自分に向き合うしんどさに耐えられなくなったら読みたい一冊 | 〜平野啓一郎『ある男』を読んで
来週11月18日公開予定の『ある男』。
大好きな平野啓一郎さんの作品ということで、「これは映画を観る前に読まねば!」と思い手に取りました。
あらすじをさらった時は、「サスペンスかな?」と思いましたが、全く違いました。
本編では、弁護士の城戸が「大祐」と名乗っていた"ある男"について調べる様子を中心に様々な事情を抱えたキャラクターが登場します。
"ある男"が一体何者なのか?というところが、もちろん本作の内容のメインではあります。が、それ以上にそれぞれのキャラクターたちが持つ複雑な事情・逃れられない自分の生い立ちとどう向き合っていくのか、という部分が一番の見どころでした。
自分ではコントロールしようのない運命
生まれてくる家族を、環境を、自分で決めることはできません。そして生まれてからの人生も、必ずしも自分の思い通りにはならない現実があります。
それでも、生きていく限り、自分と向き合い続けなければいけない。受け入れがたい自分として、なんとか人生を送っていかなければならない人たちの葛藤を本作では見ることができます。
亡くなった"ある男"の出自や、
在日3世としてのコンプレックスを抱える弁護士の城戸。
彼らの運命を、生きづらさを、作品を通して擬似的に体感することで、「じゃあ現実のわたしはどうだろう?」と、今度は逆に自分自身を見つめるきっかけにもなりました。
他人の人生をたどることで自分を冷静に見つめなおすことができる、これもまた今回の作品のテーマです。
他者の人生を追体験することにより、自己を冷静に見つめられる
ここ数年、世の中「自己分析・自分探し」がブームになっています。己をよく知るというのは非常に大切ではあるのですが、己と向き合うのもまたエネルギーが要ることです。
自己分析に、自分探しに疲れしてしまっている人も多いんじゃないかなと思います。
”ある男"の義理の息子である中学生の少年は、父親の死後、文学にのめり込んでいきます。
それはきっと文学の世界に潜り込むことで、必死に現実の自分をつなぎとめていたんだと思います。
小説を読む理由は人によってさまざまですが、その一つとしてしんどい現実と距離を図りながら向き合うという理由があるのかもしれません。
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