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Silvio Rodriguezの音楽

キューバのシンガーソングライターにSilvio Rodriguezという、超有名な人がいる。自国は元より、ラテンアメリカ圏全体に広く知られており、長い音楽人生で多くの曲を生み出した。彼は作曲し、歌詞を書き、ギターを弾きながら歌う。音楽は秀逸で、ギターの腕前も素晴らしく、美しい隠喩が散りばめられた歌詞は、虜になる。

数年前、キューバに滞在した時も、通りで、公園で、泊めてもらった家で、たくさんの人が彼の音楽を演奏しているのを聴いた。Playa Girónという場所を歌った曲があるのだが、その田舎街にまで滞在してきた。また別の数年前、メキシコへ勉強に行った際には、授業で歌詞を取り上げてくれた。難しい比喩を解説してくれ、飛躍的に歌詞が理解できるようになった。そして、ダラダラと続けていたスペイン語を、この詩の隠喩を味わえるまでに突き詰めようと決意を固めたのも、ずっと昔、何かの拍子で彼の音楽を聴き始めた時である。それほどまでに、詩に埋め込まれた言葉は、宝石のような美しさを湛えている。

一聴すると、ラブソングのように聞こえたりするのだが、実は祖国への愛や人類愛、複雑なキューバの歴史の中で倒れた人々への敬意、人生への讃歌など、それはもう幾重にも比喩が織り込まれている。それを解き解すように、何度も聴きたくなってしまう。非常に詩的で哲学的なものから、政治的、社会的なメッセージを謳ったものまで、歌詞は幅広い。

1946年生まれの彼の音楽は、キューバならずラテンアメリカ圏全体の社会運動と共にあり、軍事政権下、多くの市民犠牲者を出してきたラテンアメリカ諸国で、象徴的な役割も担った。
(なお、日本ではあまり触れられない、20世紀後半のラテンアメリカの歴史に関しては、田村さと子著「南へ」という本が非常に印象的だ。文学者の目から見た、激変する時代と、弾圧の中で戦う詩人たちとの交流を描いたノンフィクションだが、実際に身を置いた著者でなければ書けない、臨場感のある、情熱を感じる本だ。)

Silvio Rodríguezは勿論、音楽も素晴らしい。メロディだけ聴いていても飽きないだろうし、ギターだけ聴いていても成り立つ。その澄んだ声にも引き込まれる。最初に聴いた時は、歌詞の10%も理解できなかったように思うが、それでも、音楽そのものの深さに惹かれて、次々聴かずにはいられなかった。つまり、歌詞が分からずとも、美しいものは美しいのである。ひょっとすると、例え言語を知らなくても、脳は何の感情を歌っているのか、無意識的に感知できるのかもしれない。歌とはそういうものだ。

個人的なおすすめは、Te doy una canción, La gaviota, Unicornio, Ya no te espero, A dónde van, Por quién merece amor, Ojalá など。

全く押し付けがましい音楽ではないので、興味のある方は、是非聴いてみて頂きたい。


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