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【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(27)

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〈27〉意味の無い嘘なんてつかない方がいい、君を見てるとそんな風に思うよ。

「ちょっと、首のコルセットが当たっていたいんだけど……」

「我慢して」

「むう……」

美夜子の体温と息遣い、鼓動が伝わる。
そこから汲み取ったものは、私の気持ちと同質なもので、そのまま受け入れた。

「私、陽菜が離れて行くのが怖い……まだ一週間くらいしか一緒にいないけど、誰よりも濃密な時間を過ごしてきたつもり。恭子さんだって知らないところも知ってるし、白川さんや平岡さんが知らないことも知ってる」

「私だって同じ。玖美子さんが知らない美夜子のこと知ってるよ」

「……私の知らない陽菜が増えるのが堪えられないの……全部全部、私は知っておきたい」

「つまり、独占したいってこと?」

美夜子は僅かに動く首で頷いた。

「どうしようもないくらい、陽菜を求めてしまう。少しでも離れてるだけで不安になる。嫌だよね、こんなの」

「ううん。本音を言えばそこまで粘着されるのは嫌だけど、そう思ってもらえてることは嬉しい」

私は美夜子をそっと包み込む。
美夜子は私の髪を触ると頬を舐め始める。

「ファンデの味がする」

「化粧してるからね」

「知らない男の匂いもする」

「あー大村会長? 別にそんなんじゃないよ」

「でも、それも全部、私で上書きしてあげる」

匂いを擦り付けるように体を揺すり始める美夜子。
それはまるで、交尾のように、身体を前後に動かし、私はその摩擦熱のせいか火照り始める。
ただ、その心地よさ、定期的に訪れる刺激が病みつきになりそうで怖かった。

「首、大丈夫なの?」

「うん、だいぶ痛みはなくなってる。動いても平気」

美夜子はそういうと動くのをやめた。
私は美夜子のお尻を鷲掴みにすると、揉みしだく。

「お尻、好きだったっけ?」

「なんか揉みたくなった。美夜子だってさっきからほっぺばかり突いてる」

「メイクしてるからかすごく綺麗だから」

「普段はダメみたいに言う」

私が顰めっ面をすると、眉間に入った皺を伸ばすように、美夜子の人差し指が眉間に当てられる。

「もしかして、ずっとこうしたかったの? 今日」

「うん……ずっと陽菜を求めてた」

「そこまで言われると、ちょっと照れる」

「ねえ、陽菜は私から離れないよね」

「もちろん。私達、恋人同士じゃん」

「……遊びじゃないよね?」

「うん」

美夜子は見たことのない笑顔を見せた後、唇を重ねてから私から離れた。

「戻りましょ」

「満足したの?」

「うん……ちょっと自信無くなってただけだから」

「自信?」

「陽菜は本当に私が好きなのかなって。私は一方的に前から知ってたけど、陽菜は私のことつい最近まで知らなかったわけじゃない。だから、上辺だけの好きだったらどうしようって……怪我してナーバスになってたのかも」

