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コロナと諸行無常とエモ 〜「ツミデミック」を読んで〜

一穂ミチさんの「ツミデミック」を読んだ。

コロナ禍を舞台にした短編集。
登場人物たちの苦しみに自分を重ね、なんだか懐かしい気持ちにさせられる。

やっとここまできた。
コロナを懐かしいと感じて、文学のテーマとして楽しめるところまで。

文章に触れて、あの頃の内面を鮮明に思い出す。
辛かった。苦しかった。
いや、それすらも超えて、ついには感情の動きもそんなになくなった。
いつ終わるかわからないトンネルに、社会全体が疲弊していたように思う。

あれから数年。
人々は花見をし、飲み会に出かけ、旅行先で思い出を作る。
まるであの日々が嘘だったかのように。
あの頃の苦しみは心の奥底に沈んでくれている。

「諸行無常」という仏教用語が頭をよぎる。
全ては移り変わっていく。同じく存在し続けるものなど何一つなく、変化を前提に仕組まれているのが人生だと言える。

あの頃感じた終わりの見えない苦しさ。
今こうして確かに存在する終わりのその先。
そうだ。諸行無常なのだ。
コロナが、そして本作品が私にそっと教えてくれている。

今も苦しみは尽きない。
きっと苦しみがなくなる日など、金輪際訪れない。苦しみながら生きていくのが人生なのかもしれない。
だけど、知っている。諸行無常なのだと。
数年後には今何で悩んでいたかなんてはっきりと覚えていない。
未来に今の文章や写真なんかを見て、ああ、あんなこともあったねえと懐かしめるのだろう。

それは人生の大きな喜びであり、嗜みだ。
今が苦しかろうと、ここで終わらせるのは勿体無い。
諸行無常のその先で、今の苦しみを「エモく」感じられるその時まで、しぶとく生きてやろうじゃないか。

忘れることは人間の持つ強さで、思い出すことも人生の喜びだ。
コロナという人生の大イベント。

人生はなるようになっていく。
その真理を、コロナと文学に教えられたような気持ちでいる。

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