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「誰かのため」と心から思えるそんな日に【8/14横浜戦◯(はなまる)】

8回表、カツオさんが伊藤裕季也からホームランを打たれた時、一塁側からは、今日一番の大声援と拍手が送られた。それはとてもとても、あたたかい拍手だった。

ノーノーを達成した瞬間じゃない。ノーノーが破られた瞬間だ。だけどヤクルトファンは、その瞬間に、大きな大きな拍手を、小さな大エースに送った。

そういうところだ、と、私は思った。ヤクルトファンの、そういうところが大好きだ。

その拍手に応えるかのように、カツオさんは、そのあとの打者をしっかりと打ち取った。カツオさんは8回を投げきり、許したヒットは1本だけ、たった1失点で、マウンドを降りた。

そういうところだ、と、私はまた思う。カツオさんのすごいところは、こういう時に、1本を許してノーノーを逃した後に、しっかりと後続を打ち取れるところだ。

「誰かのために」とは、結構よく口にする言葉かもしれない。家族のため、ファンのため、愛する人のため。だけど実際のところ、本当に「誰かのため」に頑張れることなんて、ほんのわずかだ、と、私は思っている。

人はみんな、孤独だ。そして、だからこそ基本的には自分勝手だ。でもそれくらいでいい、と、私は思っている。自分のためにすることが、結果的に誰かのためになるのであれば、それに越したことはない。

だけど「カツオさんのため」というのは、今シーズン、日を追うごとに、ジーズンが進むごとに、みんなが強くしてきた思いかもしれない。ファンも、チームも。

どれだけ好投しても勝ちがつかないことがあった。すぐそこに迫っていた勝ち星が、目の前で消えていったこともあった。でもカツオさんはどんな時も言った。

「チームが勝ってよかった」「こういう投球を粘り強く続けていけば勝ちにつながる」と。

カツオさんの日々の投球は、そしてその姿勢は、確実に誰かの心を動かすものだった。

それがきっと今日に繋がったのだろうと思う。今日、カツオさんはスコアボードに0を刻み続け、打線は打ちに打ちまくった。そして守りに守った。誰も、誰一人、エラーもしなかった。最後の最後、ホームランを打たれた時、センターの上田はフェンスによじ登ってその打球を取ろうとした。それが、みんなの気持ちの全てだった。上田のその姿に、みんなの思いを見た。

そう、上田だ。上田に、私は見どころだらけのこの試合で、もう一つ、こっそり泣いてしまったところがある。

7回、試合は14点差がついていた。エイオキが下がり、ココちゃんが下がり、てっぱちが下がった。ベテランに代わって若手が出場するその場面で、荒木と上田は出てきた。

たいしとコータローが続けてアウトになった後、荒木はフェンス直撃のツーベースを放った。そして続く上田は、しっかりヒットを放ち、荒木はホームにかえってきた。

もう、若手と呼べる年代じゃない。中堅と呼ばれる年齢だ。でも任される仕事は、スタメンで試合に出ることばかりじゃない。代打であり、代走であり、守備固めであることが多い。だけど二人はいつも、その場その場で、任された仕事をしっかり全うしようとする。19歳の村上くんにせがまれてチューをして送り出す。いやちょっとそれはよくわからないけど。

若手ばかりになったそのグラウンドの上で、ぜんぜんくさらずに、それぞれの仕事をこなし、そしてカツオさんの好投にも必死でこたえようとした。二人が昨秋の松山で、たいしやコータローや塩見たちと一緒に、鬼キャンプの鬼練習をしていたのを思い出す。

その時その時で、任される仕事がある。それはとても華やかな仕事というわけではないかもしれない。でもその仕事を一つ一つ、しっかりこなしていくことは、すごくすごく大切なことだ。それは、とてもかっこいい、紛れもなく、プロの仕事だ。その姿勢に、35歳の私は思わず泣いてしまう。

たくさんの人たちの思いが、しっかりと見えた試合だった。誰かの姿勢に、心がグッと動かされた試合だった。

それぞれの場所でがんばる人がいる。お立ち台に立つ人も、立たなくても、そこが目立つ場所でも、そうじゃない場所でも、それぞれの場所で。

私も頑張ろう、と、今日も思う。カツオさんみたいに、いい時も悪い時もそこで戦い続け、自分としっかり向き合い続け、39歳でなお成長し続ける選手みたいに。エイオキみたいに、状況をしっかり見極めて、その場で最高の仕事ができる選手みたいに。そして、荒木や上田みたいに、いつだってくさらずそこで任された仕事がしっかりできる選手みたいに。

生きていれば、いいことも、悪いこともある。今年のヤクルトは、ばかみたいによく負ける。でも、こんな日だって、あるのだ。たくさんたくさん笑って泣いて、心動かされる日もある。それは紛れもなく、日々の希望そのものだ。

夏の夜の神宮の風はいつだって心地よい。私はこれからもここで、この人たちを見続けていたいなと今日も思う。いい時も、わるい時も、いつだって。どんな時にもそこには、希望のかけらがたくさんつまっているから。


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