見出し画像

物語の「難易度」も作品ごとに変えています

以前の記事で「文体を作品に合わせて変えている」と書きましたが…

実は物語の「難易度」も、作品に合わせて変えています。

あらかじめ「このくらいの年齢層の読者に読んでもらいたい」という「だいたいのイメージ」を作り、それに合わせて難易度を変えるのです。

当然のことながら、より低い年齢層に読んでもらいたい場合には、より「やさしい」作品を目指します。

あまりに平易にし過ぎると、かえって一部読者に「物足りない」と思われたり「この作者の文章力はこの程度か」と馬鹿にされたりするリスクもありますが…

(レベル1の作者にレベル99の文章スキルは選べませんが、レベル99の作者はレベル1~99のどの文章スキルも選ぶことができるわけですが…その辺りのことがお分かりでない方は、意外といらっしゃるのかも知れません…。ちなみに、レベル1にはレベル1の良さがあるので、レベルが低い=劣っているということではありません。)

難易度も含めて幅広くバリエーションをそろえることで、作者としての幅も広げられる気がするので、楽しく難易度調節に挑んでいます。

■文章の難易度を変える

一番分かりやすい「難易度」は文章の難易度です。

難読漢字をどこまで入れるか、難しい言葉をどの程度まで入れるか等…。

ルビをどこまで振るかも、作品によって考慮しています。いつも、ついつい振り過ぎになりがちですが…。)

たとえば「似たような意味のことば」であっても、相手に応じて言葉を選ぶことはできます。

「自動車」「車」「ブーブー」は、極端な例ですが…

このように、ものを言い表す言葉は1つだけではなく、どれを選ぶかによって難易度が変わってくるのです。

また、歴史小説や時代小説などの場合、「時代がかった言い回し」をどこまで入れるのか、も難易度に関わってきます。

現代では「あまり馴染みのない」用語・言い回しが多く入ってくると「とっつきにくい」「難しい」と感じる読者も出ることでしょう。

しかし、それらを一切入れずに現代語ばかりで書くと「時代モノらしさ」がなくなってしまします。

「難しい」と感じるか「易し過ぎて物足りない」と感じるかは、読者の熟練度にもよります。

たとえば歴史小説・時代小説の「初心者」には、時代がかった文章は難易度が高く感じられることでしょう。

しかし、既に多くの歴史・時代小説を読み込んだ「熟練者」なら、ある程度の歴史用語、古い言い回しはサラッと読みこなせてしまうはずです。

どんな難易度にするか迷った時には「どのレベルの読者に向けて書くか」を意識すると、文章を選びやすくなると思います。

(ちなみに、自作の中で一番分かりやすく難易度の差がついているのは、下の2作品かな…と。上が難、下が易です↓。)

■物語の「複雑さ」を変える

文章の他に、物語自体の「難易度」というものもあります。

まず1つは情報の「量」と「密度」

たとえば歴史小説や時代小説なら、その時代に関する用語や知識がどのくらい入ってくるのか、あるいは医療モノなら、難解な医療用語がどのくらい入ってくるか、ということです。

読者にとって未知の…しかも、馴染みがなくて難しい「情報」は、多ければ多いほど、読書の難易度を上げます。

2つ目は、構成の複雑さ

二転三転のサプライズや「どんでん返し」は、作品を刺激的で「おもしろい」ものにします。

ですが、度を過ぎれば、読者を「もう何が何だか分からない」「ついていけない」気持ちにさせます。

「どんでん返し」に「どんでん返し」が重なって「裏の裏は表」のような状況になった時、ちゃんと「今は表だな」と分かる読者もいれば、「今って表だっけ?裏だっけ?」と混乱する読者もいる、ということです。

3つ目は、テーマの難しさ

哲学的なテーマや、答えの出ない問題を扱った場合、物語は複雑で難しいものになりがちです。

また「物の見方」を単純にするか、複雑で多角的なものにするかも、難易度に関わってきます。

たとえば「主人公サイド」と「敵サイド」でそれぞれの「正義」が異なるような物語の場合…

「主人公サイド」だけに視点を絞り、そちら側だけの正義を描けば、読者にとっては分かりやすいでしょう。

一方、「敵サイド」の「別の形の正義」を語れば、物語は複雑化し、時には読者を混乱させ、戸惑わせることにもなりますが、その分、物語の「深み」は増し、さらには読者に「考えさせる」ことで、物語の印象を強めることができます。

