見出し画像

双眼鏡でほしくんを眺める、むすめを見ながら。【8/10巨人戦●】

「明日の先発、誰でしょう!」むすめを迎えに行ったとき、真っ先にそう聞くと、むすめはちょっと緊張した顔をして、「ほしくん・・・?」と、言った。「ぴんぽーん!」と言って、私とむすめは小さくハイタッチをした。

むすめは、しばらくしまっていた24の背番号が入ったクルーユニフォームを出してきて、自分のバッグに入れた。お気に入りのレディースユニフォームじゃなくて、そっちを持っていくことにしたらしい。

オットと息子はサッカーの合宿に出かけ、むすめと私は二人でドームへいくことになっていた。今季初めて、むすめはほしくんに会えるのだなあと、なんとなくうれしくなった。

ほしくんは、先頭打者の亀井を打ちとった。私とむすめはまた小さくハイタッチした。オレンジだらけの、その空間で。だけどそのあと制球が定まらず、四球が続いた。終わってみれば、ほしくんは6失点で2回途中にマウンドを降りた。

うしろの巨人ファンのお兄さんたちは、「あのピッチャーぜんぜんダメだね、ストライク入らないし」と、言っていた。

きっとその言葉だってむすめの耳に届いていた。むすめはその間のほとんどをずっと、自分で持ってきた双眼鏡を使ってほしくんを眺めていた。(一方の私はもう見てられないとスマホを眺めていた。へなちょこである)

双眼鏡を覗きながら、「ほしくんかとおもったらむらかみくんだった!!」と、むすめは笑って教えてくれた。そしてそのまま、ほしくんはマウンドを降りた。

むすめの小さなその胸に、「悔しい」という感情は、まだわかないだろうな、と、たぶん思う。だけどその、巨人ファンの大きな声援の中で、マウンドを降りるほしくんの姿を、むすめはとにかくずっと眺めていた。

ほしくんがマウンドを降りるのを見届けて、双眼鏡をバッグにしまったむすめは、そのあと試合中にめずらしく、ずっと本を読んで過ごした。試合が終わった時、ようやく顔を上げて、「まけちゃったね、でも、2てんずつ、4てんもとったね!」と、いつものように笑った。

生きていると、たくさんのことが起こる。いいことも、わるいこともある。うれしいことも、かなしいことも。そして誰かを好きになることも、好きじゃなくなることも、誰かと出会うことも、別れることも。そしてそのたびきっと、たくさん傷ついてゆく。

親としてはもちろん、我が子に傷ついてほしくなんてないけれど、だけど痛みが人を優しく強くしていく、それは自分の人生を振り返ればわかることだ。だから、傷つくことを、あらかじめ避けさせるようなことはしちゃいけないんだよな、と、思う。大好きなほしくんが、たくさん打たれてしまったところを、目の前で見た時も、そんな時も、私は隣に座ってそっと、同じ方を見るだけだ。ねだられて「豆乳いちごタピオカドリンク」(450円)くらいは買ってあげるけど。

きっと同じようにほしくんを見つめていた人がいる。ご家族がいて、ファンの人たちがたくさんいる。そういう思いを抱いて、ほしくんはそこに立ち、そしてそこを降りる。いろんな痛みがそこにはある。

だけどそれが、必ず誰かを、強く優しくするのだと、隣のむすめを見ながら私は思う。

みんながんばれ、(戦うべき場所で)戦うことからはどうか逃げないで、その痛みがいつか、強さになっていきますように。


ありがとうございます…! いただいたサポートは、ヤクルトスワローズへのお布施になります! いつも読んでいただき、ありがとうございます!