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書評  闇の奥 コンラッド 不気味だ。人食い人種や黒人奴隷の死よりも、人間の病んだ心が怖い。

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作者のコンラッドが船員であったのは本書を読むまで知らなかった。
「地獄の黙示論」という1979年公開のアメリカ映画。フランシス・フォード・コッポラによる戦争映画の原作が本作らしい。
 本書は、戦争もベトナム戦争も関係なくて、もっと、前のアフリカが暗黒大陸と呼ばれていた時代の話しだ。植民地時代であり、アフリカはイギリスとフランスの勢力に分断されていたのだが、本書の舞台。ジャングルの奥地。コンゴはベルギーの植民地であり、象牙の売買を行っていた。
 その植民地支配の闇。黒人奴隷を過酷に扱う様や、象牙取引のことがモチーフの社会小説としても読めるが、何かそれだけではないようにも思えた。
 主人公はイギリス人の船長であり、彼がコンゴの奥地で現地の監督者をしているクルツという人物の救出に行くという話しなのだが、ジャングルの奥地は暗闇で、黒人奴隷たちは死にまくるし、彼らの食糧の河馬の肉は腐るし、現地人に襲撃されるのだった。
 クルツは奥地で象牙を収集していたが、精神も肉体も病んでいた。周囲の部族たちから慕われていて王のような風格である。ジャングルの奥深くで行われている闇取引。奴隷の死。クルツの精神の闇。それはどす黒く気味が悪かった。

 全体的に、白人優位な黒人差別的な傾向が強い。
 舟には黒人たちがいて、彼らは人食い人種だった。その描写が印象に残った。

連中は河馬の肉を持っていたんだ。ただ、これが腐り始めてね。魔境の神秘の臭いが鼻につうんときた。

密林の描写もおもしろい。すごく不気味だ。

前方でちゃんと開けていくが、舟の後ろでは次々と閉じていくように感じられた。まるで密林が両側からすっと歩みよって、俺たちが帰れないようにしている・・・。
森は仮面のように動かず、監獄の閉ざされた扉のように重く、秘密の知識を隠し、辛抱強く何かを待ち受けながら、沈黙でこちらを拒絶しているように見えた。

やっと、コンゴの奥地でクルツと会うのだが・・・
彼は不気味な感じだった。その描写もおもしろい。

しかし、彼の魂は狂っていた。人間の手のつかない原始の自然という魔境のただなかで、たった一人いる間に、彼の魂は自分自身を覗き込んで、何ともはや!。狂ってしまったんだ。

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」というニーチェの言葉を想起した。
その闇は奥底で鈍く光っていて、近づくと正気の人も狂気に導くのである。
社会的な事柄の闇よりも、クルツの心の闇の方が不気味で怖い。
差別や虐殺よりも、生きている狂った人間の心の方がよほど怖い。
そんなことを思いました。


2020 4/19





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