(…ただ、そんな「考えさせ」系は、読後感がモヤッとすることも多いので、それを好まない読者はいることでしょう。そして「一方の正義だけ」のシンプルな物語を好む読者も、普通にいることと思います。)

以上の3つが主なものですが…この3つの要素は、多過ぎれば難しくなり、少なければ少ないで物語自体の魅力を削ってしまいますので「ちょうど良い加減」が難しいところです(結局、どのラインが「ちょうど良い」のかは読者次第ですし)…。

自分の場合、「テーマが複雑なら、せめて文章は難易度を下げよう」など、他の難易度とのバランスをとって、「全体的な難易度」を調整していることが多いです。

■「説明」の取捨選択

過不足のない説明」という言葉がありますが…

「説明」の「量」もまた、難易度に関わってきます。

あまり知識のない読者や、理解力の低い読者には、より細かく、より多くの「説明」が必要になります。

たとえば、世界観の説明、登場人物の「心情」の説明、状況の説明、用語や知識の説明etc…。

人間の知識量・理解力は十人十色です。

作者が「これくらいなら、説明しなくていいだろう」と思うようなことでも、人によっては説明が必要なことがあります。

説明が無いままズンズン物語が進んでしまうと、ついていけなくなり、途中リタイアされかねません。

しかし、あまりにも何でもかんでも説明を入れ過ぎると、文章が長くなり、読むのがわずらわしくなります。

また、既に充分な知識・理解力を持つ読者には「説明が過剰だ」と思われかねません。

それに「分かりきっている」ことをわざわざ説明すると「興醒め」になり、物語の魅力を削いでしまいます。

これまた「ちょうど良い加減」が難しく、「こうすれば良い」という明確な答えのない問題です…。

■読者としての初心を思い出しながら書く

小説の「難易度」を意識する際、よくやるのが、「自分が読書初心者だった頃のことを思い出す」ことです。

「小学生の頃は『有難う』が読めなかったな…」「初めて『乃至(ないし)』を見た時には、『何コレ、のじ?』とか思ったな…」など…

自分がまだ物を知らなかった頃、漢字を読めなかった頃、内容を勘違いしてしまっていた頃のことを、思い出すのです。

誰しも、最初から物語がスラスラ読めたわけではありません。

最初から、難しい内容をすんなり理解できたわけではありません。

その「できなかった頃」を思い出して、「その頃の自分」へ向けて文章を考えると、難易度が上がるのを抑えられます。

個人的に、「初心忘るべからず」は、特にクリエイターにとっては重要な「ことわざ」だと思っています。

世の中には常に「初心者」がいます。

自分の「初心」を忘れないことは、そういう「初心者」へ向けて物を創る際に、とても役に立つのです。

■難易度を読者自身に選択して欲しい

これまで様々な「難易度」について語ってきましたが…

結局のところ、難しいか・やさしいかは「作品と読者の相性」でしかありません

作者がどんなに努力して難易度を下げても、読者によっては「まだまだ全然難しい、読む気がしない」と思われてしまうかも知れません。

また、逆に「簡単過ぎて子どもだましだ。読む気になれない」という読者もいることでしょう。

作品の難易度レベルと、読者の理解度レベルが「ちょうどにつり合う」というのは、ひょっとしたら「奇跡」なのかも知れません。

…しかし、そんな「作者にとっては“読者ガチャ”」で「読者にとっては“作品ガチャ”」な状況は、あまりにもあんまりだとは思いませんか?

なので自分は「難易度を含めた“文章の好み”を、読者自身に選んでもらうことができないだろうか?」と考え、サイト開設当初からずっと「実験」しています。

具体的にはサイト掲載小説の「カスタマイズ機能」のことなのですが…

専門用語や知識(時代がかった表現)の量、あるいは文章量自体を、ある程度「調節」できるようにしてあります。

…ただ、手動で作っていますので、そんなに細かく調節できないのが難なのですが…。

(そして、そもそもカスタマイズ機能に気づいている読者自体が少なそうなのが…。)

それと、この記事の最初の方にも書いた通り「作品ごとに難易度をバラバラにする」ことで「難易度のバリエーション」を増やすようにしています。

(オムニバスのSS集だと、SSごとに難易度が違うものもあります。←大概の場合、主人公のタイプに合わせて難易度を変えています。)

バリエーションを増やすことで、読者の選択肢を少しでも増やせれば良いな…と思っているのですが…効果があるのかどうかは、今のところ分かりません。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?