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「難民」という言葉がなくなる日まで

こんにちは!
MUUTのブログ担当 今井です。

「MUUT(ミュート)」は、難民の人たちと共に作る<オリーブの木製食器>のブランドです。2021年11月に起業し、代表の大橋希は単身でヨルダンへ渡航。様々な困難がある中でも事業を続けてこられた背景には「難民に仕事を届けたい」という想いがあります。

今回は少しかためですが「難民問題とは?」というテーマにお付き合いください!


1. ご近所さんはインドシナ難民

皆さんは、難民の人と出会ったことはあるでしょうか?

10年近く前ですが、私は学生時代に8か月間フランス・パリに留学していました。徐々に生活に慣れてきた秋のある日、偶然アパートのエレベーターで会ったアジア人の女性から「あら!アジア人の子が住んでいるなんて知らなかった。学生さん?」と声をかけられました。これがファムさんとの初めての出会いでした

その場で「ちょっとお茶でも飲んでいかない?」と声をかけられ、お宅にお邪魔しました。「ひとりで親元を離れて心細いでしょう。フランス語は大丈夫なの?困ったらいつでも言ってね。」と優しい言葉をかけてもらい、私は美味しいハーブティを1杯頂いて帰りました。ちょうど少しホームシックになっていた私の心と身体に、ファムさんの言葉とカモミールの優しく温かい香りが染み渡ったのでした。

ファムさんは「インドシナ難民」でした。10年以上続いたベトナム戦争を経て、1975年、彼女がまだ若い頃にベトナムは社会主義体制に移行。同体制の下で迫害を受ける恐れがあったため、ファムさんは当時フランスに留学したまま、両親が残る故国へ帰ることができなくなりました。そして、故国に帰ることなくフランスで結婚し、ふたりの子どもを出産。

若かったからね、頑張って仕事を探して、何とかフランスで事務職に就くことができたの。でも両親や友人とはずっと離れ離れ。20年経ってからベトナムで会うことができたけれど、今は両親も亡くなってしまったわ。

ファムさんが私に示してくれた優しさは、ファムさん自身が若い頃に両親から受けられなかったものだったのだ、と私はとても悲しく、やるせない気持ちになりました。

2. 難民とは?

ヨルダンの難民キャンプ

「難民」とは、人種、宗教、国籍、政治的意見などを理由に迫害を受けるおそれがあり、自国から逃げることを余儀なくされた人々のことです。ファムさんの場合「政治的意見」が理由で母国に帰れなくなりました。実は日本も1万人以上の「インドシナ難民」を受け入れており、意外に皆さんの近くにもいるかもしれません。

時代とともに、難民が発生する国・地域は変化します。インドシナ/ベトナムの状況は落ち着きましたが、2021年末時点で、世界において紛争や迫害により故郷を追われた人の数は8,930万人に上りました。この中で最も多かったのはシリア人(27%)です。

現在ではウクライナ避難民を含め、この数字は1億人にまで膨らんでいます。日本の人口は1.2億人ですから、世界中で「故郷を追われている人々」の多さに驚きます

しかしながら、難民のうち日本やフランスのような先進国に避難できる人は決して多くありません。実に83%の難民は低~中所得国で受け入れられています。ヨルダンもそんな受入国のひとつ。隣国シリア、イラクやスーダンから逃れて来た難民の数は、2022年9月時点で約76万人(登録ベース)に上りますが、ヨルダンの経済状況も芳しくはありません。

具体的には、ヨルダンの一人当たりGDPは4,406米ドルと日本の9分の1。しかも、失業率は約20%と高止まりしています。友達が5人集まると1人はずっと失業中 ― 日本では中々考えられない状況です。周辺国のことも助けたいけれど自国のことで精一杯、それが本音なのかもしれません…。

3.「仕事」と「安心できる場所」を届けたい

「難民支援」といった場合、そのニーズは多様です。短期的には、現在のウクライナ避難民のように住居・食事・生活必需品等が必要となります。これには、国連機関やNGO等が「緊急人道支援」として積極的に取り組んでいます。

他方、中長期的にはビザ取得や就労、教育へのアクセス等、安定した生活を送るための支援が必要となります。2011年にシリア内戦が勃発してから10年超が経過し、現在シリア難民にはこうした支援が必要となっているのです。

ここでぶつかるのが、先述の「受入国の経済の問題」です。失業率が高いヨルダンでは、難民の就労機会は多くありません。また、やっと仕事を見つけても「難民だから」という理由で安く雇えるとみなされ、現地の人より低い給与で雇われる事もしばしばです。

それでは、どうすれば良いのか? ― 「仕事を作ればいい!」 これが私たちの考えです。

MUUTでは、中東の人たちの生活に古くから寄り添ってきた「オリーブの木」を用いて食器やキッチンツールを製造・販売する事業を昨年ヨルダンで立ち上げ、この度、やっと商品が完成して日本にお届けできることになりました。

