく、プロジェクトの運営自体に問題があった、ということも分かります。
更には、「当時の任天堂には、その業務を行える人材がいなかった(もしくは不足していた)」ということも分かるわけです。

素材提供:Adobe Stock


Nintendo Switch 発売後に追加された職種

Nintendo Switch 発売以降に追加された募集職種で、気になるものがあります。それが以下です。

プロジェクトマネージャー(Webサービス・システム開発)
【業務内容】
- ゲーム機本体・ゲーム・スマートデバイス・PC向けネットワークサービスのシステム企画・設計・開発・運用
- 開発者が利用するWebツールやシステムの開発

https://www.portal.e2r.jp/fixurl/nintendo_career_job/id/4/2?ki=job00300

ゲーム機やそれに付随するサービスの開発をマネジメントできる人材が不足しているということです。

以前、記事にしたことがありますが、開発規模が大きくなるほど、マネジメントのコストは増大し、その重要性も上がってきます。

PM 不足は、大規模開発においてはプロジェクトの成否、ひいては製品の品質にも暗雲をもたらします。

現在も続いている?開発体制の不安材料

そして、注目すべき点として業務内容に「ツールやシステムの開発」が含まれていることが挙げられます。なぜかというと、PM は普通そのような仕事はしないからです。

ここから任天堂の開発体制も浮き彫りになってきます。

マネージャーたちがプロジェクト管理を行わない体制、もしくは行う能力がないため、現場の開発者たちが自主的にプロジェクト管理を行っていた。

日本の開発現場では、割とありがちな光景です。
しかし、このような開発体制は長続きしません。現場の開発者には、もともとプロジェクト管理のための工数は割り当てられていないからです。

小規模開発であれば、気合と根性でなんとかなるケースもあります。
しかし、大規模開発では完全なデスマーチに陥ります。

素材提供:Adobe Stock

そして、今の任天堂のゲーム機の開発規模は、間違いなく 超大規模開発 に該当します。マネジメントのコストも肥大化しています。
もし、そのコストを現場のエンジニアに押し付けていたとしたら、Nintendo Switch 発売の時点で開発体制が限界を迎えていたのは間違いないでしょう。


2.Switch2(仮) で真に注目すべき点

PM の仕事は、単なるプロジェクトの進捗管理ではありません。
PM の真の仕事は、開発規模を見定め、投資計画を立て、将来必要になるであろう技術や生産性を事前に確保しておくことです。
そうしないと大規模な開発は完遂できません。

素材提供:Adobe Stock

私は、Swtich2(仮) で真に注目すべき点は、以下だと思っています。

より大規模化していくゲーム機開発事業を
継続するための体制を整えることができたのか?


ゲーム機開発のマネジメントに必要な人材

ゲーム機、及びそれに付随するサービスの開発の PM に必要な経験とスキルをリストアップしてみます。

【ほぼ必須となる経験・スキル】
◎組み込み開発、またはシステムソフトウェアの開発経験
◎ゲームアプリの開発経験
◎ネットワークサービス(Eコマース、クラウドサービスなど)の開発経験
◎大規模開発におけるプロジェクト管理、品質管理などの経験
◎世界規模に展開する製品やサービスの開発経験
【あるとよい知識】
◎3DCG に関する知識
◎知的財産権に関する知識
◎経営や財務に関する知識

ここで、ちょっと自慢をさせてもらうと…
私は、これらの項目をすべて抑えています。(^^)v ヤッタネ!

しかし、同じ経歴の PM には会ったことがありません。
それだけ、今のゲーム機開発というのは、非常に稀有なプロジェクトであり、非常に困難な挑戦をしていると言えるのです。

素材提供:Adobe Stock


3.【後編】へ・・・

アナリストやライターと言われる人たちの評論がよく空振りしてしまうのは、どうしても「開発の視点」が抜けてしまうからです。ゲーム機事業の成否、及び今後の展望についても「開発の視点」抜きでは語れません。

では、外部から見えにくい「開発プロジェクトの成否」は、どのように観察すればよいのでしょうか。また、なぜ任天堂で PM 不足が起きているのでしょうか。

後編では、過去の任天堂のゲーム機を振り返りながら、その辺りを語りたいと思います。


(2024-08-28 追記)
【中編】を公開しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?