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デジタル国家・エストニアのデジタルノマドビザで、政治家ではなく『場所と方針』を選ぶ時代へ

デジタル国家といわれて、どの国が頭に浮かぶだろうか?
多くの人はGAFAMの本拠地があるアメリカを想像するだろうが、エストニアが名実ともに世界で最も進んだデジタル国家だということに異論はないだろう。

2019年5月に「デジタルファースト法」という行政手続きを電子申請する法案が成立したのは記憶に新しいが、2014年には e-Residency(電子国民)プログラムがエストニア政府の電子政府化をすすめる新規事業として開始されている。

e-Residency は非エストニア人の会社設立、税金、銀行などの GovTech(ゴブテック = 政府×テクノロジー)サービスをICカード1つでどこでもおこなえるようにするプロジェクトだ。僕自身もこの e-Residency を利用して昨年エストニアに会社を設立・経営している。

これにより会社の設立は日本にいながら数時間で完了し、オフィスの契約や支払い、税金の申請もオンラインでおこなうことができる。完全にリモートで世界中どこにいても会社を経営することができるのだ。エストニアがデジタル国家として先進国なのには、領土を奪われて国家としてのアイデンティティを失いかけた想像を絶する危機感が根底にある。

そして、このエストニアで遂に世界で初のデジタルノマドに向けたビザ「デジタルノマドビザ」を発給する法案が成立した。デジタルノマドという言葉の共通認識をとるために、ジェトロの記事を引用して補足をしていきたい。

デジタルノマドビザの発給対象は、特定の場所での就労が求められない勤務形態をとり通信技術を使用して職務を遂行する外国人となり、以下の条件のいずれかが継続されることが前提となる。

・エストニア国外を拠点とする雇用主との雇用関係
・エストニア国外を拠点とする企業に対してなされる事業活動
・エストニア国外にいる顧客に対してなされるサービスの提供と当該顧客との契約関係

引用 : https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/06/98399bac3cb986c7.html

すなわち、インターネットを使用して特定の場所にかぎらず継続して収入を得ることができる人をデジタルノマドと定義している。
さらにいくつかの補足条件として、インターネットを利用してエストニア国外の企業・雇用主に雇われている人もしくは顧客にサービスを提供する経営者はデジタルノマドとされ、エストニア(シェンゲン協定のエリア)に滞在する査証が発給されるということ、入国と滞在が認められるということになる。

移動するライフスタイルを実践し、デジタルノマドやロケーション・インディペンデント(Location Independent)と呼ばれる、特定の場所から自立した人たちにとって査証(ビザ)はどこにいても大きくのしかかる問題だ。その問題を抱えるデジタルノマドを対象とした査証なのでデジタルノマドに与える影響力も大きい。

自身もタイに6ヶ月滞在中だがコロナの影響で国境は封鎖され、更新や申請のために国外の領事館に赴くことができない。タイ政府も早急に解決しないといけない問題としてとらえており、滞在中の外国人には特別に査証の恩赦(滞在許可)が9月26日まで提供されている。

世界中でインターネットを利用して労働できる人口は増加の一途をたどり、数年後には観光業と同様に大きな収入の柱とする国もあらわれるだろう。日本でもアドレスホッパーやデュアルライフというモバイルリビング(移動可能なライフスタイル)がメディアを中心にブームを起こし始めたのは記憶に新しく、リモートワーク・テレワークに完全移行し始めた企業もでてきている。自宅で家族と時間をともにしながら労働することが可能(改善のよちはあるが実現できる)ということを経験した人たちは、職場から離れた場所に広い家を買い、QOL(クオリティ・オブ・ライフ = 生活の質)を向上させようと不動産市場も活性化している。

筆者は2015年から移動可能なライフスタイルを実践し、2019年には結婚し妻と二人で定住先のない移動する生活をしている。今のようにリモートワークが企業で導入されるのには3〜5年で時間が必要と思っていたが、コロナの影響でモバイルリビングをとりまく環境はここ数ヶ月で2〜3年に相当する進展をみせている。
これからの1〜2年で企業はオフィスを縮小し働き方は変わり、学業にテクノロジーが取り込まれ経済による知識格差は大きく縮む。さらに生活する場所の制限はなくなり、自分たちのライフスタイルにあった場所や自治体を選ぶようになり「場所を選ぶ時代」に突入するだろう。政治家ではなく「実際にどのような資源をもっており、税金をどのように活用するか」という本質にフォーカスして人が移動し始める。

あと10年もすればフォートナイト(世界中で人気のオンラインゲーム)で外国人とコミュニケーションをとりながら幼少期を過ごした子供達が社会にでてくる。その頃には、ご近所さんとしかお話しない親の世代を昔話のように笑って話す日がくるはずだ。





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