MUUTとは、フィンランド語で「他者」という意味。オリーブ食器を使う時間が、家族や友人などの「大切な人(=他の人)のことを想う時間」になってほしい、そして、この食器を作っている遠くアラブに住む女性にも少しでも想いを馳せて頂きたい、という気持ちを込めました。

MUUTのオリーブウッド製品

MUUTでは、職業経験がないため難民の中でも特に難しい立場に立たされやすい女性にオリーブ食器の加工技術のトレーニング(職業訓練)を行い、事業の収益から給与を支払います。こうして彼女たちは「仕事」=「収入」を得ることができます。

しかしながら、私たちはこの「仕事」がもたらすのは「収入」だけではないと考えています。

このまま難民キャンプで人生を過ごすのだろうか。
今の仕事がなくなったら、どうやって生活しよう。
このまま自由のない生活が続いたら、自分の子供はどうなるのだろうか。

そのような出口のない不安の中で、精神的に疲れてしまう難民も多くいますが、そういった方々に「安心できる場所」を提供することも、私たちの目標です。

「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣り方を伝えれば一生食べていける」ということわざがあるとおり、職業訓練を通じて「自分は魚の釣り方を知っているんだ」という自信と安心感を彼女たちに持ってもらいたい。

私たちの職場で手を動かし、仲間と働いて「人生の楽しさ」を少しでもいいからまた感じて欲しい。そして、将来に対する「希望」を持って欲しい。

これが私たちの想いです。

4. MUUTで働く人々

オリーブの材木を加工する難民のムナさん

さて、MUUTで働くメンバーをご紹介させてください。今年6月の時点で、MUUTの工房では2名のアラブ人メンバーが働いていました!

ひとりは、スーダンから逃れてきたムナさん。彼女は幼い娘を育てるシングルマザーです。「ここで働いていると心が落ち着く」と話してくれたときの笑顔を忘れることができません。3か月間のトレーニングを経て、オリーブウッドの加工技術を身に着けました。

もうひとりは、シリア人の木工技術者ブルガルくん。彼は代表大橋がヨルダンで出会ったシリア人です(ヨルダンNo1の技術を持つという噂)。ブルガルくんは彼が私たちの工房で技術指導をしてくれたMUUTの恩人です。

MUUTの工房で難民女性に技術指導するブルガルくん(左)

5. 「難民」という言葉がない世界へ

私たちは、たまたま恵まれた日本という国に生まれました。日本は安全で清潔で、人の優しい素晴らしい国だと思います。

そして同時に、世界には「たまたま」紛争国に生まれたムナさんのような難民の人たちがいます。

冒頭にご紹介したインドシナ難民のファムさんは、現在フランスで暮らしながら故国ベトナムの孤児の子どもたちの養育費を支援しています。元々「支援される」立場だったファムさんは、フランスで仕事を見つけて自立し30年間勤め上げて、今では「支援する」立場になっているのです。

本当は、「支援する」「支援される」という立場の違いは流動的で、世界を分かりやすく表現するための区分にしか過ぎないのかもしれません。私たちは何も変わらない同じ人間で、怒ったり泣いたり、笑ったりしながら生きています。みんな、幸せにしたい家族もいます。

MUUTのオリーブ食器の商品は、難民の職人さんたちがヨルダンの工房で一つ一つ手作りしています。売上を元手として、より多くの難民の方々に「仕事」を届けて参ります。「支援される人」=「難民」という言葉がなくなるその日まで、オリーブ食器事業が継続できるよう応援頂ければ幸いです。


新商品「さばくの国のオリーブつみき」先行販売中!

日本での販売開始から約1年。

皆さまからの温かい応援に支えられ、新商品が誕生しました!
2023年9月末までの期間、新商品「Piece of Olive〜さばくの国のオリーブつみき〜」をクラウドファンディングにて先行販売しております。

オリーブ食器をつくる際、どうしても余ってしまう木片を活用できないかという想いから生まれた、こども向けのつみき。

「平和の象徴」として、国連の旗などさまざまなモチーフとして世界中から愛されているオリーブの花言葉は、「知恵」や「勝利」という意味があります。

自然由来のコーティングでなめらかな手触りとなりますので、安心してお楽しみいただけます。

大切なお子さまのおもちゃや、プレゼントとしてぜひ一度ご覧いただけると嬉しいです!

「Piece of Olive〜さばくの国のオリーブつみき〜」詳しくはこちら


▼「MUUT」オンラインショップ

手に取っていただく方にご満足いただけるよう、一つ一つ丁寧に制作しています。是非ご覧ください🌿✨



▼株式会社qaraqとは

2021年コロナ禍をきっかけに、代表大橋がヨルダンに渡航。生きるために国から逃れた、何万人といる難民に雇用を生むため、起業を決意。現地で大量に余っているオリーブの木で木製食器をつくるブランド「MUUT」を立ち上げ中。

<その他の記事>
▼ 起業の経緯は、是非こちらをご一読ください!

▼ 今年6月「難民の日」に寄せて代表大橋希が執筆した記事もご覧ください。

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▼ヨルダン在住!代表大橋 Twitter
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