「……好きになるくらい好きを貰ったからね。じゃないと、こんなことしないでしょ?」

私は立ち上がっていた美夜子を後ろから抱き締め、耳の裏を舐めた。

「擽ったい……」

「首はガードされてるから」

「残念、週明けには外れるから。でも、陽菜は弱点ないもんね」

「あるよ?」

「どこ?」

「冷たくされるの弱い」

「そうなんだ……」

「だからちょっとでも素っ気ない態度取ったら別の子に乗り換えないとな……」

「そんなことさせない。墓場まで着いて行くから」

「こわ……」

私達は乱れた服と髪を整えてリビングへ行くと、酔っ払った健一郎がイビキをかいてソファーで眠っていた。

「あ、ふたりとも、今からスーパー行かない?」

母と玖美子さんは丁度出かける支度を終え、今から出る状態だった。

「何か買いに行くんですか?」

「デザート食べたくなっちゃった」

「あーなるほど」

「私達で行ってこようか?」

美夜子がそう提案すると、2人は了承し、私達はスーパーに向かった。

「そう言って、2人きりになりたかったんでしょ? 全く、美夜子は可愛いところあるなぁ」

「じゃああの空間で過ごす方がよかった? お父さん、お酒弱いくせにお酒好きなのよ」

美夜子は繋いだ手を少し握って力を込めて言った。
私は恋人繋ぎに変え、仕返しのようにギュッと手を握った。

「そういえば今朝、散歩してたら三島先輩に会った」

「え、意外な人と会ったのね」

「うん、飼い犬の散歩してた。柴犬だったんだけど、めっちゃ可愛かった」

「犬派だっけ?」

「私はどっちでもないかな。犬も猫も。ただ、自分で飼うのはちょっとな……なんか命に責任持てないというか……」

「そう……うちは昔犬飼ってたんだけど、私が生まれた頃から小6まで。最後、亡くなる直前、弱って行く姿がもう見てられなくて……それからまた飼おうとはならなかった」

「へぇ、名前なんていうの?」

「タマ」

「猫じゃん……」

「白の豆柴だったんだけど、お父さんが小ささから昔の競走馬のタマモクロスから取ったの」

「競馬か……馬じゃん」

美夜子はスマホの写真フォルダからタマの写真を探し出して見せてくれた。
そこには小学生の美夜子とタマのツーショット写真が写っていた。

「可愛い……美夜子も可愛い。ロリ美夜子可愛い!」

「私はいいのよ!」

「えーだって、可愛いよ? この美夜子。あ、今も十分可愛いよ」

「取ってつけたように言われても嬉しくない」

私がご機嫌取りに横から抱きつくと、丁度前の角から歩いてきた紗季が目を丸くしてこちらを見てた。

「……」

紗季は固まったまましばらく無言だった。
私と美夜子もそのままの状態で紗季を見つめていた。

「あ、ええっと……ご馳走様でしたー」

「え?」

「いや、ええとなんて言うたらええんかな……うちな、その……百合漫画とかよく読むから……なんかご馳走様って感じで」

「ああ、百合ね。ってことは、ずっとそんな目で見てたの?」

「そんなわけやないけど……リアルで見るのって初めてやったから」

確かに、私の周りは仲良しの女子同士はいても、付き合ってるとかは聞かないし、やっぱり異性の話になる。

「2人ともどこ行くん?」

「スーパー。おつかいで甘いもの買いに行くの」

「……美夜子ちゃん、別にうち、陽菜ちゃん取ろうとおもってるわけやないからね。そんなにしがみ付かんでもええんとちゃう? でもご馳走様って言うとくわ」

美夜子は私の腕を胸で挟むようにしてしがみ付いている。

「柔らかくていいよねぇ」

「陽菜ちゃん、顔ゆるっゆるやで」

「え、嘘!」

「外では気ぃつけや。ほな、また明日学校で」

「バイバイ」

2人で手を振って紗季を見送って、スーパーに向かった。
あれやこれや見て、とりあえず間違えないだろうと言うものと、食べたことないものを買って、立山邸に戻った。

「お帰りなさい……って、色々買ったわね」

「なんか食べてみたいのカゴに入れて行ったらこうなっちゃいました」

「……どうせ美夜子でしょ?」

「なんでわかったの!」

美夜子は驚きながら言う。

「わかるわよ。陽菜ちゃん、そんなに甘いもの食べないじゃない」

「うっ……」

「私はこっちの和菓子系ですね。洋菓子系は美夜子チョイスです」

「でしょうね」

玖美子さんは袋の中身を見ながら苦笑いしていた。
母と私は味覚が似ているため、和菓子をメインに日本茶で食べていた。

「美夜子、太るんじゃない?」

「大丈夫、首が治ったら朝のジョギング再開するから」

「それで足りるかなぁ……」

私は心配しながら、美夜子が次々スイーツを頬張って行くのを見て胸焼けしそうになっていた。
美夜子は食べ終わってからは、玖美子さんが淹れてくれた紅茶を啜りながら、満足そうな顔をしていた。

「さて……そろそろ帰る?」

「そうだね。時間的にも丁度いい時間だし」

母とそう言葉を交わし、お暇することにしたが、美夜子はとても寂しそうな顔をする。
仕方ないから、私はハグをしてあげて、また明日と言うと美夜子を離した。
それでも寂しそうな顔をするから、私は家に泊まるかと聞くと、玖美子さんがそれを止めた。

「それじゃあね」

「うん……」

「まあ美夜子ちゃんったら可愛いわね。まるで、飼い主が出かける前の子犬みたい」

「もう……やめてくださいよ」

タクシーに乗り込んで自宅へ帰った。
部屋に入ると、私は着ていたものを全部脱いで下着の状態でベッドに倒れ込んだ。
疲れているつもりはないが、どうやら早起きをし過ぎたせいか、いきなり眠気がやってきた。

「ちょっと寝るか……あ、でもメイク落とさなきゃ」

私は下着のまま脱いだ服を持って洗面所へ向かった。
洗濯カゴに洗濯物を入れると、メイク落としを手のひらに取り顔に塗っていく。

「……ちょっと陽菜、下着のまま彷徨かないの」

「え、いいじゃん。女しかいないんだから」

「そうだけど……はしたないわよ?」

「わかってるよ」

「お風呂どうするの?」

「んー、先に寝る。もう眠くてやばい……」

メイク落としを拭い、洗顔を済ませて顔をタオルで拭く。
保湿のためのあれこれを塗りたくって、私は部屋に戻り寝巻きに着替えた。

「あー気持ちいい……」

冷えたシーツが心地よい。
ベッドに体を沈めると、自然に眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。
目が覚めたのは日付が変わろうとしていた時。
少し寝汗をかいたのでお風呂に入ろうと向かった。

