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創作15 カーテン一枚でつくられるプライベート空間

今回の北海道の旅ではゲストハウスを利用しました。

普通のホテルの宿泊代が高くなっていることもあるけど、ひとり旅の時はゲストハウスと決まっているから。

旅を始めたきっかけの1冊となった沢木耕太郎の深夜特急は、インドのデリーのゲストハウスで目が覚める時から始まる。目が覚めたベッドの中で次はどこに向かうかを考える。そこから始まる。

<黄金のゴアにしようか、それとも白いカシミールにしようか>

深夜特急1香港マカオ(著沢木耕太郎)より

そう、やはりひとり旅はゲストハウスと決まっている。

北海道で泊まったゲストハウスで思い出して、その曖昧な記憶をもとにエッセイのような、小説のようなものを創作してみました。

それでは、どうぞ。


お金がない時に泊まる宿と言えばゲストハウスだ。

ドミトリー、名前さえ知らないたまたま一緒になった他の宿泊客と相部屋になる、それがゲストハウスという宿のスタイル。

ゲストハウス周辺の散歩を終えると、僕は自分だけのベッドに戻る。明日の10時までいることが約束されたセミダブルサイズの自由、そこだけが僕のプライベート空間だ。

カーテンを開けていると、誰かに声をかけられることがある。

「どちらから来たんですか?」そんなお約束の問いかけが舞い込んでくる。

「千葉から。飛行機で、明日はバスで札幌へ向かいます。」

「ふーん、私は今日、札幌から来たんだ。」

「なるほど、じゃあここは交差点だ。」

どこから来て、どこへ向かう、このやりとりはひとり旅のあるあるだ。

一方、僕がカーテンを閉じれば話しかけられることは一切ない。閉ざされたカーテンは僕への侵入は許されない、その合図となる。

それでも、カーテンを隔てた外側からの音は僕の耳に届く。僕に向けられたものではない音、声、それらがカーテン越しにこちらへ流れてくる。カーテン一枚で隔てられた曖昧な内と外、その不思議な空間が存在する。

自宅のアパートの壁がこのカーテン1枚だったら、おそらく僕は耐えられないだろう。だが、ここではそのカーテンが心地よさを生む。不思議だ。

旅人の朝は早い。朝の5時頃から、ゲストハウスを出発する者たちの動きが始まる。その音で目覚める。その音にイラつきを感じることはない。他人の旅立ちを告げる音は、どこか心地よい。

その心地よさは、何か相対性から生まれるものだと、僕は思う。
旅に出ると、僕は僕自身で自分自身を変えてしまうのだ。


函館で宿泊したゲストハウスはTune Hakodate Hostel & MusicBalさん。

1Fのフロアにライブステージがあるミュージックバルになっている。旅 × 音楽がコンセプトのゲストハウスでした。

・泊まった時は1ベッド3,800円
・近くにスーパー(コープ)とコンビニ、立ち寄り湯ができる温泉があって便利
・目の前を路面電車が走っている

手作り?の木製の二段ベッド。その日の唯一のプライベート空間。

ベッドからカーテン越しの光景。朝早くから数名の旅人が次の目的地へ旅立っていった。

レセプション兼、ラウンジ兼、ミュージックバル。朝は誰もいなかったのでこの居心地のいい空間をひとり締めした。

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