「あ、ごめん。てか、なんで電気点けてないの?」

私は電気が点いていなかったので無人と思い扉を開けると、裸の母がそこにはいた。

「電球切れちゃったみたいなの。予備もないし、とりあえずお風呂場の電気点けたら大丈夫かなって」

「え、洗面台の点ければいいじゃん」

私はそう言って洗面台の照明を灯す。

「そっか、そっちの方がいいわよね」

「てかごめんね。出たら教えて……」

「ねえ、たまには一緒に入らない?」

「どういう風の吹き回し?」

私がそう言うと母は私を抱きしめた。

「だって、病室とかでずっと1人だったもの。流石に寂しさが限界。それにさっきまで賑やかだったのに、陽菜寝ちゃうし……」

「お母さん、そんなに甘えん坊だったっけ?」

「いいじゃない、今は2人なんだし。それに、美夜子ちゃんともお風呂入ってるんでしょ? クミちゃんから聞いてるわよ」

「いつの間にあだ名呼びに……」

「あら、昔からだけど?」

「へぇ……」

私は仕方なしに同意して服を脱いだ。
母にまじまじ見られるのは少し恥ずかしい。

「……しばらく見ないうちに大人になったわね」

「どこ見て言ってるの」

「大丈夫、これから成長するわよ」

母は自分の胸を両腕で抱えて笑う。

「いいから入るよ!」

私は母を浴室へ押し込んだ。

「美夜子のはお母さんのより大きいから」

私は母の背中を洗いながら言うと、母は少し俯いてっから口を開いた。

「……美夜子ちゃん、大変ね。私も友達で胸の大きい子がいたわ。発育早くて中学の時から平気でDとかあったんだけど、男子の視線が気持ち悪いって。それで高校は女子校にわざわざ受けてたわ」

「だから美夜子は地味な装いでいたのかな」

「多分ね。目立ちたくないってのはわかる。その子も結局女子校ででも根も葉もない噂を立てられてね。3年間辛い思いをしたって大学で再会した時言ってたわ。まあ、それがクミちゃんなんだけど」

「え、2人同級生だったの?」

私的に、衝撃の事実だった。
ここでも世間の狭さを目の当たりにした気分だ。

「そこまで親しい中だったわけじゃないから……連絡先も交換してない、ほら、同級生だけど顔見知りくらいの関係ってあるじゃない?」

「確かにあるけど……」

攻守交代で今度は母が私を洗う番になった。
美夜子以外に触れられるのは優衣以来だ。

「思えばもっと仲良くしておけばよかった。一時期、立山道場に通った時も、お互いの嫁ぎ先なんて知らせてないから全然気づかなかったし。あと、少し痩せて雰囲気も変わってたから」

「へぇ、そんなことあるんだね」

「だから美夜子ちゃんのこと、大切にしなさいよ」

「わかってるよ。今でも一緒にいたいくらいだもん」

「なら大丈夫ね」

身体中の泡をシャワーで流して、2人で湯船に入ると、物凄い量のお湯が溢れていった。

「勿体無いね」

「そうね……」

向かい合って浴槽に入ると、少し照れる。
私はずっと三角座りの膝頭を見ていた。

「……陽菜、気を遣ってくれてる?」

「え、なんで?」

「以前は私、陽菜に距離を感じてたのよ。家族だけど、芸能人と一般人みたいな」

「そんなつもりはなかったけど……。でも、心の病気掛かってからはそうかも」

「そうよね……色々迷惑を掛けちゃったわね」

「ううん、それでも、昔の優しいお母さんに戻ってくれて、私は嬉しいよ」

私は母の両手を手に取る。
すると、母は涙目になり俯いた。

「何泣いてるの」

「だって……そのせいであなたは芸能界辞めちゃったじゃない。ずっと必死にやってきたことを辞めさせるようなことを……娘にそんな事を背負わせて情けない親ね」

「あれは私の意思でやったの。私が辞めたいと思って辞めた。それだけよ」

「でも……」

私は母を抱きしめた。
いつの間に、母はこんなに小さくなったのだろうか。
違う。私が成長したんだ。
気づけば母の身長を超えていた。
いつも美夜子とだから感覚が狂っていたが、母は私より小さくなってしまっていた。

「……すぐにじゃないけど、絶対戻る。それは心に決めてる。じゃないと中学生の私の青春が無駄になったのが可哀想よ。その分好きなことで食べていく。そのための準備期間って思えばいい。今の私は将来の私に投資をしているんだ」

それは、自分に言い聞かせるような言葉だった。
こう言わなければ私はまだ、納得していない気がした。

「そうね……私も全力で支える」

「まあ、しばらくは子役時代の貯金で生活できるからね。それにお父さんからの慰謝料も入ってくるし……変な悪徳商法に騙されないでね」

「わかってるわよ。あと、お母さんパートで働こうって思ってるの。先生からも勧められたんだけど、篭ってるより外で働いた方が良いって」

「いいんじゃない? 私は賛成。家事も私、手伝うし」

「本当に?」

「もちろん」

母は私のおでこを小突くと立ち上がった。

「もうくよくよするのは今日までね」

「そうね」

私も立ち上がると膝下半分くらいのお湯の量を見て私たちは笑い合っていた。


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